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冒険者ギルドではユズハ店員を含めて他のギルド職員と検討した結果、即刻に王都の冒険者ギルドに連絡することに決まった。
連絡を受けた王都の冒険者ギルドには衝撃が走る。
兵士は直ぐに国王に届ける為に走っていき、
「大変で〜す!!!!」
ハンマド国王は突然に来た兵士に驚いて、
「どうかしたか。びっくりするだろ!」
「それが、それが、またも魔人が!」
「魔人……魔人なら騎士団に対応させろ。下級魔人なら十分に対応できるだろ」
国王は下級魔人だと決めつけて話す。
兵士は国王の勘違いに気づき、
「いいえ、違います! 下級魔人クラスではありません! 中級魔人でした!」
国王は兵士の言ってる意味がわからずに、
「なに?」
「中級魔人でした!」
「またか! 今度は誰だ?」
「ゴーレムだという情報です。ピルトの町からの情報です」
ゴーレムと名前を聞かされて立ち上がってしまい、
「ゴーレム!!!!! なんで!」
「わかりません。今まで静かであったゴーレムが突然にピルトの町に現れて暴れたそうです」
兵士は国王がなぜかというのであるが、兵士もまた理由がわからずにいたので大変に困って、それでも何かしら言わなければならなかった。
「まいったな、中級魔人であるゴーレムが動いたとは。今まで静かであったのに。サイクロプスといい、ガーゴイルといい、何かしらの関係があるのかもな。まるで繋がるように動き出した。それでピルトの町はどうなってる、おそらくは……ダメだろう」
国王はピルトの町が壊滅的な状況に陥っていると想像していて、中級魔人であるから誰もが止めるのは不可能と思った。
兵士は悲観的な国王を見て直ぐに真実を伝えねばとなり、
「町のダメージはあったようです。しかし犠牲者はゼロ。町の家屋が壊れた程度だそうです。それにはアノ者が関わっていたとか」
言いにくそうになる兵士に国王はなぜかと思うと、中級魔人と互角に戦える者が対戦したと推測させて、少しの間考えた末にアノ者が誰なのかわかり、
「まさか、まさか、アノ者とは、冷か?」
「はい、冷でした。ゴーレムと戦ったらしく、途中で戦闘は中断しゴーレムは消えたと」
国王の推測は的中しまたも冷が関わっていたとわかると、
「冷か、なぜアレは魔人と関わるのだろうか。しかもゴーレムと戦って生きておるとは。冷も牢屋に入れる必要があるよな。そうしないと次々に魔人が動いてしまう」
国王は頭を抱えて悩んでしまうと、兵士はなんと言葉をかけていいのかわからずにいた。
ガーゴイルが牢獄されたばかりで、それでも王都は震撼していたのに、その直後にまた魔人であるゴーレムの話がきて、パニックになる。
話し合いが行われた後に、現在は移動しているナーべマルに連絡を送るのを思いつき国王は、
「ナーべマルがいるよな。彼に迅速に向かわせよう」
「ナーべマルさんなら、ナーべマルさんしかいません、冷に話せるのは」
国王は深いため息をついて、ナーべマルへ指示を出して、無事に冷が騎士団に入るように、いや、せめて魔人と関わらないようにしてほしいと願う。
ナーべマルなら対応出来る人材だと判断されたからで、他に対応出来る人材がいなかったのもあった。
それだけゴーレムは王都に取っても脅威の存在という認識の現れであろう。
冷を騎士団に入団させるのも目的にしていたナーべマルは王都からピルトに向かっておりその途中の町であるモアナの町に立ち寄っていた。
モアナの町は大きい町ではなく、ピルトと比べて同程度の商業施設があり、ナーべマルは食事を取る為に店に立ち寄ると店員が、
「いらっしゃいませ」
ナーべマルは周りには気を使わずにすんなりと店内へ、
「あの、オレンジジュースをください」
「はい……」
店にきたナーべマルを見て最初は普通の女の子だと思ったが、直ぐに店員はナーべマルだと気がついた。
慌てて店の奥に行くと、他の客はテーブルについて楽しく会話中。
「オレンジジュースです……」
「ありがとう」
ナーべマルは喉が乾いていたので、半分を飲んでしまい、コップをテーブルにドスンと置いた途端に周りの客は、ビクリっとなった。
「ひえっ!」
「……」
店員の対応で周りの客は最初はわからないでいたが、音の方に向くと全員がナーべマルだと気がついて怖がる。
「おい、あの女の子をみろよ、ナーべマルだよな。あの有名な冒険者であるナーべマルならなぜこの町に居るんだろ」
「わからなねえよ。普通に旅の途中ならいいけど、最近はどうも物騒な話が多い。それに関係してるならヤバイかもな」
「ピルトの町は大変らしい。とんでもねえルーキー冒険者が現れて魔人を討伐しまくり、魔人が出現しだしてるとかだ。この町にも魔人が出現するかもしれない。それでナーべマルが来たとしたら最悪だべ」
客はナーべマルが来たかの噂話をしだして不安になっていた。
ナーべマルはというと、目的はピルトの町であるから、モアナの町にはたまたま通っただけであったが、名前が知られている為に騒がれることに。
当の本人は気にすることなく休憩をとり、しばらくは店内で休憩をしてから、出発をするので席を立つとそれだけで客は驚く始末となっていた。
帰り際に店内に話しかけてみたら、
「ごちそうさま、それとピルトの町の冷は知ってる?」
モアナの町でも冷は名が知られていて、化け物のようなルーキーだとなっていて店員は、
「も、も、もちろん冷の名は知っております。この町にも噂は通っておりますから……」
「そう! やはりね」
ナーべマルは思っていたのと同じであったから、微笑んだ。
「……」
微笑まれた店員は、なぜナーべマルが微笑んだのかわからなかったので固まってしまう。
そのまま店を後にした。
ナーべマルがモアナの町に到着したのは冷は知るはずもないが、偶然にも同じくモアナの町に向かっていた。
アリエルが馬車で、
「ピルトを出たのはいいけど、どこに行くのか決めてるのかな。いきあたりばったりだと不味いわよね」
アリエルの言葉に冷は、
「……もちろん決めて……ない」
わかりやすく言えば冷はピルトの町の外を何も知らないといって差し支えない。
(俺ってこの世界の地理知らな過ぎかな)
「はぁ? どうするのよ」
ミーコも冷に向けて、
「無責任です」
「うん、馬車の業者の方に訊けばいいさ」
「なら、早く訊いてくださいませ」
アリエルが半分諦め気味に言うと業者の方から冷に、
「あの〜行き先なんですけど……」
行き先を聞かないことには進みにくいので困っていた。
「近くに町はありますか?」
(とりあえず町があればいいよな)
「ええ、あります。モアナの町がございますが」
「モアナの町ね、そこに決めます。モアナの町に出発してください」
(もちろん初めて聞く町の名前。まぁいいか)
と、あまり深く考えないできめてしまい、アリエルが慌てて、
「本当にいいの?」
「まぁいいだろ。他に行くあてがないし」
(後で俺の責任とかになりそうだな)
冷の直感で決めたのを聞きリリスは顔を歪めて、
「なんだか不安だ」
「とにかく出発してください」
「はい、出発します」
特に決めた理由はなくて、単に近くの町ってだけで決定した。
「アリエル、モアナの町で決まったから」
「わかりました……そんなんでいいのか」
「てか、ピルトを一時的に出ていればいいわけで、近くの町に待機してればオッケーだろう」
冷が気軽にしているとミーコは、
「まぁゴーレムが来なければいいわけね。ゴーレムがどこに行ったのかわからない以上、こちらは逃げて隠れてる方が得策と判断したのでしよう冷氏は」
「その通りさ」
ミーコが言ったのをまるで自分も考えていたかのようにいう冷にリリスが、
「なんか嘘くせえなお前は」
疑いの目で見ているのだが、そんなリリスとは関係なく馬車はモアナの町に出発することに。
出発してからモアナの町に到着した。
途中は特に問題はなく、無事に到着できてゴーレムの出現もなかったので冷は安心していた。
「ここがモアナの町になります」
業者が言うと冷は、
「ありがとう」
お礼を言って馬車とは別れる。
人々は冷の到着には知らぬ顔で歩いていて、それは冷という名前は有名になっていてはいても、顔までは知らないし、どこにでもいる青年としか見ていなかった。
女の子を3人も連れているので目立ってはいたが、まさか冷とは思わなかった。
ミーコは到着してからの予定を冷に、
「モアナの町には到着できましたが、実際に来てゴーレムは居ないようです」
「ゴーレムが居たら俺の責任だろうな。居ないことを祈るさ。そしたらちょっと休憩してから予定を決めようか」
(居たらアンラッキーだな)
到着してから予定を決める余裕っぷりで飲み物などを飲食した。
そこで冷が考えていたのは冒険者ギルドに行ってクエストをするか、宿屋に行き休むかであり、時間はあるのだからクエストをと思っていて、
「みんな、モアナの町に来てもクエストをしたいか。俺としては時間はあるしクエストをと思ったのだが」
いきなりのクエストをしようと言う誘いにアリエルは最初に答えて、
「やっぱりそう言うと思ったわ。冷のことだからクエストしかやる事ないだろうって」
「まぁ暇だしな」
「それなら冒険者ギルドに行くようだわ。たぶんこのモアナの町にもあるでしょうし」
「冒険者ギルドに行きますか」
アリエルがほぼ賛成していてリリスはというと、
「バトルマニアらしい」
「それ、褒めてるのかな……」
(カッコよく聞こえるのだが、馬鹿にされてるようにも聞こえる)
「褒めてると思ってくれ。他にやる事ないならクエストでもいい」
リリスも賛成したのをみてミーコは、
「私もクエストで」
「よし、みんなが賛成してくれたから、冒険者ギルドに向かおう」
(違う町だとクエストも違うのかな)
すんなりと決まった予定はクエストをする、であって、町を歩いていると看板が出ており、武器屋や宿屋もあるし、何でもひと通りは揃っていたので、困ることはない。
直ぐにギルドの看板を発見して、店内をのぞいた。
店内は思ったよりも広く、掲示板に冒険者が集まっており、冷達の存在には見向きもしなくて、あまり見ない若造が入ってきたくらいの印象と思われた。
冷としてもその方が都合が良い。
アリエルが周りの冒険者を見て、
「ねえ、いっぱい冒険者がいるわ。でも私達なんて誰も知らないようね」
「その方が都合がいい。有名過ぎるのも問題なのさ」
(ピルトの町では最初はこうだったな)
なにしろゴーレムとの間に距離を置いておきたいのだから、正体は知られないに越したことはない。
それに知らない町に来たのだから、騒がれたくない。
静かに受付けのカウンターに行き、
「ここのギルドに、初めて来たのですが」
「そうですか、冒険者ギルドの登録も未登録ですか?」
「いいえ、登録は別の町ではしています」
「それでしたら、登録したお名前を教えてください。クエストランクの紹介に参考になりますから」
受付けは女性であった。
冷はやはり名前は言うしかないのかとなり、仕方なく名前を言うことにした。
断るのも変だなと思ったが性が綺麗なのもあり、つい納得してしまった。