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冷は牢屋のひんやりとした通路でビジャ姫を待っている。
無理難題を押し付けたのはかわいそうであったかなと反省していた。
(よく考えると無茶な話をしてしまい、国王に怒られてる場面もあり得る。失敗したかな。俺は自分のことしか見えてない時あるから、謝っておきたい)
そこへビジャ姫が走って戻ってきて、
「許可はおりました。ガーゴイルは外出可能です。良かったですね」
「本当ですか!! よく国王が許可してくれたよな、絶対に無理だと思ってて!」
(嘘みたいだよな、娘の意見には聞く耳を持つのかな)
「だけど条件がついたの。ある条件が、それはガーゴイルを外出させるのに私が考えた案でお父様は受け入れようとなったの」
「その案てのは?」
(案て気になる、国王に納得させるにはかなりハードル高い)
「ガーゴイルが外出している間は、私が牢屋に入ってますていう案です。つまり私が身代わりになるの。それで認めてくれました」
ビジャ姫の自分を犠牲にする案には、とても冷は受け入れようと出来なかった。
「無理無理だよ、ビジャ姫をこんな牢屋に入れるなんて俺には考えられない」
(そりゃ無理ってもんよ。姫を身代わりなんて)
「でもリリスが待っている。ガーゴイルを外出させるにはこれしかない。私なら大丈夫だよ。必ず戻ってきてくれるでしょう」
「…………いいのかい、君が犠牲になるけど」
(辛くなるのに笑顔で言ってくれた、俺としては悩むよな)
「はい、待ってます帰るのを」
「俺は必ず帰ってくるよ。それまで身代わりになっててくれ。約束する」
(姫がここまで決意してくれたのなら、期待にこたえたい)
冷が姫と約束したら、周りの兵士は動揺してしまう。
「ビジャ姫っ! そ、そ、それは無理ですよ。姫を牢屋にいれるなんてとてもできませんて!」
「いいの、これは私からの命令です。今すぐにガーゴイルを牢屋から出しなさい。そして私を牢屋に入れなさい!」
「………わ、わかりました……しかし」
兵士はとても申し訳ない顔でガーゴイルを牢屋の外に出した。
ビジャ姫は何の抵抗もなく牢屋に。
「姫、本当にすみませんです」
「いいの」
兵士は泣きながら鍵を掛けた。
「姫と交換てことね。もし牢屋に帰らないと姫は出れない。交換て面白いかも」
ガーゴイルは変則的な条件に面白みを感じていた。
姫とガーゴイルが入れ替わったのを知りサイクロプスは意外に思い、ガーゴイルに言う。
「まさか君がゴーレムの居場所を教えるとは。冷が好きだとか聞こえたぞ」
「ええつ、聞こえたの……。言ってしまえば、好きになったみたい。冷との戦いの最中にはわからないけど、今は好きになってた。それで冷に協力したいとなったの。でもゴーレムは友達。裏切るわけにはいかないでしょ、悩ましい。だから、居場所までなら教えることにして、それ以上は協力しない」
「ゴーレムに気を使っての配慮か。まぁ俺には関係ない。君がどうしようとな、それにしてもビジャ姫が協力するとは意外だ。なぜ姫が協力的になる」
「知らないわよ」
「きっと君と同じく冷が好きなのでは?」
「まさか!!」
「それしか考えられないだろ。冷静に考えて」
「う〜ん、冷静にか……。そうなるとライバルでもあるのか。手強いライバルとなりそう」
「俺は牢屋にいる。ゴーレムには勝てないだろう冷では」
「……それでも彼に協力してあげたい」
ガーゴイルは決意の意思をみせるとサイクロプスは否定はしなかった。
あくまで中立的な立場で見守るとした。
冷は牢屋に入った姫に向かい、
「じゃあビジャ姫、必ず戻って来ます。それまで待っていてください」
(国王の娘が牢屋に入るなんて国民に知られたら大ニュースだろうな。大騒ぎでは済まないよ。それにしもビジャ姫の覚悟には恐れ入った。俺も気合いを入れてゴーレムへ向かうとしよう)
「ゴーレムは強いかと思いますが、生きて帰って来て!」
ビジャ姫は手を振り見送った。
城の内部では尋常ではない慌ただしさになる。
ガーゴイルと冷は急いで城から外へ、兵士はガーゴイルの妖艶な姿を見るや恐怖した。
まるで化け物をみた目であった。
美しさと破壊的な美を持つガーゴイルに。
城の門に到達し、そこでスキルを使おうとして。
(よし、城から出たので飛行としよう。ガーゴイルの翼のお出ましだ)
使用したスキルはガーゴイルの翼。
冷の持つスキルストレージから選んだ。
冷が体を変形させるとガーゴイルは信じられない顔でみつめる。
「ガーゴイルの翼とか言ったわね。羽が生えてるのは確かなようだけど、本当に飛べるのかしら。飛行してみてよ」
「驚ろくなよな」
冷はまだ信じてもらえないので、スッと上空に飛行してみた。
「おおっ! 本当に飛べるとは。人族で飛行してるの初めて見ました。一刻も早くゴーレムのいる地点に向かいましょう、ついて来て!」
「頼むよ!」
ガーゴイルも空中に飛行して冷に並ぶと速度を上げて移動していった。
冷も置いていかれないように飛行する。
(速いな本物は、置いていかないで)
いざゴーレムを目指して飛行していった二人。
ビジャ姫は牢屋にいて悲しくはなかった。
むしろ幸せすら感じていた。
早く帰ってくると信じているし、父親の国王から軽蔑されてでもしたのを後悔はない。
冷がいる地点から遠く離れた谷間の更に奥。
深い森があり、人族は近づけない。
ゴーレムはシールドとボーガと満足していた。
リリスを手に入れて。
目指しているところはリリスを淫魔として魔族の頂点にし、再び魔族の復活であった。
現在は魔族はとてつもない力はあっても、その度に人族から有能な冒険者が現れて妨げられていた。
ゴーレムはリリスを利用しようとしてる部分は否めないが、リリスはやる気はまるでなかった。
「ここは?」
リリスがゴーレムに疑問を投げる。
どこだか見当もつかない。
「リリス、ここは魔族しか住まない土地。淫魔にはぴったりな場所である。私と一緒に人族を従わせて魔族の再興を果たそうではないか」
「だから、興味ないんで。帰りたいから帰してよ」
「帰すわけにはいかない。まだわからないのは仕方ない。ここであなたは魔人を従わせて覇者となるのです」
「はぁ? 面倒くさ。勝手にしてろよ。それよりも腹が減ったから」
魔人や魔族などとあまり関わりたくないリリスは空腹の方が大事となる。
リリスが要求するのでゴーレムは直ぐに食事を用意させた。
ゴーレムには時間をかけてでも魔族を復興させたい思いがあり、第一段階は成功したといえる。
シャーロイ家とともに騎士団と冷を葬る作戦は上手くいった。
シャーロイ家側にはナニ、ナーべマル、冷も生きているし、何のメリットもなく終わって、ゴーレムだけ得をした形。
あえていうならギャンが犠牲となって置いてきてしまったのが、無念なくらい。
「ゴーレム様、ギャンはどうしましょうか?」
シールドが心配していた。
「うん、冷との戦いの為に置いてきたからな。勝てば自分で帰ってくるとして、負けた場合が問題だ。生きているのを信じたい。そして、取り返しに行くギャンを」
「私も一緒に行きます!」
「ギャンは仲間です!」
シールドとボーガは仲間の為なら王都にも出向く覚悟は出来ていた。
まだ生きていると信じていて、戦いの準備も怠らない。
「王都にはこちらから攻めてやろう。王都の連中もまさかこちらから攻めてくるとは考えていまい。王都には今回の件はいずれ伝わる。ゴーレムは要注意だとなるはず。ナニ、ナーべマルは私の怖さがわかり、怖くて怯えているから、戦力外だろうな。そこへこちらから奇襲をかければ、手も足も出まい。しかも騎士団にはこの場所は絶対にわからない安全地帯。少し休んだら王都に向けて出発する」
「はい、ギャンが待ってます!」
「ギャンを救い、王都を壊滅させましょう」
シールドとボーガはゴーレムに賛成した。
今までは長いこと静かに暮らしていたが、ここにきてゴーレムが動き出して、楽しみが増え、早く王都に攻めたい気持ちが持ち上がった。
王都は何もしてこないと、たかをくくっていた。
どうせ怖くて手を打てず、冷が生きていても、待っていてだろうと。
冷の方からゴーレムに接近しているとはとても考えておらずにいた。
「おいお前らっ、早くご飯だ! 持ってこい。美味しいから、これをあるだけ持ってこい。それに肉も増やせ。酒も足りない。無ければゴーレムの分も持ってこい」
リリスは魔族に対して食事の要求を言いつける。
魔族も言われたら断われない。
命令された通りに従って行動した。
逆らったら大変にゴーレム様に怒られると知っているから。
ゴーレムに怒られないように、迅速に食事をすすめた。
しかしゴーレムの分も出すと、それはそれでもっと大変な事態になりうる。
ある分だけリリスには配った。
働く魔族にはリリスの横柄な、わがままな態度に困っている者も少なくなかった。
来て早々に問題児だと噂になる。




