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リリスが冷の方が上だと言う言い方をしたのを受けて、ボーガが笑った。
「あはははは! ゴーレム様が冷に負けると言いたいのでしたら、勘違いもはなはだしい。本気でゴーレム様が戦えば冷などカスですから」
「負けるとは限らない。サイクロプスとガーゴイルにだって勝てたんだ。冷は戦いに関してだけは、天才的なものを持っている。それをガーゴイルはわかっていなかった。きっとゴーレムを探しているはずだよ。そして戦いを挑む。負けるかもしれないけど、戦いに行くタイプなんだな」
「なぜ、負けるかもしれないなら戦う。戦い以外に選択肢もあるのに。わざわざ死にに来るようなものだろう。そんなバカな者などいるわけない。いたら見てみたいものだよ」
ゴーレムは軽く笑って言った。
少しも疑いはなかった。
「そうですわ。ゴーレム様に戦いを挑むなどバカな者のすること。自殺行為です」
「冷は……あいつは違う。自殺行為なんかじゃない。楽しみなんだよ」
「はぁ? 楽しみですって……。それこそバカ者でしょ、あはははは」
シールドは笑いが止まらないで、冷を散々にバカにした。
リリスは普段は冷をバカにしている方であり、尊敬などしていないが、この時ばかりは頭にきていた。
どうしてか冷をバカにされると腹がたってきて、なぜかはわからないが、無性にムカついた。
リリスがムカついた時に、冷は近くに来ていた。
魔物が大勢集まっているから、魔力を感じ、この場に吸い寄せられて来たのだった。
詳しい地図もなく発見出来たのは、冷の天才的な魔力を感知する能力のおかげであった。
(この方向にやたらと魔力を感じるよな。来てみると俺の直感は的中してたよ。むちゃくちゃな数の魔物がいやがる。気持ち悪いよな。どう考えてもゴーレムがいるに違いない)
冷は恐れることなく魔物の群れに接近する。
並みの冒険者なら、おじけづいて近寄りたくないと思うのだが、冷は逆に近寄ると、どうやったら簡単に倒せるかを思案する。
(う〜ん、数はかなり多いよな)
冷が近寄ると魔物の1匹が冷の存在に気がつく。
「ワォ〜〜!」
魔物がびっくりして遠吠えをすると、他の魔物達もいっせいに冷を見定め、敵だと瞬時に判断した。
「あれれ、もうバレちゃいました」
「ワォ〜〜!」
魔物達は冷に向かい容しゃなく連続攻撃を送った。
それは怖さからであった。
魔物は相手の魔力をはかる能力が優れており、ひと目見ただけで、冷が尋常じゃない魔力を持ち得ていると察知した。
魔力の容量が魔物が知り得る範囲ならいいが、それを遥かに超えた容量を冷は有している。
怖くて脳の回路が麻痺してしまったのだった。
魔物達は、恐怖から逃れたくて冷に襲いかかる。
迎え撃つ冷は冷静になりスキルを選択する。
数が数なだけに、殴るのや蹴るのではきりがないと直感するとバアちゃんからの声がして、
((これだけの相手は大変じゃな。無数にいすぎて効率が悪いな))
(普通の戦いかただと、時間がかかるのはわかる。効率が悪いか……。効率良い方法はあるかな)
((スキルが一番いいだろうよ。スキルも増えてきて、どれを使っていいのか難しくなってるぞ))
(うん、それは俺も感じているよ。そう言えば最近習得したスキルで未使用のがあった。しかもナギナタを使用するものだから、バアちゃん頼むぜ)
((また寒い奴か))
(いや今回は違う。大車輪ってのだ。きっと気に入ってくれると思うよ)
((強そうな名前のスキル、協力しよう!))
バアちゃんから協力すると言われれば頑張るしかない冷。
スキルはラジッチとの対戦で得たスキルの大車輪を選択してみる。
これはまだ実践でも未使用なので、どの程度使えるかわからないのだが、ぶっつけ本番で使ってしまうあたりが冷の天才的な所である。
大車輪のスキルを使いナギナタを振るうと、回転し始める。
魔物はナギナタの回転に巻き込まれるようにして、吹き飛ばされていった。
次々と魔物は飛ばされても回転は速度を落とすことはない。
魔物とぶつかり続ければ、ナギナタの回転はその分負担になり、速度は落ちるはずであるが、全く落ちずに続けた。
(おお〜ナギナタがハンパなく回転してる。これなら大群の群れも時間をかけずに退かせるな。ラジッチはこんな便利なスキルを使っていたのかと思うとよく俺は勝てたよな)
ラジッチに敬意を表している間に魔物は猛烈に吹き飛ばされていき、歩くのも無理なほどであった冷の前は、切り開かれていくようにして行く道が開かれていった。
冷はナギナタの回転を止めることなく進んだ。
(向こうに丘が見えるけど、丘の上に人影があるな。何人かいるみたいで、もしかしたらゴーレムだとして、リリスも一緒だろう。あそこを目指して進むとしよう)
冷は丘の上を目指して突き進むことにした。
魔物達の様子が変だなと気がつくボーガは丘の上から見て驚いてしまう。
「大変ですゴーレム様、魔物達が、魔物達が、飛んでいますっ!」
「なんですって……。飛べる魔物がいたのでしょう」
ボーガは見たまま伝えたがゴーレムには伝わっていなかった。
「違う、違う、見てくださいアレを」
「なんだって飛ぶのです……か?? なんだこれは、まるで台風が発生したみたいではないか!」
ゴーレムは魔物達が見える位置に行ったら、まるで台風が来たように見えた。
「あの中心に誰かいます!」
「誰だい、あの不審な者がきっと魔物達を吹き飛ばしているのだ。見ておいでボーガよ!」
「はい、見てきます!」
ゴーレムに不審者を見てこいと言われてボーガは丘から下に降り立つ。
着地してみてボーガは危険を感じ取った。
なんだこの異様な雰囲気はと。
前方にいて長い武器をとてつもない速度で回転させていたのを見て、台風のような原因が理解できた。
「あなたは冷ね」
「君は、ゴーレムの仲間だろ。リリスを取り戻したい。返してくれれば満足だよ」
(ギャンもそうだけど、ゴーレムの仲間はレベルが高いな。とても可愛い。話し合って済めば戦う必要ないんだよ。こう言って通用するとは思えないけど……)
「ボーガと言います、勘違いしてもらっては困る。あなたが怖くないのです。リリスを返す取り引きして、こっちはなんのメリットもない。ひよっとして、ここにいるということはギャンは負けた?」
ボーガはギャンが負けたと考えてしまい、悔しさが込み上げてきていた。
「ギャン……ああ、あの子なら俺と戦って負けたよ。今頃は王都に行ってるところだろうな。大丈夫、命に別状はないから」
(ギャンの仲間だから、気にしているようだ。となるとこの子も戦いのセンスはあるとみていいな。ギャンはスピアの使い手として面白みがあったから、このボーガはどうかな。なにやら弓矢らしきものを持ってますが、弓矢で戦うタイプかな)
「ぬぬぬ……、よくも仲間のギャンを……許せぬ。私とも戦え冷!」
「話し合いはダメですか。戦えって言うなら俺は逃げはしないよ。戦えってあげます」
ボーガはギャンの件で冷を倒すと決めた。
冷からしては話し合いはでの決着は無しとなる。
(戦いになりますか。弓矢となると俺も戦いの戦術を考えておかないと、痛い目にあうよな)
ボーガは自分の武器である弓矢を構えてみせた。
巨体な弓で、通常の弓と比べてもかなりの大きさ。
それだけに一度放てば、矢の破壊力は大きくなる。
鎧や盾も簡単に貫く。
冷の姿を確認してまだ距離はあった。
距離があるほうが弓の戦闘には有利で、接近すれば不利となる。
ボーガはなるべく距離をとりつつ、矢を放った。
矢を放たれて冷はそこで考える。
回避して矢を避けるか、それとも矢を防御するかを。
防御するなら水の壁スキルがある。
しかし矢の大きさと向かってくる速度は異常なレベルだと判断して、回避することした。
(ヤバイかもなこの矢。下手に防御とかしないほうが良さそうだ)
攻撃回避のスキルを発動し矢を避ける。
寸前で見切り矢を避けるのに成功。
「避けましたか……」
「危ねえなその矢」
「これはどうですか?」
ボーガは一発目は避けられてショックはあったが、それは想定内である。
ギャンを倒した相手なら十分に避けると考えていた。
そこで二発目は連発することにした。
五本の矢を連発する。
それも速射であり、目にも止まらぬ早さといっていいレベルで、冷に放たれる。
「おいおい、次は五本まとめて来るのかい! ずいぶんと厳しい弓使いだな!」
(五本もか、それも連発の速射。速いな。かなり訓練しているのがわかる。でなければ出来ない芸とうだろう。思わず見とれてしまうが、それどころじゃないよな。どうするか、回避するにしても、五本を回避するのは難しいかな。ここは、防御としよう。ナギナタで防御する)
ナギナタを構えて矢を防御する。
普通の武器なら壊れてしまうことも考えられる。
ボーガはナギナタなど矢でへし折ってやると思った。
ナギナタと矢が衝突するのは避けられない。
どちらかが負けて弾かれる結果となるのは必至であった。
ナギナタを振るいまたも冷はスキル、大車輪を活用していた。
その為、ナギナタはぶんぶんと音を上げて回転しだして回転し、丸い円を描いた。
矢が衝突した。
矢はごう音とともに吹き飛ばされていく。
それもまとめて五本の矢を吹き飛ばした。
いとも簡単に弾かれる形となった矢を見て、ボーガはショックを受ける。
「まさか、矢が、五本の矢をこうもあっさりと弾くとは……。悔しい、悔しい!!」
「矢の撃つ速度、それに狙いところといい、とてもいい線いってるよボーガ。でも俺の剣術が勝っていただけだよ」
(冷静に考えて大車輪を活用したのが成功であった。しかし大車輪がなかったら、けっこう危なかったかもな。それくらいキツい攻撃だよ)
冷は完全な防御に成功したが、ボーガの実力も認めていた。
それもギャンと同じくかなり評価は高かった。