131
131
兵士は大慌てでハンマド国王に報告。
「国王様。至急お伝えしたい件があります」
「なんだろうか。わかったぞ、ナーべマルが冷を騎士団に入団させて連れてきたのだな。ナーべマルをここに」
国王はナーべマルか忠実に命令をこなしたと思った。
兵士は困った顔をして返事に困る。
「冷は来ましたが、その、ナーべマルさんは居ませんでした」
「なぜだ?」
「彼の話では、別件のようです。内容は伝えにくい内容でして……」
「言ってみろ」
国王は冷が来たのに他に理由があるのかと悩む。
「はい、来た理由はサイクロプスとガーゴイルに会わせろ……だそうです」
「はあ? 意味がわからない。なぜゆえに会わせるのか。会わせるわけないだろうに、だが私に会いに来てまでする理由があるのか。う〜ん、とにかくここに連れてこい。話は聞こう」
「連れてきます」
兵士が冷に国王からの許可が出たと伝える。
「冷さん、国王から話は聞こうということでして、失礼のないようにお願いします」
「わかったよ、話したらもしかしたら怒るかもしれないけど、俺は本気だからよ」
「それが危ないのですが……」
兵士は国王に対する無礼な言葉に大丈夫かなと思いつつも国王のいる間に案内した。
冷は要求がすんなりと通り、たぶん通らないだろうと思ったが、案内されて国王に理解してもらえたとなる。
「失礼します国王」
「なに用だ、聞いたところではサイクロプスとガーゴイルに会わせろと」
「会わせてください。あの二人にしか解決できそうにないので。俺は今、大変に困っていて、二人が協力してくれれば助かる。そこで国王にお願いに来たのです」
(別に暴れるつもりはないから会うくらいならオッケーだろうよ)
周りにいる兵士が緊張する。
冷の発言はとても危険な発言であるから。
冷は危険な発言をしてるつもりはなかった。
そこへ側近である軍師コロナが怒りの声を上げる。
「おのれ! 国王様に向かって何たる無礼な発言を。考えて言え、魔人を会わせるわけがないだろう。魔人には絶対に会わせないし、誰も会うことはできない、わかったか!」
「そんなに怒るなよ爺さん」
(このジジイはうるせぇから面倒だな)
「爺さんだと! 仮にも軍師として国の片腕を担う私に、喧嘩をうるとはな。やる気か!」
軍師コロナは席を立ち上がり、冷と決闘をする言い方で迫った。
「悪い、悪い、爺さんてのは謝るよ。俺はあんたと戦ってるほど暇はない。早く魔人に会わせてくれよ国王」
「ぬぬぬ〜、またも無礼な!」
「まあまあ席に着きなさいコロナ」
「……はい」
さらに馬鹿にされたコロナを国王が静める。
コロナは冷が嫌いになった。
話すのもムカつく。
「冷よ、済まぬが会わせるのは無理だな」
「ゴーレムが関わっていて、ナーべマルもラジッチも殺されかかってるのにか?」
(ナーべマルとラジッチの名を出せば気も変わるかもな)
「何! ナーべマルとラジッチがか。あの二人がゴーレムと接触していたと……。それで無事なのか」
「ああ、俺が助けたから生きているよ。でも俺が助けなかったら死んでいたな。それでどうする、俺に協力してくれるの。さもないともっと犠牲者がでますよ」
(これは言い過ぎか。でも言い過ぎくらいがいいよな)
「……とはいえ、ゴーレムは危険だが、会わせるのはもっと危険なのだよ」
国王はゴーレムの名前が出てうろたえる。
増して自分が送ったナーべマルが犠牲者となれば、平静にはしていられない。
苦しい立場になる国王の前に、娘のビジャ姫が現れる。
「父上、会わせても良いのでは?」
「ビジャか……。それだけは困るんだよな」
「このままゴーレムが暴れるよりも冷に鎮めてもらう方が得策ともいえます。冷には実績がありますから。魔人に会うなら兵士が厳重に見張っておけばよいことですし」
「ビジャがそこまで言うなら。わかった、兵士の監視下でのみ会うのを認めよう」
娘のビジャが冷に賛成したのを聞き、悩んでいた心が傾いた。
冷に会う為の許可を認める。
「お待ちください国王、それにビジャ姫。コヤツは無礼な者。何を企んでいるかわかりませんです」
軍師コロナは国王を止めようとした。
「あなたよりも余程、役に立つかと思いますが?」
「ぬぬぬ〜」
ビジャ姫がコロナを黙らせる。
そして冷に会釈をした。
「どうぞ冷、こちらです」
「あ、ありがとうビジャ姫」
(うわぁ〜綺麗だな、それに俺の味方なのも嬉しい限り)
ビジャ姫に連れられて牢獄に案内された。
牢獄は至って静かで、暗い。
冷は気を引き締める気分にかられた。
牢獄の一番の最奥部付近にまで来て、ビジャ姫は止まる。
「この先に魔人は投獄されています。どうするかは冷に任せますよ。多少の無理も私がかばいます」
ビジャ姫は冷の手を持って、冷の目を見つめて言った。
「あ、あ、はい、ありがとう」
冷は積極的なビジャ姫の対応にびっくりして固まる。
(間近で見つめられて、困ったな。なんて可愛いのだろうか)
ビジャ姫を残して冷は奥に向かう。
兵士から魔人の牢獄だと伝えられる。
「ここがサイクロプスとその仲間のヘスティ。隣がガーゴイルのだ。あまり近づかないでおくれ、何が起こるかわからないから」
兵士に教えられて牢獄を覗く。
(サイクロプスとヘスティだな、俺を覚えているよな)
「よぉ、久しぶりだなお二人さん」
「んん! 冷か。なに用かな俺に」
声をかけられてサイクロプスは不審に思った。
冷だとわかると自分になぜ会いに来たのか考える。
「ちょっと訊きたいことがあってな」
「言ってみな。俺に聞きに来るくらいだ。普通の件ではないだろう」
「普通ていうか、あなたの友達の件なんだよ。ゴーレムって知ってるよね。同じ中級魔人の、アレに俺の大事な仲間のリリスが誘拐された。それでどこにいるのか知らないから探しようがないんだ。知ってるなら教えて欲しいんだ」
(こんな簡単に説明して伝わるかな)
「ゴーレムがリリスを誘拐……。何か企んでいるな。ゴーレムを追いかけるとなるとリリスを奪還するのが目的だよな。そうなるとゴーレムともいっせん交えると?」
「場合によっては戦いになる。返さなかったら俺からぶん殴るのは間違いないよ。知ってるのかい?」
(これは言い過ぎではない。本気です)
「……知ってはいる。ゴーレムがいつもいる場所はわかる。だけどよ、俺はゴーレムとは親しい仲なのよ、とても長い事。お前さんが生まれるよりもずっと前の話だ。彼女を裏切るのは難しいんだな。この話は無理だと言っておこう」
サイクロプスは冷にはっきりと断る姿勢。
以前は冷と敵であった。
話を聞くことはないが、戦った間柄となり、実力を認めていて、冷に聞く耳を持った。
更に仲間の女神であるアリエルとリリスの存在から、冷に敵対心を抱いていなくなつていた。
ある程度の内容なら聞くのだが、やはり長年の友であるゴーレムを裏切る行為はしたくない。
「そうだ、そうだ! サイクロプス様は偉大な方。友を裏切るまねなどするもんか!」
急に割って入っのがヘスティであった。
ヘスティはまだ冷に敵対心が残っていたので、反抗的な態度でくる。
「君はヘスティだったな。これはお願いだ。わかって欲しいんだよ」
「その話なら隣のガーゴイルに訊いてみたらどうかな。彼女は何と言うかな」
サイクロプスは冷にあきらめて隣の牢屋に行けと。
そこで冷は隣の牢屋を覗くと、ガーゴイルに尋ねてみる。
「ガーゴイル、今の話は聞こえたかな?」
「聞こえましたけど。ゴーレムと会いたいのですよね。詳しい居場所が知りたいと」
「教えてくれるかい?」
(ガーゴイルはまだ俺のことを恨んでいる節がある。なんとなく感じる。難しいかもな)
「教えるとゴーレムと戦いになるのよね、そんな危険な所にあなたを送るのは……」
ガーゴイルは教えたくないという風に言った。
しかし冷にはサイクロプスと違いが感じられる。
「危険なのは知ってる。知ってて言ってるのさ」
(まぁ俺が死ぬと言いたいのだろう)
「そうですとも、行けば、負けます。そして死ぬでしょう。そこに行くのを手伝うのは……」
「言ってくれるじゃんかよ、俺が死ぬと決めつけてよ。あいにく俺は死ぬつもりは更々ありませんから。怖いとも思ってないし、魔人同士で仲の良いのはわかるが、俺もリリスが大切なのだよ」
(魔人には魔人の信頼関係があるようだな。人族よりも遥かに長生きするらしいから、余計に関係も深いのかも。俺には理解できない範囲の友情があるなら難しい。でも待てよ、なぜかな、ガーゴイルの発言にはゴーレムを守るのと同時に俺をかばうようにも聞こえるのは気のせいかな)