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安心しきっているゴーレム達。
冷とガーゴイルは、めいいっぱいに速度を上げていた。
少しでも早くにリリスと再会したいから。
その思いが飛行速度を増すエネルギーとなった。
「疲れはない?」
ガーゴイルはスキルの使い過ぎを心配していた。
「大丈夫さ。俺ならば心配は要らない。もっと速度を上げてもいい。ところで目指す地点にはまだ距離はあるのかい?」
(けっこう長く飛行している。ここまで馬車だとどれくらい時間がかかるのやら。飛行なら相当に時間の短縮しているよな。山道も関係ないし)
「見て、あの谷を」
「大きな谷だな。これは飛行してないと厳しい。向こうには行けない」
ガーゴイルが指した方向には深い谷間があった。
ガーゴイルの説明通り、冷だけでは向こう岸に行くのは不可能とわかる。
(これは大きな谷だよな。とてもジャンプしても無理。しかも深い。落ちたら死ぬな。説明だとゴーレムは向こう岸にいる。あの先にリリスがいるってわけだ)
「ゴーレムは飛行できる手下の魔族によって運んでもらい向こう岸に行ったのです。ほぼ人族は行ったことのない未開の地です。気をつけて」
「早く向こう岸に行きたい。魔族の気配はどうかな、気づかれて攻撃してくることもあるでしょ」
(ゴーレムが近くにいる。となれば魔族や魔物がいても不思議はない。すでに気づかれていると思った方がいいよな。飛行だけに集中するのではなく、周りの気配にも注意しておこう)
「注意するのに、こしたことはありません。目立つと思うから、着地して徒歩に切り替えましょう」
「もう近いの?」
「近いですよ。徒歩で十分かな」
「徒歩で行こうか」
ゴーレムに近いとわかり徒歩に切り替えることに。
飛行を押さえて地上に低空飛行し、速度を落として、着地した。
着地は問題なく成功した。
音もなるべくさせないように配慮する。
ガーゴイルの指示の元、徒歩で向かいつつあった時に、冷はガーゴイルの行動に奇妙な点を発見した。
なにか落ち着かない様子さえ感じる。
(どうしたのだいガーゴイル。俺には変な風に見えるけど。異変を察したのか。それともまさか俺を裏切ってるとか? それは無いよな。ここまでこさせておいて、俺を罠にはめていたなんてオチは。でも歩き方も変だし、妙な感じする)
そこで冷はガーゴイルに話しかけてみると、
「なぁ、さっきから変な感じするよ…………本当にゴーレムはいるのかこの先に…………まさかだとは思うが…………」
「はい、居ます…………でもその前に確認しておきたいことが…………」
「言ってみなよ…………」
「その、言いにくいことですが…………」
ガーゴイルは話しずらそうに言う。
「やはり、俺を騙していたのか?」
(その言い方だと、俺を騙していたとなるよな。そうなるとかなりヤバイ)
「騙していたわけではないのです、ただ冷にもう一度、胸を触って欲しいと思ったので……。それで変な感じに映ったのでしょう」
「ええつ、この状況で触れってあかしいでしょ!」
ガーゴイルは冷に近い位置に来ると、胸を強調してみせる。
とても大きな胸が冷の視界に釘付けとなった。
「ななっ!! こんなとこ魔物に見られたらどうする?」
「見られたら始末すればいいでしょう」
「簡単に言うね。わかったよ、触ってあげるよ」
(なんだこの展開は。俺としては触りたいのはもちろん。とても魅力的な胸をしていますから。触りたくないなんてあり得ない。でも一刻も早くゴーレムの所に行きたいのですよ。悩ましい瞬間だけど触りたいってのが上なんだよな。俺って変かな)
「お願いします」
結局、冷は触ることとした。
偉そうなことをいっても、触りたい気持ちには勝てなかったのだった。
情けないと感じる。
「ううっ〜」
ガーゴイルは小さな声をあげる。
感触は以前に触っていてわかっていたが、とても気持ちいい。
少しの間、触っていた。
「ありがとう。満足しました」
「いやいや、俺のほうこそ、満足ですが」
「本当に、嬉しい」
「そ、それよりもゴーレムの件を」
ガーゴイルは触ってもらい、うっとりとした顔になった。
魔人もこの点は普通の女性となんら変わるところはなかった。
(ガーゴイルはヤケに積極的なんだな。魔人は全員が積極的なのかもしれない。俺的には嬉しい限りだが、アリエル、リリスに見られたら攻められそうな気する。魔人にも手を出すのかと。そこの点はあまり考えないようにして、問題はゴーレムだろう。どうやって倒すかだし、素直にリリスを返してくれる可能性はゼロとなれば、どちらかが負けるまでの勝負になるな。約束ではガーゴイルは道案内だけといってあった。ゴーレムを裏切れないのも気持ちはわかる。俺が単独でのバトルと決まったわけだ。それにしてもガーゴイルの胸は素晴らしいです。また触らせてくれないかな〜)
「もう近いと思う。約束の通りに私は案内だけとなるけど……」
「わかってる、ありがとうガーゴイル。感謝してるよ。ここまででいいよ、後は俺だけで進むから」
「ここでお待ちしてます。一緒に帰りましょう」
「そうしょう」
ガーゴイルはここで冷とはお別れとなった。
気持ち的には寂しいが、ゴーレムにも配慮した精一杯の協力。
お別れをして冷は森の中へ進んでいった。
一方、ゴーレムは自分が従わせている魔族や魔物を全て集める。
いまだに冷が接近しているのを知らない。
全体集会を開くとして、シールドを呼んだ。
「おいシールド、魔物をこの場に全て集めるのだ。そこでリリスを全員にお披露目させたい。直ぐに準備してくれ」
「わかりました。今すぐに準備します」
シールドは言われたままに魔物を全て呼び寄せる。
魔物はあらゆる姿をしている。
獣から剣士まで揃っていた。
ゴーレムは数多くの魔物を従わせていて、ガーゴイルのように単独に近いタイプではなく反対である。
リリスを呼び寄せると、
「これからあなたをみんなの前に紹介しますから。一言でいいから挨拶をしてくれ」
「なんで?」
「なんで?ってことはない。魔族を結集させる力があなたには備わってるのだよ、まだ気づいていないだけで」
「そうかな? 一言でいいのだろ、わかったよ」
「では、こちらに」
ゴーレムに促されてリリスは進んだ。
土で出来た丘の上に立っていて、よくわからないまま丘から下を見下ろす。
下には物凄い数の魔物が集まり、リリスを見ると、ウォ〜〜と叫び声があがる。
丘の上にはゴーレムとリリス、そしてシールドとボーガもいる。
ゴーレムが大声で発声した。
「さぁ皆のものよ!!! 集まってもらったのは、みせたい者がいるからだ。古き時代の魔族の頂点にいた一族である淫魔の末裔リリスであ〜〜〜〜〜る!」
「ウォ〜〜」
歓声を聞きリリスはとんでもない所に来たなと実感する。
「あの〜私がリリスだ。従いたい奴だけ従え! 面倒だから」
「ええつと……もっと他にあるよね、例えば魔族の頂点に〜とか」
シールドはあっけにとられた形となった。
「知るかよ、別にやりたくてやってるわけじゃない。無理矢理だから、こうなるんだよ。だいたいこんな形でいいよな。それに魔物に私の言葉が理解してるのかも疑問なんだよ!」
「とりあえずリリスをみて知ってもらえばそれでいい。淫魔がいるとなれば魔物どもにも変化は現れるだろう。古き時代の記憶が呼び起こされてな」
ゴーレムはシールドとは逆に、上出来とリリスを褒めた。
披露すれば効果があるとしたのは、魔物には覚醒することもまれにある為で、魔力が著しく増大することもある。
リリスは魔物が興奮しているのがわかって、自分にもこんな特質があったのかと不思議に感じた。
だがどうにもリーダー的な存在になれと言われても実感がわかないでいて、無理だろうと思う。
シールドには本当にリリスは本物の淫魔なのかなと疑問に思われたが、ゴーレムが確信しているし、魔物も興奮しているので、あまり疑わないようにした。
ボーガも同じく不安に思えたので、リリスを観察することにした。
少しでも不審な動きがあれば、嘘の淫魔と断定するよう決めた。
「ゴーレム様、リリスは本物の淫魔なのでしょうか。私にはどうも疑わしく思えますが?」
「大丈夫、これからはここで一緒に暮らしてもらう。じきに慣れてくるだろう、魔族から離れて暮らして人族と生活していたので、それも影響しているのだろう」
「わかりました。疑ってすみません」
「わかればいいのだよ。集会は成功としよう。今日は魔族が復活する記念日とする。新しい時代の幕開けだ。人族など根絶やしにしてやろう」
「王都だけでなく国を全て根絶やしに。ゴーレム様なら達成できます絶対に」
「この時を待っていたのだよ私は。ずっと静かにしていたのは、チャンスを待っていたから。今は、絶好の時だ」
「絶好の時です!」
シールドはゴーレムへの忠誠を誓った。
ボーガも横にいて、頷づいた。
魔人ゴーレムが自ら立ち上がり、人族を駆逐する宣言でもある。
「おいお前らさ、王都を根絶やしとか言ってるけど、冷がいるだろ。アレは強いぜ。どんどんと強くなってる。魔族の復活とか言うなら冷との戦いも避けられないよな。どうなんだ?」
リリスはゴーレムに対して冷の名前を出した。
リリスには必ず冷は生きているし、ゴーレム。倒す気がしてならなかったから。
それはリリスの感の鋭さかも知れなくて、すでに冷は手前まで来ていたのだった。