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リリス抜きで訓練は開始された。
本当は全員一緒がベストだが、女性だけにいまいち考えてることが理解できないとこもあった。
(とりあえずミーコのスキルを披露してもらおうかな。最も興味あるし。女性の気持ちは難しいです)
先ずはミーコにスキルを試してもらおうとする。
「最初はミーコ、君のスキルを試してくれないか。残像だろうから、俺が剣で攻撃を軽くしてみよう」
冷に指示されたらミーコは、
「わかりました冷氏。早速、使ってみます」
ミーコが空き地の真ん中に行くと冷も続けて行き、正面を向き合って構える。
ミーコは聖剣ヴェルファイアを、冷はナギナタとなった。
(まずは軽く上から振り下ろしてみたい)
冷はナギナタを上段に構えるとミーコに向かって、
「いくぞ!」
「はい、いつでもどうぞです、スキル……ムーンスライド」
冷の直進に対して慌てずに対応を選んで、普通にいけば防御か身を後方にかわすのだが、スキルであるムーンスライドはそのどちらでもない。
防御もしないで冷の方に前進していくという選択をとる。
冷もこの選択の行動には目を見張る。
(俺と同じく前に来る気か……)
ナギナタがミーコに振り下ろされた瞬間である。
「当たった……!!」
アリエルは言葉に詰まった。
当たったと思った時にミーコが2人に分裂してしまったからで、同時に2人のミーコが見えた。
冷のナギナタはミーコに当たったのにすり抜けたのだった。
「空振りか!」
冷もマユを寄せる。
ナギナタは空振りに終わったからで、残像を斬ったのであった。
(これが残像のムーンスライド……)
ミーコは今度は空振りした冷に聖剣ヴェルファイアを突きつけると、冷は素早く後方に下がっていく。
「……やるなミーコ。今のなら実践でも使えるのは確実だ。魔物から襲われてもムーンスライドすれば安全だな」
「その様です。今までなら後方に避けていたケースも避けずに攻撃を出せることもありそう。まぁ魔物とはやってみないとわからないけど」
「その残像は今のは2人になったけど、3人とか増やせるのかな。多ければ多いほど相手は混乱するから」
欲張りな気持ちが冷に芽生える。
2人になれるのならば3人にもと。
(3人だとすげぇよ)
ミーコは考えてもいなかった。
3人になれると。
でも全く無理だとは思えなくて、
「そこまではわかりませんので、冷氏がもう一度攻撃してきてもらえば試せると思う」
「よし、もう一度いくぞ!」
「はい!」
先程と同じくナギナタを構えて上段から振り下ろす。
ナギナタの落ちてくるのと同時にミーコはムーンスライドを発動させてみる。
出来る限り残像を多く作れるように素早さを最大限にまで高めた。
「……やはり2人か……」
冷には同じ様に2人にしか見えなかった。
(う〜ん、ここが現在の限界かな)
「最大限にまで努力したけど変わらないよう。スキルにも熟練があるから使っていくうちに3人にも出来るかも」
今のミーコにはこれが限界であったのだが、本来ならいきなり新しいスキルを覚えて直ぐに使える方が珍しい。
普通の冒険者ならまず使うことは無理だと言える。
それをあっさりと残像をしてしまうミーコの能力の高さが改めて証明されたのだった。
冷もそのことに驚いていた。
(それでもいきなり残像出来るとはな、やるなミーコ)
ミーコの新スキルはこの訓練で把握できたので、実践でも使えるとふんだ。
アリエルが見ていてミーコのセンスに驚いて、
「凄いなミーコ。センスあるわね」
「やったら意外とできたって感じ」
「本当に2人に見えたわ。どっちかがミーコ本物なのでしょ」
「そりゃそうよ」
次に観戦していたアリエルの番となる。
今のミーコの能力の高さをみたら、かなりのプレッシャーになっているだろうと思い、
「よし次はアリエル、君のスキルを確認しよう。別に緊張することはないから」
「オッケー、ミーコと比べても決して負けないわよ」
ミーコの見て触発されたのか、ヤル気に満ちて、冷の前にまで来た。
いつにも増して眼光は活気が溢れているのを冷も感じ取った。
「確か、光の壁っていったよな。自分を防御する壁的なスキルだろう。どれ程の防御力かは受けてみればわかる。それではミーコに任せてみたい」
(ちょうどいい相手になるだろう)
アリエルの相手にミーコを指名して、ミーコは大きく頷くと、
「はい、相手になりましょう。いいですかアリエル?」
ミーコは聖剣ヴェルファイアをアリエルに向けて挑発する。
「いいとも! ミーコの聖剣ヴェルファイアを弾き返してやります……光の壁!」
ミーコの挑発を受けて立つアリエルは新スキルの光の壁を発動。
自身の持つ魔力を両手に込めてかざした。
手からはまばゆい光が発せられて、塊となっていくとアリエルを隠すくらいまで大きくなった。
光はあっという間に壁となり、ミーコの前に立ちはだかる。
「これが、光の壁のようですが、遠慮なく攻撃しますから!」
「どうぞ!」
ミーコは話し終えると同時に両足をアリエルに向けて視線は壁に。
ミーコとしては壁を叩くか、それとも刺すかを考えたのであるも、壁の強度を測るには叩くのが1番手っ取り早いと思い、聖剣ヴェルファイアを上から振り下ろした。
光の壁と聖剣ヴェルファイアの衝突。
2人の間には火花が飛びちると、その飛びちる欠片は光の壁であった。
「壊れた……壁が」
アリエルは粉々に壊れた光の壁をみてショックを受けて、残念そうにした。
「当たった感触は……アレって感じでしたが。壁っていうよりも板って感じしました」
実際に聖剣ヴェルファイアで砕けたのは確かであったので、ミーコも申し訳なさそうにいう。
その一部始終を見ていた冷は、壁と言うがそれほどでもないと判断し、この程度では実践では厳しいだろうと思う。
「アリエル、どうやら光の壁はまだ未完成と言えるだろう。もちろん壁にはなっているが耐久力は貧弱だ。これからトレーニングして耐久力を上げる必要なスキルだな」
今のが実戦だったら大怪我を、してかもしれない。
(いきなりの実戦は危ないかもな)
「……そのようね、ミーコのムーンスライドはかなり成功してたから悔しいなぁ」
「悔しがることはないです。光の壁は未完成なだけで完璧な耐久力にまでなったらどうなるかわからないです。もしかしたら鉄壁な壁になるのかもしれません。可能性はあると感じましたよ」
ミーコは悔しがるアリエルを励ますようにして言うのは、壁が硬くなったらと実感したからであり、その潜在的な素質を見たからだった。
実際にスキルを覚えていきなり壁の形になっているあたりは非凡と言わざるを得ない。
ミーコが感じたのはアリエルの非凡な素質であって、女神の素質は底しれない深さを持っていて、それを見抜いたミーコもまた凄い素質を持ち得ているからこそ見抜けたのである。
いっけんすると普通の女の子の剣でのトレーニングにしか見えないが、とても奥深い探り合いが行われていて、冷も例外ではなかった。
(2人ともやはり戦いの才を持っているな今のは。あの壁だって本当は作るのさえ難しいのかもしれないし。焦ってはいけない、これから強くなってくれればいいのだ俺としては)
この2人を前にしても冷は特別であり、冷から見たらひよっ子同然となるし、可愛い存在でしかないのが冷の凄さと言えよう。
「よーしこの辺で訓練は終わりとしようか」
しばらくは訓練を続けると汗をかいてしまい、本日の訓練は終わりにしようとなり、アリエルとミーコは汗を拭きつつ疲れもみえていて、冷は良くやったと感心した。
「ふう〜〜、疲れましたわ」
「ムーンスライドの訓練は楽しめました。今後のクエストでも試してみたいです」
「それは楽しみだ、この調子でクエストといこうか。冒険者ギルドに向かうぞ」
そこでクエストの話をしてみる。
(ここで終わりだと思ったら大間違いだぜ)
「ちょっと待ってください冷氏。このままクエストをしたい気持ちはわかります。でもこのままではリリスは置いていくことに。それはかわいそうでしょう」
先を急ぐ冷に対してリリスに気を使ったミーコ。
そのことで冷は慌てて、
「そうだったな、悪かったよミーコ、すっかり忘れていた。ごめんごめん。リリスをむかえに行こう。リリスも一緒にクエストだ。誰一人としてかけたらダメ。俺としたことが」
(リリスのことを忘れていた。俺としたことが今のスキルをみていて夢中になっていたようだ)
「わかってくれればいいです。リリスもきっと不安だと思うから」
「ああ見えてリリスは心配性なのよ」
アリエルもリリスのことが心配していて、ケンカすることはあっても、決して突き放したことはなかった。
「ああ見えてか……。それを言ったらまた怒りそうだけどな……」
「アリエルったら、絶対に言っちゃダメですよ!」
ミーコがアリエルにけん制した。
リリスの機嫌を良くしにいくのに、ケンカは良くない。
「わかりました、はい」
冷とミーコにきつく言い渡されて、反省したアリエルであった。