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 厳しい訓練に集中していて、リリスを放ってしまった。

 今になって心配さが出てきていた。

 空き地から再び宿屋に戻ることにして、リリスを探す。

 アリエルが左右を見渡しながら、

 

「結局は行くところは限定されてると思う。宿屋くらいしかないもの」


「宿屋だよな。俺もそう思う。宿屋に戻るか」


(宿屋に居てくれればいいが……)


「きっと居ます……」


 とミーコは言うが顔には余裕がない。


「もし居なかったら」


「ヤバイな」


(ヤバイよな。俺にも責任はあるし)


「急ぎましょう」


「でもどこに行けばいいのかしら」


 ミーコは不安になり、


「考えるよりも行動するしかなさそう」


 そうしている内に宿屋に着いていて、急いで受付けを通り過ぎ部屋に入った。

 受付けではエクセリアが何も会話せずに通り過ぎていくので、何があったのかと不思議に思う。


「り、リリス!」


「リリス!」


 入るなりリリスと呼んだが返事はなくお留守番のネイルがひとりいて、


「あら、ご主人様達、リリスなら帰ってきてませんよ」


「本当か?」


「はい、本当です。リリスがどうかされたの?」


 部屋に居たネイルは、どうしたのかわからないが、冷がリリスを探しているのは理解できた。

 

「……居ないようです冷氏」


「そのようだな。仕方ないな、外を探してみよう。ネイルはここに居てくれ」


「わかりました。何があったかわかりませんが、探しているようですね」


「頼む」


 部屋には居ないとなると難しい探索になるなと冷は思うも、この町にいるのは確信していて、リリスが独りで冒険に出ることはないからである。

 そんなリリスに迷惑だなと感じて困る冷。


(全く困ったものだよなリリスはよ……)


 宿屋にいるだろうと思った。

 居るとしたら宿屋だろうというアテは見事に外れた。


「冷氏はリリスがどこに居るのか検討はありますか?」


「それが……ない」


 即答した。


(あとはどこだろうか)


「そうですよね」


 冷と同じく困った顔をして、考えてみるがミーコにもわからない。


「外を探してみましょうか、意外と歩いてるかもしれないし」


「そうだな、ここに居てもみつかるわけではないしな」


 そうして冷とアリエルとミーコは宿屋の外を探して見ることになる。

 町は至って何もなく、いつもと変わらぬ人々の姿しか見当たらないし、リリスの姿はどこにもなく、しばらくは捜索中となった。






 冷達がリリスを探している時にリリスはというと、近くを歩いていたのだった。

 ただ運悪く遭遇しなかっただけで、意外と近くにいた。

 特に行くあてはなかったが、宿屋に戻る気はなくて、ぶらぶらと散歩でもしようと思ったのだった。

 

「たまにはクエストや訓練をサボって遊ぶのも悪くないよな」


 と訓練などあまり好きではなく、というより嫌いだと思っていて、少しくらいならサボってもいいと考えたのだ。

 気ままに歩いている時だった。

 リリスの前に見たこともない者が現れて、


「リリスだな、あんた?」


「……誰です、知らないわね」


 どう見ても人族ではない姿。

 声で男とはわかるが、皮膚は金属で覆われており、まるで鉄で出来た魔物としか見えない。

 まさか魔族かと直感した。


「嘘をついてもダメ。もう調べはついてるんだ。リリス……魔族の中でも伝説の一族、淫魔族の末裔。そうだろ?」


「だったら何だってんだよ。淫魔なのは認めよう。淫魔に恨みでもあるのかよ。それにお前は誰なんだよ」


 自分が淫魔であり名前も知られていて驚いてしまうが、目の前にいる者が誰なのか気がかりとなった。


「フフフ、俺か。俺を知らないのなら教えてやるよ。俺の名はゴーレムさ」


「ご、ご、ゴーレムだと。魔人じゃないか」


 思わず声を上ずってしまうリリス。

 もちろん名前なら知ってるし、知らない者などいない程に有名人である。

 中級魔人のひとりと指定されている危険な魔族である。

 魔人がピルトの町に現れるなど、リリスも考えてないし、慌ててしまうが、運悪く誰もリリスの近くには居なかった。

 誰か居れば助けを求められるけど、誰もいないし、冷達が来てくれることも考えた。

 でもこの状況では無理だと思い、顔は苦しい。

 

「魔人だと知っていてありがとう。その通り俺は魔人ゴーレムさ。その顔だとあんまり歓迎されてないようだね。まぁそうだろう、普通は誰でも俺を知ったら怖がるからな」


「……」


「あいにく誰も近くには居ないようだし、話がある」


「話だって……。魔人と話すことなど思いつかないが」


「こっちにはあるんだよ。リリスはなぜあんな冒険者と仲間となっているのだ。かの有名な淫魔の一族なのだろ。魔族を支配していた時代からしたら、この状況は悲しいと思える。それでだ、今こそ我らの仲間になって人族など蹴散らしてしまえという話だ」


 ゴーレムはリリスを冷から切り離して魔人側に来るように言った。

 ゴーレムには冷と一緒に居るのが理解できないのであり、誘えば魔人側に来ると読んでいた。

 それに冷に夜中、あんな痴態をされられていたのだから、冷を嫌っていると考えた。

 きっと無理矢理に仲間にさせられていると。

 誘われたリリスは、


「なんだ、話があるというのは、そんなことか。断る」


 話に乗ると思っていたので、びっくりするゴーレム。

 ゴーレムの意に反してあっさりと断る。


「断るとは、どうしてだよ。あの冷に無理矢理に仲間にさせられているのだろう。何か弱みがあるのか。それで仲間として裏切れない理由が」


「そんなもんない。好きで冷と仲間になってるんだよ。お前とは仲間になる気はない。分かったら、さっさと帰りなゴーレム」


 キッパリとゴーレムの誘いを断るとリリスは向きを変えて離れようとた。

 誘いにのらなかったリリスに、

 

「嘘をつくな。理由はあるだろ。好きで冷といるなど嘘だ。アレをされて裏切れないのだろう」


「アレとは……」


 ゴーレムがアレと言ったのでリリスは考えてみたが、思い当たらないし、ゴーレムとも初対面であるから知ってることも限られるはずである。


「昨日の夜のことさ。冷に裸にされて……」


「なっ……、なぜそのことを知ってる、知ってるはずかない!」


 慌てて否定するが、ゴーレムの言うことは間違ってはいなかったから、ごまかすしかない。


「やはり、弱みを握られていたのだな。俺と一緒に手を組んで冷を叩きのめそうじゃないか。どうだ憎いのだろ?」


 ゴーレムはこれで仲間になると確信して言った。

 リリスは夜の出来事を知られて恥ずかしくなるが、


「馬鹿かお前は。冷を憎いなんて思ってねえよ。わかったよ鉄野朗っ」


 キッパリと断る。


「なにっ! この俺を拒否してただで済むと思ったか。こうなったら無理矢理にでも連れて行くよ……」


 ゴーレムは険しい顔を作ったが、一転して薄笑いになる。

 話が合わないなら、強引にでも連れて帰る作戦に切り替えたからであった。

 ゴーレムは和やかなムードから攻撃的に変化した。







 リリスがゴーレムと出会った時に冷達は、近くにまで来ていて声がしたのをミーコが確認する。

 ミーコにはリリスの声に似ているとなり、


「冷氏、今、リリスの声が聞こえたような気がするのですが」


「ああ、俺も聞こえたからきっとリリスだろう。なにやら怒ったような声に感じたんだよな。怒ってるとしたら何か異変があったのかもだ、声のした方に行ってみよう」


「冷が言うなら居るのかも。心配です」


「何もなければいいですが……」


 冷が感じたのはリリスの危機的な状況であった時の声。

 アリエルも心配してしまう。

 心配は的中していた。

 リリスはゴーレムに捕まったのだった。

 それは力関係から言って当然のことであり、とてもリリス勝てる相手ではない。

 ゴーレムに捕まった瞬間をみたアリエルが、


「あれは……リリスでは冷!!!」


 発見して冷に教える。


「発見したぞリリス。何者かに捕まってるじゃないか!」


(誰だか知らないが許せないな)


「早く救出してあげて!」


「わかってるさ!」


 冷はアリエルとミーコよりも速度を増して走りリリスのもとに駆けつけ相手に向かって、


「離せリリスを……。誰だか知らないが?」


 冷はゴーレムに向かって言い放つ。

 もちろん魔人だとは思いもしないで。


(誰だコイツは?)


 冷の掛け声で手を止めゴーレムは、


「フフフ、現れたな。その言い方だと、キサマが冷だな」


 冷の言ったのを完全に無視してリリスを離さない。

 目が合った瞬間に殺気に満ちる。

 なぜ?

 冷は名前を言われる覚えはなかった。

 なのに、的確に名前を当ててきた。

 いったい誰なのかと頭を回転させたが、わからなかった。

 もう考えるのが面倒になる。

 

(面倒くさい。完璧に敵だろう。容しゃなく攻撃決定だな)

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