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 ギャンがスピアで来るのを冷は回避した。

 どんなスピアかもわからないからで、様子を見るのもあった。

 

(珍しい武器だな。スピアっていう武器だろう。あまり見かけない、日本では特にみない武器だ。レアな武器だし、俺の知ってるスピアよりも遥かに長いな。女性なのに、それをやすやすと使いこなす術は、見上げたものだ)


 冷はギャンが女性でありながら、匠に扱うスピアに、回避しながらも素晴らしいなと感じる。

 攻撃をやめないギャンは、スピアは速度を増していく。

 何度スピアを狙っても当たらない冷に、ギャンは焦りを感じていた。

 どうして当たらないの。

 確実に当たってるはずなのに、スピアは通り抜けてしまう。

 それではと、スピアの突く回数を増やしていく。

 音を立ててスピアは冷の体へと向けられた。

 冷は冷静にスピアの突く箇所を把握していて、全てナギナタで防いでいたのであり、ギャンにはナギナタの動きが速すぎて見えていなかった。

 当たらないように見えてしまった。

 冷はナギナタを防御から攻撃に転じる。


(今度は俺から攻撃しよう。スピアよりは短いナギナタでも、間合いを詰めれば、相手に届くんだってことを教えてやろう。要は使い方ってことね)


 ナギナタを強く握ると、細かいステップを刻み、ギャンに急接近した。

 ギャンはあまりの接近する速度が速くて、防御しようにも出来ず、後方に逃げようとする。

 しかし冷はギャンよりも速く、スピアを持つ手をナギナタで叩いた。


「ああっ!」


 ギャンは手にナギナタを受けてスピアを放してしまった。

 こうなるともはやギャンの強みはなくなる。

 スピアがなければ、怖さは半減。

 冷はスピアをサッと拾い上げて、持ってみると、


「ほお〜、これは面白い武器だよな、俺にも使わせてくれよ」


「なんだと〜」


 冷はスピアを持ってみて今まで使ったことのない武器に興奮をしていた。

 

(面白そう! 試しに使ってみるとしよう。ナギナタよりも長いし、扱いにくいが突いたら強力な感じがする)


 冷にスピアを取り上げられる形になったギャンは、うろたえてしまう。


「待ちなさい、それを返しなさい!」


「やだね!」


 冷はさっそくスピアでギャンの鎧を突いてみる。

 

「うう〜」


「どうだい、自分の武器で攻撃される気分は、良い気分かい?」


「そんなわけないだろう!」


「これは、どう?」


「うぅ! やめなさい、屈辱的な攻撃です。あなた、楽しんでいます、もっと屈辱」


「楽しんでます、だって初めてのスピアだからね」


 何度も突いてみる冷は、ギャンから見て性格悪い男に思えた。

 信じられないくらいに。

 魔人を倒せるくらいだ。

 当然に性格が良いはずはない。

 まるで悪魔と戦ってる気分だ。

 ギャンは恐ろしくなっていた。

 あまりの力の差に驚いているのはギャンだけではない。

 ルテリもまた、冷の強さに圧倒されつつあった。

 

「なにしてるギャン、早くスピアを取り戻すのよ!」


「それが、速すぎて取り戻せないの」


「……それなら、私が取り戻してあげます、行くわよ!」


 ルテリがとても見てられないとなり、冷に立ち向かい、二人を相手にすることになる。


「おお、今度は姉妹の長女ですか。姉妹みんな可愛いです。でも俺から奪えるかな?」


「私をナメないでください。なぜならシャーロイ家の長女として、すでに将来を託されているのです。剣の術は国中でもトップクラスでしょう。それに言っておきますが、実践では無敗。誰にも負けたことはありません」


「ほお〜それは楽しみにしてます」


(言うことだけは言うな。それだけ自信があるのだろう。どれ、拝見させてもらおうかな。だけどこの姉妹は可愛いこ揃いだな、あとギャンも魔族なのだろうけど、意外とイケるかもな。戦闘中に俺は何を考えてるのか)


 二人同時に冷は戦う。

 交互に攻撃を受けるも、全ての動きを読めており、当たることなく空振りとなる。

 ルテリはシャーロイ家の長女であり、それに見合うだけの修行を行ってきていて、国にいる名剣士などを相手にしてきた。

 それが父である伯爵の願いも実って、今では地域一の剣士となる。

 しかし、相手は冷である。

 たとえ、国の南部では有名になっても、冷の剣術は遥かに上をいっていた。

 想像していた上を。

 魔人のクラスを知らないルテリには、想像するのも無理があった。

 結果は冷の持つスピアを触れることさえできなく、疲労するだけであった。

 

「なんで、触れないのだ……」


「俺に触れなければこのスピアは取れないぜ」


(ギャンだけでなくルテリも、いい腕をしている。強気の発言はデタラメではないようだ。俺でなければ、死んでるかもしれない)


「そ、そんなバカな、ゴーレム様以外にこれ程の強者がいたとは……」


「むむむ……、魔人を恐れぬ冒険者とは、これ程までに強いのか」


 ギャンとルテリはいくら挑んでも、結果は変わらないので半分ヤル気が落ちていた。

 冷はその点を見逃さない。

 二人の集中力が切れた瞬間を狙っていて、拳闘術を繰り出すことにする。


(俺の拳闘をみせてやろう。ナギナタだけではないってところを。そして早いとこリリスを追いかける必要がある)


 冷はこの戦いの勝負を着けにいく。

 いつまでも二人の相手に合わせてる場合ではないからで、拳を使うことに。

 猛烈な速さの拳が二人の腹に与えられる。

 もちろん手加減をしてのこと。

 本気で殴れば、重症は免れないとして、ゴーレムの居場所を聞き出すのもあり、手加減した。

 

「ええっ!」


 ルテリとギャンは瞬きしたのもわからない速さで拳が腹に来た。

 一瞬の出来事であった。

 冷の姿が見えた途端に意識が遠のいている。

 冷はルテリとギャンに勝利した。


(軽く気絶させておいた、後は縄で縛っておいて、ゴーレムの居場所を聞き出そう。話してくれればいいが、俺は女の子と会話して聞き出すなんてしたことはない。それだけに自信はない。もししらばっくれるなら、強引に聞き出すのもあり得るが、無理もあるな)


 冷はとりあえず二人の体をスキル縄縛りで繫げる。

 これで自由に動けることはない。

 その様子をつぶさに見ていたのは、ラジッチとナーべマルである。

 深手を負い体力は尽きかけていて、冷に力を貸すどころか、観戦するのが精一杯。

 冷の戦いぶりを拝見し、あまりの圧倒的な勝ちに、言葉を無くし、ぼう然としてしまう。


「ギャンはとても強い相手であった、それとルテリもだ。それをああも簡単に倒すとはな。来てくれて感謝と言いたいが、なんかムカつくな」


「僕も驚いてます。いったいどこまで強いのか、はかり知れない。それに楽しんでるふしもある」


「とんでもない奴と関わることになってるのかもな。本当に騎士団に入団させるのかよ」


「国王の命令ですから、ただ僕がコントロールできるかはわかりません。コントロールできる人がいるのかって感じします」


 ナーべマルが冷にお礼を言う。


「ありがとうございます冷。助かりました今回だけは」


「いいや、当然のことよ。俺的にはリリスが大事だから、それよりもアリエルとミーコの怪我の治療を頼む。二人とも大怪我してるようだ」


(早急に治療してもらいたい。生きてるのは良かった。危ないところだった。死んでたら一生後悔したよな。許せませんゴーレム、俺が必ず仕返しをします)


 冷はゴーレムな対して激しい怒りが起こった。


「冷……私なら生きてますよ」


「冷氏、来てくれたのですね」


 アリエルとミーコは冷に会えて嬉しくなるが、笑みを作るのがやっとであった。


「安静にしてろ、今から騎士団に治療を、頼むからよ」

 

「わかりました。直ぐに治療を出来る限りします。決してアリエルとミーコを死なせません。騎士団には優秀な回復系の使い手もいます。その点は任せてください。それよりもギャンとルテリの二人を捕らえてもらい、この二人は騎士団で預かります。王都に輸送しますのは、国王に反乱したからです。刑に処されるのは確実ですから」


 ナーべマルは騎士団にアリエルとミーコの治療を命じた。

 アリエルとミーコは回復系の医療班に囲まれて、治療を施され、冷は安心した。

 

「ギャンとルテリを王都に連れて行くのはちょっと待って。俺には訊きたいことがあるんだ」


「リリスの居場所?」


「そぅだよ、リリスがゴーレムと居るのはわかっているが、どこにいるのかが俺にはわからない。それをこの二人から聞き出したいのだ」


「この二人ならゴーレムのアジトや潜伏地を知っていてもおかしくない。冷さんがご自身で訊きたいならどうぞ、じん門してください。僕はみてますから」


「ああ、そうさせてもらうよ。簡単に話すかはわからないけど、出来る限り訊くつもり」


「僕とラジッチは黙っています。ねぇラジッチ?」


「みてるしかねえか。俺のこと覚えてるよな」


 ラジッチは冷に確認してみる。

 

「覚えてるよ。邪魔ばかりするラジッチだろ」


「誰が邪魔者だよ!」


「まあまあ、ケンカしてる時間はありません。早くききだしてください」


 ナーべマルに言われて冷はギャンとルテリに近寄る。 

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