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ギャンは冷に何をされたのかわからないが、見動きが取れないので、スキルだろうと思った。
殺されるのも覚悟していると、冷から質問された。
「あのさ、君の名は?」
冷はまず名前がわからないから知りたかった。
(名前がわからないことには、会話もスムーズにすすまない)
「ギャンですが、何か用かな。こんな縛られて、私をどうしたいのよ」
「話がある。ゴーレムの手下の魔族なんだろ」
「そうです。数多くいるゴーレム様の手下の中でも選ばれた三人の一人であります」
ギャンは誇らしげに言う。
ゴーレムに選ばれたことを心底に嬉しく思っていた。
「それなら話は早い。手っ取り早い話は、ゴーレムがどこにいるのか知りたい。教えてくれ」
単刀直入に言った。
(ギャンて言うのか。よく見ると可愛い子だな。いや、そんなのはこの際関係ないが)
「ゴーレム様の居場所ですか。はっきり言いますけど、教えません!」
「なぜ。俺にはリリスが大事なんだよ。君たちが何を考えてるか知らないが、リリスを巻き込むのは止めて欲しい」
「ゴーレム様には忠誠を誓った私です。決していうことはありません。これ以上話ても無駄というものです」
ギャンは頑なに冷を拒否した。
言ったはいいが、キレて殺されるのも覚悟した。
正直いって、怖い。
ゴーレムと同じレベルの怖さを感じていた。
「う〜ん、困ったな、教えてくれないと俺にはわからないよね。どうしよう」
(困ったな、絶対に話すつもりないだろ。俺のこと嫌ってるみたいだな)
「困ればいい。私は困りません」
意志の固いギャンに冷は困る。
それならばもう一人のルテリに同じ質問をする。
「君の名前は?」
「ルテリです。知らないのですか私の名前を。失礼な。シャーロイ家の長女ルテリと言えば、この地方なら誰でも知ってます。知らないにも程がある」
「そう言われてもなぁ、シャーロイ家ってのも初耳ですから。ルテリに訊くけど、ゴーレムの居場所はわかるかい、知ってるなら教えてくれ。俺にはとても大事な仲間で、リリスのいない日は考えられない」
「知りませんね、それよりも私の方も訊きたいのだから」
ギャンと同じく知らないと冷たく答える。
妹の現状が知りたい。
今どこで、何をしているかを。
「何だろう、俺が知ってることかな?」
「私の妹二人です。ルクエとルビカ。知ってるはずです。あなたの方に送ったのだから、そしてあなたがここに来たってことは、妹が失敗したと考えられます。言いなさい、妹がどこにいるかを?」
「ふ〜ん妹の件か。もちろん知っるさ。君が言わないなら俺も言わない。言うなら、俺も言ってあげよう」
(妹の二人なら、今頃はナニと一緒だ。時期に馬車でここに来る。きっと姉さんだし、妹が心配なのかもな。生きてるから別に心配は要らないのだけど、あえて言わないでおこう)
「む〜、言わないとは卑怯な。本当のことを言おう、私は知らないのだ、ゴーレムの居場所を。そもそも作戦としては、リリス以外は全員死んでることになっていて、リリスだけを生かす。それで終わり。もうゴーレムとの契約は終わり。私達シャーロイ家にとってもあなたとナニ、ナーべマルが死ねば、国王の戦力ダウンになり、申し分ない。居場所など初めから知らない」
冷達を殺せば良くて、後は知らないのは本当であった。
逆にそれ以上魔人ゴーレムと関わりたくもないのが本音。
それだけで十分に利益となる。
そうなると困ったのは冷であり、ゴーレムを追いかけたくても、追いかけるのが出来ずじまい。
手がかりすらない。
「困ったな。探しようがないもんな」
(この二人を無理やりに話させるのは難しいかな。俺も強引に訊くのは不得意だし、手を変える必要があるな。他に手はあるか……)
「あきらめるんだな冷。ゴーレム様に逆らうからこうなる。ゴーレム様に服従しな。そうすればリリスにも会える。どうだい?」
「俺は服従は興味ない。ギャンはどうなんだよ、ゴーレム様、ゴーレム様と言いながらも、結局のところゴーレムに捨てられたんじゃないのか。こうして君だけ置いてかれたのだから、それってどうなのよ?」
(普通に言ったら見捨てられたわけだけよ。俺なら思うけど、ギャンはどうなのか)
「捨てられたですって、とんでもない、私はゴーレム様に期待されて、冷を始末するのを期待されてここに残ったのよ、バカなことを言うな!」
「へえ〜そうかい、残念だったな。俺はゴーレムにも負けはしない。見つけたらただちに、倒すまでだ」
(待ってろよ、俺がお前さんを必ず見つけ出してやる。そしたら最後だよゴーレム)
「逆に倒されるのよゴーレム様に。悪いことは言わないから逃げた方がいい。これはあなたの為に言ってるの。絶対に逃げなさいよ。そんなにリリスって子が大事なの?」
「大事さ。俺にはリリス抜きの生活なんて考えられないんだ。どんなに遠くても必ず探すさ」
絶対にあきらめないと宣言した。
ギャンは冷を変わった男だなと思う。
そこまでリリスにするなんて。
普通に考えたらゴーレム相手に逃げる。
この男は逃げようなんて発想がまるでない。
バカなのかとも思えるが、不思議と嫌な気はしなかった。
魔族が人族にそんな感情を持つのも変であるが。
「まいったな、これでは話が進まない。リリスは遠のいている感じだ。早く知りたいんだけどよ」
冷はギャンとルテリが協力的でない為に、聞き出せないまま時間が経っていた。
(やはり俺は会話がヘタみたいだな)
あせる冷を見ていたラジッチが冷にある提案をしてみる。
「なぁ、ひとつ考えがあるんだけど」
「ラジッチか、なんだよ、言ってみてくれるか」
「ゴーレムは魔人、それも中級魔人の名を持つ。他に中級魔人は数人いるが王都にならサイクロプスとガーゴイルがいる。連中は同じ中級魔人として情報を持っているはずだ。ゴーレムのいる地域がどこなのか特定できるかもだぜ、これは俺の独断だから、別に無視して構わない」
「サイクロプスとガーゴイルか。おの二人なら知っていても不思議はないもんな。仲間なら定住している地を知ってる可能性があるな。やるなラジッチ、いいアイデアだよ」
「アイデアか、俺がまさかお前に褒められるとはな」
ラジッチが提案したのは王都にいる魔人に聞けというものであった。
冷はとても感心してラジッチをべた褒め。
「けど王都に行くには時間がかかる。まだかなり遠いよ。それに僕にはサイクロプスとガーゴイルが協力的に話すとは思えないけど」
ナーべマルは逆に批判的に考えた。
人族に協力的な魔人などあり得ないからであった。
「ここにいても進展はなさそうだ。それならラジッチの案にのってみるのもありだと思う。幸いにも俺は王都に行くのに時間はかからないし」
冷はナーべマルの意見を全くきかなかった。
(ナーべマルはまだ俺のことをわかってないようだ)
なぜならば、冷にはアレがあるからで、ナーべマルはわかっていなかった。
「時間がかからないとはどういうことかな。僕には冷の考えがわからないな」
「わかるように見せてやるよ。ほれっ!」
冷はスキルであるガーゴイルの翼を使用した。
体は変形して翼が生えてきて、上空に移動していく。
「おお! 先ほど飛んできたスキルか。なるほど、そのスキルならいち早く王都に行けるぜ!」
ラジッチは冷を見上げて言った。
「確かに行けますねこれならば……。それにしても冷は何でもありですか」
ナーべマルも驚いてしまう。
同時に納得もし、冷のスキルの特異さに驚がくさえした。
「このまま飛んでいくので王都のある方角だけ教えてくれ。どっちに行ったらいいんだい?」
「王都ならば向こうです。太陽の位置から割り出せますので。方角だけでいいのですか」
「十分だ。ありがとう。ラジッチとナーべマル、もう時期ナニは来るよ、ルテリの姉妹も一緒だ。アリエルとミーコを頼みます」
「わかりました。僕に任せてください」
ナニが来るのだけ報告して冷はナーべマルの教えてくれた王都の方角に飛び去る。
猛スピードで一直線に飛んでいった。
ナーべマルとラジッチには、まるで消えたかのような高速であった。
「飛んで行っちゃいましたね」
「鳥かアイツは」
「鳥のスキルを持つ人族ってとこかな。僕が知ってる限り知らないスキルです。そこまでしてリリスを助けてあげたいのでしょう」
「相手はゴーレムだぜ。何のメリットもないだろ。殺されて終わりかもな。今回だけは冷も運が悪い。ゴーレムには勝てんよ」
ラジッチは冷が負けると予想していた。
誰でもそう考えるのが常識である。
「負けるとわかっていても行動するのが冷なのよ」
「意味わからん。で、俺達はどうするの。冷を騎士団に入団させるのが仕事なわけで、いなくなっちゃったから、仕事終わりか」
「僕も悩んでます。どうしよう」
「悩むなよ、ナーべマルが悩んだら話にならないぜ」
「失敗ですね」
国王からの命令である冷の入団の件は失敗といっていいレベルである。
ナーべマルも自覚してしまう。