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リリスの魔剣グラムがギャンの長大なスピアと激突。
リリスの近くにいたアリエルもまた巻き込まれる。
シールドがアリエルを前にして盾を構える。
「あなたは冷の仲間ですね」
「そうよ、アリエルって言います、女神ですがご存知ですよね」
「女神!! 嘘言うな。どう見ても、そこらにいる田舎娘だろ」
「はぁ〜〜? よ、よ、よ、よくも女神に対して田舎娘なんて、許せませんことよ!」
「許してくれなくてけっこう。こちらから攻撃しますよ、田舎娘!」
アリエルはかなりムカついてしまい、冷静さを欠いているが、スキル攻撃と防御でシールドとまみえた。
アリエルの付近ではミーコも奮闘していた。
ミーコは魔族を斬り合っていた最中に、突然に現れた女と目があった。
その女が魔族であることは、一目でわかった。
「ゴーレムは、可愛い娘を飼っているのね」
「ボーガといいます。飼われているわけではありません。忠誠心があると思ってください。ゴーレム様の偉大さがわからないようですね」
「偉大さなど感じることはありません。単にリリスを誘拐しようとする変態な男としか」
ミーコにはゴーレムが変態な魔人と思えていた。
「あら、知りませんでしたか、ゴーレム様は女性です。それもとてもお美しいお方です」
「ええっ! アレが女性ですか。仮面を被っているから、てっきり男かと」
「わかったところで意味はない。どうせあなたはここで死ぬから」
「ゴーレムの好きにはさせません!」
ミーコは意を決して聖剣ヴェルファイアをぬいた。
対してボーガは自慢の弓でミーコを狙う。
森の中ではナーべマルが立ち止まっていた。
立ち止まざるを得ないのであり、前には二人の人影があった。
ナーべマルはそれが誰なのかは、恐ろしい魔力で判断が出来た。
「……誰なのかしら、僕が思うには、聞かなくても魔人かな?」
「正解です。騎士団ならば知ってて当然でしょう。中級魔人のゴーレムと言えば」
「……やはりゴーレムでしたか。なにしに来たの。僕と遊ぶとか」
ゴーレムと聞かされて、隠しようがない程に乱れていた。
それでも悟られないように平静さを出した。
「言ってもいいかな、ルテリ?」
「ええ、どうぞ」
ルテリはゴーレムの意見にそう。
ナーべマルはルテリと会話に出てきて、頭の中では一点気がかりとなる。
どこかで聞き覚えのある名前である。
それもあまりよくない噂では。
「魔人が来たからにはわかるでしょう。騎士団など始末します。そしてリリスは貰います」
「リリスを……。そこまでし欲しいとは。そしてルテリとか言ったわよね、まさか僕の憶測が間違ってなければ、南部の貴族であるはずのシャーロイ家のルテリ?」
「私の名前はルテリ、シャーロイ、ルテリです。知ってて当たり前ですかね。でもなぜって顔してますね、言っておきますが、騎士団全員と冷には死んでもらいますから。理由は、そうね、邪魔なのよね」
「邪魔……だから殺すと。そんなことしたら国王が黙ってません。お分かりですか。僕もね」
「わかってます。国王に知られなければいいのよ」
「はっきりいいますけど、それって国王に対する反逆になってます」
「反逆と思って頂いてよろしいですこと」
「僕は、シャーロイ家はあまりいい噂を聞きませんでした。それはどこにでもある話だと思っていた。国王に少なからず反抗する勢力があるのは仕方ないから。ここまでするとは……では、ナニと冷は……あなた達の策略で行ったのかな」
直ぐにナニのことが頭に浮かんだ。
最悪の考えではあるが、別れさせておいて、ナニも殺すと考えた。
「鋭いわね、きっと今頃は私の妹達に可愛がられている頃ね。死んでいるかも、ごめんなさいね、あなたに恨みはないの。ただ、邪魔だし利用させてもらうだけ」
「……そう簡単に僕は負けない。意外と強いんだから」
「知ってます。ナーべマルと聞けば誰だって知ってます。私も単独では望みません。ですからゴーレムを連れてきたわけです、騎士団で有名とは言えゴーレムを見た瞬間に顔色が悪いこと、アハハハっ」
ルテリはナーべマルを見下して、高笑いした。
ルテリは妹達は勝てると踏んでいた。
もうすぐ妹のルクエ、ルビカが戻ってくると考えていて、その間にナーべマルも始末する手順である。
強敵なのはあるが、ゴーレムがいれば片付く相手となる。
余裕の笑いであった。
「運が悪かったのさナーべマル!」
「来るか!」
ゴーレムの攻撃が始まった。
ナーべマルは苦しい戦況なのは確実で、ゴーレムだけでもキツいのに、ルテリまでも相手にする。
ルテリはとても強いと耳にしていて、不利なのは明らかである。
ゴーレムが見下ろした先には、ナーべマルが倒れていた。
戦いが始まったら、ナーべマルのスキルなど効かなかった。
圧倒的にゴーレムが優勢となり、改めて魔人の格の違いを感じる。
あと一撃受けると負けるところまで追い詰められ、ゴーレムは無傷であったことからわかる。
「ゴーレム、ひとおもいに殺してしまいなさいよ」
「そうしよう。残念だったな、ナーべマル。俺とは住む世界が違うんだよ、死んでもらう!」
「……」
ルテリに言われてゴーレムは決着をつけようとした。
ナーべマルは、悔しいが強すぎて対等になど戦えなかった。
僕は死ぬのかなと思えた。
ゴーレムの気配を感じる。
トドメを刺しに来たのだなと。
「死ね〜〜〜!」
ナーべマルの耳に届いたのは、死ねのひと言であった。
これが最後の言葉かと納得していたら、
「お、お前は、誰だい!」
ゴーレムへと奇襲の形で一撃を与える。
ゴーレムは不意打ちとなり、ナーべマルから離れて後方に下がる。
ナーべマルは意識が遠く、誰なのかはわからないが、助かったことはわかった。
「ゴーレムか、ナーべマルをここまでやるとは、噂通りの野朗だな。でもこのラジッチが来たからには、好きにはさせねえよ!」
「ラジッチ……騎士団……。ふん、邪魔が入ったな、あとそれと、俺は野朗じゃない、女だからな」
「なんだと〜、女かよ。どう見ても男だろ。それよりもナーべマル大丈夫かよ」
「ん〜、その声はラジッチかい、グッドタイミングです、僕は大丈夫じゃないみたいだ。君が応援に来てくれるとは、僕も一緒に戦うよ」
ラジッチが来たのは予想外だった。
王都ではついて来るなと言ってあったからだ。
だけど応援に来たのは嬉しく思った。
傷ついたナーべマルを見てラジッチは、マジかとなる。
ゴーレムとはいえ、ここまで差があるのを見せつけられたら、ビビるのは当然である。
「隣にいる女は誰よ?」
「ゴーレムの隣にいるのはシャーロイ、ルテリ。国王に反抗したいみたい」
「なんだって……あの貴族かよ。またなんでこんな時に反逆などするかね。てことは敵ってことで、いいんだな」
「彼女も認めてます」
ナーべマルは起き上がると、ラジッチとともに、ルテリをみた。
ルテリは意外と冷静であった。
「騎士団のラジッチですか。余計なのが来ましたね。わざわざ死ににくるとはバカですかね。ほれ、見なさいあの光景を!」
ルテリが指した方向には騎士団の団員の朽ち果てた姿であった。
誰一人として立っているものはいなくて、息もしていなかった。
魔族及び、ギャン達による優勢が続き、結果は騎士団の完敗となった。
「……みんな、動きがない」
「死んでるだろうな」
さすがにナーべマルとラジッチはショックを隠しきれない。
二人とも冒険者であるから、直接的に騎士団に思い入れはないにしろ、あまりの差に歴然となる。
「ゴーレム様、アリエルとミーコ、リリスを捕えました」
ギャンがゴーレムに報告する。
アリエルとミーコは負けてグッタリとしていた。
リリスだけは、特別に怪我はしていない。
「よくやったぞ、アリエルとミーコは殺していい、用はない。リリスは俺が預かる」
「はい、どうぞ」
ギャンはリリスの手を引っ張るとゴーレムに渡した。
「やっと手に入れた、リリスよ俺といっにくるんだ。そして淫魔族として魔族の頂点に君臨するんだ」
「嫌だね! 興味ない」
リリスはゴーレムに持ち上げられたが、あっけなくお断り。
魔人や魔族を支配するのに興味がなかった。
本心からそう思った。
「断ると言うのかい?」
「お断りだよ、私は許さない。アリエルとミーコをこんな風にしたキサマらを!」
仲間を半殺しにされたのだから、怒りが頂点に達していた。
とても許せる範囲を超えている。
「そう怒るなよ、話は後でしよう」
ゴーレムはリリスが反抗するのはある程度、計算していた。