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冷には譲れない線があった。
リリスだけは何が何でも取り戻すこと。
王都まで来たのは、その一点のみ。
協力を求めるのを続ける。
「ゴーレム……彼女はハンパなく強いです。どうしてもゴーレムの所に行くのなら、お教えしてもいいです。その覚悟かあるのなら」
「ああ、覚悟はあるよ。それと彼女ってことはゴーレムは女性なのかな?」
「女性ですが、男にも負けない魔力を持っています。冷はリリスのことがその……好きなのですか?」
とうとつにガーゴイルは冷に聞いてきたので、冷もびっくりする。
「す、好きと言われれば好きさ。それが関係あるかい、仲間だからだよリリスは」
(好きとかこの際、関係ないと思うが、ガーゴイルは俺に隠していることがありそうな雰囲気だ)
「好きなのですね。それともう一つだけ、私の胸を触りましたよね、戦っている最中に、あれはどういう意味で触りましたか。教えてください」
「ええつと、アレは偶然だよ偶然、怒らないで欲しい。本当に偶然に手を出したら触ってしまったのだ。怒っているなら謝るよ」
冷はガーゴイルが怒っていると感じた。
この場で言ってくるのだから、相当に念に思っていると。
(ヤバイな、胸を触りましたのは事実。謝罪しかない、最悪は土下座もするようだ。許してもらえたら、教えてくれるかもしれないし)
「別に謝る必要はないの。そ、そ、それよりも、もう一度だけ、触って欲しいのです、冷に……」
ガーゴイルは牢屋越しに冷に触るように要求してきた。
まさかの展開に冷は、
「ちょっと待ってくれよ、どうしたのだい急に、怒ってるわけではなく、触れって。もしかしたら、君は胸を触られたのは俺が初めてなのかい?」
(俺が触れってしまったのが初めてで、俺にもう一度とお願いしてるのなら、あり得る話だ)
「……そ、そうですよ、冷が初めてでした、それで考えていて、なぜかしら、冷が気になっていて、だから、ゴーレムの所には行って欲しくないの。行けば死ぬとわかってるのに、行かせたくなくなって……」
「そういうことか、俺に死なれたくないってわけだな。それなら心配無用。絶対に負けたりしない。だから教えてくれゴーレムの居場所を」
(まさか俺を好きになっていたとは、魔人も人も女性の心はよくわからないのは一緒だよ)
「教えることはできます。その地点は複雑でとても説明してたどり着けるか不明な地点でして、簡単に教えるわけにはいかないの」
「教えてくれないと困る。俺なら構わない。たとえ危険でも」
(きっと俺の身を案じているのだろう)
「危険な地点ではありますが、そこには大きな谷間があって、橋もないです。もちろんゴーレムは、飛行できません、そこに飛行できる魔物に自分を運ばせて移動させてるの。その点、私は飛行可能です、冷なら知ってるはよね。私が一緒に行きます。そうすれば冷を谷間で向こう岸に運べますから」
ガーゴイルはゴーレムの居場所が深い谷の奥にあるのを知っていた。
冷を運ぶことで協力しようと考えた。
「ガーゴイルが俺を運ぶか……。ありがとう、でも大丈夫だよ俺なら」
冷はガーゴイルの気持ちを断るとなぜかしらとなる。
「どうして、私が手伝うのはダメですか?」
「違う、違う、その気持ちは嬉しいさ。どうしてかと言えば、俺も君と同じく飛行できるんだよ。知らなかったと思うけどね」
(ガーゴイルと戦った後に覚えたスキル、ガーゴイルよ翼は、知らなくて当然)
「ええつ! そ、そ、それは、冷の能力ってことかな。対戦相手からスキルを習得する」
「そうさ、君のガーゴイルの翼ってスキルをもらったのだよ。心配はしなくても案内だけしてくれれば、俺も一緒に飛行していける。頼むよ」
「頼もしいというか、末恐ろしいものを感じます。しかし問題もあります」
ガーゴイルはまだひとつクリアしなくてはならない課題があるので、直ぐには返答しなかった。
「問題?」
(まだ何かあるかな、ガーゴイルが来てくれたらオッケーなはずだが。サイクロプスは置いておいてもいいだろうし)
「私が牢屋から出られないという問題です。決して国王は認めないと思いますが、なにしろ私は魔人ですし、普通に出たり入ったりするのを許可などあり得ないです」
「確かに言えてるな」
冷も言われれば納得した。
国王からしたら、ガーゴイルをやすやすと牢屋から出すのは、国を混乱させるだけとなる。
不可能な許可とわかって冷は考えてしまった。
(ガーゴイルを牢屋から出す方法はないかな。コロナとかいう側近は無理だろう。俺を極端に嫌ってるから。そしたら残る方法はひとつか……)
「とても残念。せっかく冷に協力してあげられると思ったのに……」
下を向いてしまい残念がる。
無理だとわかりあきらめてしまったのだ。
「いいや、まだあきらめるのは早い。俺に考えがある。可能性は低いかも、でもゼロではない」
(ビジャ姫なら俺に協力してくれないかな。無理だと思うが言ってみる価値はある)
「冷が何を考えてるのかは知り得ないが、試してください」
「少しだけ時間をくれ、ここで待ってろよ」
「言われなくても、どこにも行けませんて」
冷はガーゴイルの牢屋から離れて、ビジャ姫がまだいるかと見てみる。
するとビジャ姫は牢屋の向こうにいて冷を心配そうに見つめている。
ビジャ姫は冷が向かってくるので話はついたと感じたが、冷がそばに来て、
「お願いがあるんだ。これは君にしか言えない話なんだよ。頼むよ」
「ええ、何でしょうか。話は終わっていないみたい、私がかなえられる範囲ならどうぞ」
ビジャ姫は冷からの頼み事に面をくらったが、断われなかった。
「ぜひガーゴイルを牢屋から出すのを認めて欲しい!」
(きっと驚いてしまうよな)
「ええ、牢屋から出せばいいのね、簡単で…………出すですって!!」
「お願いします」
「ち、ち、ちょっと、それはずいぶんと大胆な行動よね冷……」
ビジャ姫は考えていた範囲を超えた相談に即決はできなかった。
「やはり難しいですかね」
(う〜ん、ビジャ姫といえど難題だあったか。今回は俺が悪かったです)
「難題ではあります。しかしあえて相談してきたからには、それなりの理由はあると思いました。引き受けましょう、ガーゴイルを牢屋の外へだすのを。お父様は私が説得します」
「ありがとうビジャ姫!」
(さすが姫です!)
「しかし、あくまで一時的な間が限界でしょう。お父様も永久にとは認めないはずです」
「一時的で十分。では、お願いします」
(ゴーレムの居場所まで行ければ俺としては十分だ。後はなんとかなるだろう)
ビジャ姫はいたし方なく認める方向で話を決めた。
問題は国王にどうやって認めてもらうかであり、正直言って無謀と言えた。
冷の力に成りたいという一心で決めてしまったから。
ビジャ姫は急いで国王に申し出る。
国王はもう話は済んでいると思っていた。
「ビジャよ、魔人との話は済んだようだな。冷はもう出発したのか?」
「いいえ、まだ牢屋の前にいます。そしてお父様にお願いがあって来ました」
「お願いとは?」
「ガーゴイルの外出の許可をください。ガーゴイルがいないとわかりにくいそうです。もちろん一時的でもいいとのこと」
「なんだとっ! ガーゴイルを外に! それは問題になっちゃうだろ」
「冷だけでは難しいそうです」
「う〜ん、ガーゴイルは危険な魔人だからな。いくら冷が一緒とはいえ、国王として不安になる」
国王はいくら娘のお願いでも、ガーゴイルの外出が出てくるとは予想もしていなかった。
そこへ側近であるコロナが口出しをする。
「ビジャ姫、それは出過ぎた真似です。姫の立場であるのを冷は利用しているのです。あれは魔人よりも考えが危険です。姫を騙しガーゴイルと組むなんてあまりにも危険。それに帰ってくる保証はありませんし」
コロナは冷が嫌いだけに、姫から遠ざけたかった。
しかしビジャ姫は今の一言でムカっときた。
「冷はあなたが思うような悪い人ではありません。あなたは嫌いらしいけど」
「そんな、嫌いだなんて」
コロナはあせって否定した。
「お父様、ガーゴイルが外出している間は私が牢屋に入ってます。身代わりです、それならいいでしょう、必ず冷は戻ってきます」
「むむ〜、そこまで冷を信じていると申すか。わかった、ビジャのお願いを受け入れよう。ビジャが身代わりで牢屋に入るのだぞ」
「ありがとうお父様!!」
ビジャ姫は頭を下げて感謝し、部屋から出ていった。
「大丈夫ですか国王、自分の娘を牢屋になんて!」
「ビジャが言うくらいだ。きっと冷を信じてるのだろう。僅かの間だから、耐えられると思っているんだよ」
国王は娘の決断を最後には受け入れたのは、娘の必至さに負けたからであった。
しかしコロナは憤慨する。
こともあろうに、姫に対する行いはとても許せるものではなかった。
冷には警戒心が上がり、要注意人物と決めつけた。




