追補3: 短編小説や数話の連載小説の構成について
前々回の追補1や前回の追補2では、総文字数が一万文字前後と一万六千文字前後について、短編小説と連載小説でポイントにどのような変化が生じるかを確かめました。
ここでは「追補1と追補2で扱った作品群」を元に、ここの作品にどのような構成(話の分け方)があったかを、実際に見ていこうと思います。
1.対象となった作品群のジャンルについて
追補1と追補2の補足として、それぞれで「四大ジャンル」と仮称した集団の内訳、「恋愛」「ファンタジー」「文芸」「SF」の四ジャンルの作品数の比率を以下に掲載します。
表11: 追補1と追補2の「四大ジャンル」の作品数の内訳(短編ごと、連載ごとでの割合)
上記で見る限り、文字数や掲載形式(短編か連載か)に関わらず、以下の範囲だと判ります。
「恋愛」=30%前後
「ファンタジー」=20%台前半
「文芸」=40%前後
「SF」=5%~7%ほど
したがって、追補1と追補2の調査範囲全体だと、「文芸」が最も多く、続いて「恋愛」「ファンタジー」「SF」となります。
もっとも「上位陣が同じ傾向を示すか」などは別です。実際、上位に限定すると「恋愛」が強いようです。以下に、上位20%に限定した表を記します。
表12: 追補1と追補2の「四大ジャンル」の上位20%の作品数の内訳(短編ごと、連載ごとでの割合)
上記で示される通り、ポイント上位20%の作品に限定すると「恋愛」が六割近くを占めます。
そのため以下では「人気作品ではこのような構成が散見された」と語る箇所がありますが、それらは多くの場合「恋愛」の傾向を示すと思われます。
2.上位作品の外面から読み取れる構成(どのように一話として分割しているか)
各作品の構成的な要素を、なるべく簡単に読み取れるものから調べてみました。
下記では、「10,000±1,000文字」の連載作品、短編作品、「16,000±1,000文字」の連載作品、短編作品の四区分から上位20作品ずつを抽出しています。
表13: 追補1と追補2で示した各区分の上位20作品の傾向
※「サブタイトル」「追加」「内部区切り」の項目の数値は、該当する作品の数
※「上下」はサブタイトルの命名が「前編・後編」「上・中・下」などであった作品の数
※「視点」はサブタイトルの命名が「A視点・B視点」などであった作品の数
※「話」は後日談などの追加がある作品の数
※「告知」は直接ストーリとは関係のないお知らせがある作品の数
※「空白」は一話の中での纏まりを他より長い空白行で表現する作品の数
※「番号」は一話の中での纏まりを節番号で明示する作品の数
※「記号」は一話の中での纏まりを区切りを表す記号の行で明示する作品の数
※「話数平均」は該当する連載作品(全20作品)の話数の平均値
・表13の範囲、項目について
上記は前々回と前回に扱った集団のポイント上位20作品ずつを実際に確認してみた結果です。
合計80作品を読み込むのは困難ですから、「サブタイトル」「追加」は目次や粗筋から読み取れる内容ですし、「内部区切り」も連載なら第一話、短編なら本文を眺めてみただけです。
したがって、お話自体がどのように構成されているかではなく、見た目がどうなっているかを示しただけにすぎません。
しかし、結果からは有意な情報が読み取れそうです。
・表13からの所感 その1「サブタイトル」「追加」
たとえば一番上の行「10,000±1,000文字の連載作品」に相当するものですが、サブタイトルで「前編・後編」などと明示したものが7作品、視点ごとの構成が2作品でした。
これは半数近くが「最初から各話の位置づけが明確だった」と言えるかもしれません。
また何らかの追加が合わせて6話あり、全体の三割近くは「本編+α」だと読み取れます。これは「人気があるから後日談」または「更なる長編化を別作品で掲載するなどの告知」などだと思われます。
上記の「サブタイトル」「追加」に関しては、文字数と関係なく二つの連載の区分で殆ど同じ結果となりました。
・表13からの所感 その2「内部区切り」
「内部区切り」は興味深い結果となりました。
「空白」は、他が全く空白行を用いない場合は一行の空白行、頻繁に一行や二行の空白行がある場合は五行などの長い空白行を各所に挿入しているものです。
それに対し「番号」は「1、2、3……」などの節番号、「記号」は「※※※」や「■ ■ ■」などの記号のみの行で区切りを表現しているものです。
なお「空白」と「記号」を併用している場合は「記号」、節番号を併用している場合は「番号」に分類しました。
「10,000±1,000文字の連載作品」だと「空白」で表現するものが13作品、「記号」が4作品でした。つまり、見かけ上は全く区切りが読み取れないものも3作品存在しました。
ここに関しては、文字数が多い「16,000±1,000文字の連載作品」だと「記号」を選んだ作品が増えるのも興味深いです。
短編も文字数が少ないものは「空白」が多く、文字数が多いものは「記号」や「番号」となっています。こちらは一話が一万文字や一万六千文字ですので、全てが何らかの区切りを用いていました。
・表13からの所感 その他&まとめ
「話数平均」では一万文字の連載は4.0話、一万六千文字の連載は4.7話となっています。したがって、追加された分を除くと、たとえば「4話だが本来は1話少ない3話構成」というものが25%~30%存在することになります。
ちなみに表からは読み取れませんが、全体の80作品の78%が恋愛ジャンルの作品でした。
以上から、上位作品ではサブタイトルで該当話の意味を明示したり、内部区切りで構成を判りやすくしたりと、各種の工夫をしていると言えそうです。
もっとも正確なところは、平均的な作品からサンプルを抽出し比較しないと判りません。したがって上記は、あくまで単なる仮定にすぎません。
3.中位作品の外面から読み取れる構成(どのように一話として分割しているか)
最上位の作品だけでは、数値が人気作品の傾向か判断できません。そこで中位作品も纏めてみました。
表14: 追補1と追補2で示した各区分の中位20作品の傾向
※各項目の意味は「表13」と同じ
表13: 追補1と追補2で示した各区分の上位20作品の傾向
(比較用、上からの再掲載)
・表14の範囲、項目について
上記の「中位20作品」は、それぞれの区分、たとえば「10,000±1,000文字の連載作品」であれば、その総作品数をポイント順に並べ中央に近いところから20作品選んだことを意味します。
たとえば該当範囲の作品が500作品であれば、検索で25ページ結果が返ってきますが、この中央に相当するページを調査対象としました。
なお、調査項目は表13と同じです。
・表14からの所感 その1「サブタイトル」「追加」
まず「視点」で話を分けたものは存在しません。これは恋愛ジャンル中心の上位に対し、中位では恋愛ジャンルが少ない影響だと思われます。
表からは読み取れませんが、中位では全体の80作品の23%が恋愛ジャンルの作品でした。それに対し、上位作品では78%です。
また「上下」も1作品ずつですが、こちらは話数が多く、2話や3話で終わっているものが該当範囲に2作品ずつしか存在しなかったためだと思われます。
「追加」が少ないのは上位作品とは違い「この話に追加を」となる動機が少ないからだと思います。ただ、「話数平均」がそのままの数値として読み取れることは理解できました。
・表14からの所感 その2「内部区切り」
興味深いのは「内部区切り」です。ここは明らかに上位作品と有意差があると思われます。
上位の場合と違い、文字数による傾向の変化が殆どありません。一万文字でも一万六千文字でも、一定に近い割合です。
上位作品の場合、一万文字なら「空白」、一万六千文字なら「記号」と明確な偏りがあったのですが、対照的な結果になりました。
また連載で「内部区切り」を何も設定していない作品数が増えたのも興味深い点です。
上位作品の場合、二つの区分を合わせた40作品のうち、何も設定していない作品が6作品です。それに対し、中位作品は40作品のうち15作品が未設定です。
中位作品では話数が増えていますから、一話あたりの文字数は減っています。そのため区切りを設けない作品が増えたのかもしれません。
なお短編では1作品のみ「内部区切り」を未設定のものがありますが、サンプルの量からすると例外として扱うべきでしょう。
・表13(上位作品)と表14(中位作品)の「話数平均」の比較
「話数平均」について、上位と中位を比較すると面白いことが読み取れます。
上位、10,000文字前後=4.0話(一話2,500文字)
上位、16,000文字前後=4.7話(一話3,404文字)
中位、10,000文字前後=5.9話(一話1,695文字)
中位、16,000文字前後=8.6話(一話1,860文字)
上位の場合、一万文字台から一万六千文字台への増加、つまり全体の文字数が1.6倍増えたとき話数は1.18倍となっただけです。
それに対し中位の場合、同じ増加で話数が1.46倍になりました。
上記からは、上位作品は「総文字数が増えても話数の増加が少ない」つまり「全体の分量増加が各話の文字数増加となった」ことが理解できます。
その裏返しに近いですが、中位作品は一話の文字数が固定に近く「全体の増加比と話数の増加比が連動している」ように感じます。
これは上位だと「構成(話の分け方)」が、中位だと「一定文字数での公開」が先にあると示しているのかもしれません。
もしかすると、中位の場合は「書きやすさ」「公開しやすさ」を優先した結果が表れている。そのようなことを感じました。
4.恋愛ジャンルと他ジャンルの差
上位と中位を比較した結果、生じる疑問は「各ジャンルごとに何らかの偏りが出るか」という点です。
つまり今回の上位が恋愛ジャンル中心だから、話の区切り方にも恋愛ジャンル特有の何かが出た可能性もあります。
そこで上位作品を「恋愛」以外で纏めます。
なお恋愛ジャンルが八割近くを占めるため、除外すると母集団が随分と小さくなります。元々それぞれに20作品ずつ存在しましたが、他ジャンルは割合通りに4作品または5作品ずつしかありません。
そのため上位10作品となるまで、更に調べました。
表15: 追補1と追補2で示した各区分の上位10作品の傾向(恋愛ジャンルを除外)
※各項目の意味は「表13」と同じ
表13: 追補1と追補2で示した各区分の上位20作品の傾向
(比較用、上からの再掲載)
これによると恋愛ジャンルを除外しても似たような傾向を示していると言えそうです。特に「内部区切り」に関しては、文字数が少ない場合「空白」で多い場合は「記号」に移ると理解できます。
ただし調査対象を下位まで広げたためか、「内部区切り」の傾向や「話数平均」が中位との中間くらいになったようにも思えます。
追加対象の順位は、連載作品だと上位約50位まで、短編作品だと同じく上位約40位まででした。
しかし連載だとポイントの下限は恋愛ジャンルを含む場合の半分から三分の一、同じく短編だと八割から半分まで下がっています。
そのため傾向が中位に近づいているという推測には、一定の説得力があると思います。
このことから話の分け方、内部での区切り方について、以下が言えそうです。
A.恋愛ジャンルと他の傾向に、さほどの差はない。
B.ただし、傾向の偏りは顕著ではなくなる。
C.顕著ではなくなる理由として、より中位に近いサンプルが加わったことが考えられる。
5.まとめ
まず、対象としたサンプル数が少ないため、安易に結論を出せないことを記しておきます。
その上で以下を挙げたいと思います。
A.上位作品と中位作品に傾向の差が見られた。
B.上位作品は「内部区分」の傾向に偏りがある。文字数が多くなると番号や記号で明示的に一話の中を分割している。
C.Bに関して、ジャンルによる違いは無視して良いと思われる
D.上位作品は「サブタイトル」に上下構成や視点ごとなど、構成的な意味を持たせたものが多い。
E.ただしDは、中位作品で2話構成や3話構成が非常に少ないからでもある。
F.Dに関して、上位作品ではジャンルによる違いは少ない。
G.上位作品と中位作品の話数の傾向も、上位では構成を意識しているという傍証かもしれない。
特にBですが、これは上位作品が「ボリュームに相応しい工夫を凝らした」ということだと思います。
Dも作品構成の工夫の結果かもしれませんが、判断するには中位のサンプル数が足りないかもしれません。ただし上位でジャンルによる差が少ないため、Dも全般的な意味での工夫の表れと考えて良さそうです。
Gについてですが、「なろう小説API」では作品ごとの話数が取得できるため、更に多くのサンプルを元に論ずることは可能です。そのため、ここでは可能性を挙げるのみとしておきます。
ともかく「人気作品の構成」には統計的に見ても一定の理由がありそうです。つまり同じボリュームであっても、より読者に合わせた形を選んだ作品が高評価を得ていると思われます。
情報引用元、他作者様の関連作品について、各話の末尾にご紹介のリンクを作成しました(作品の紹介は作者様から許可いただいております)。興味のある方は、ご参照なさってください。
以下、情報引用についてです。
第一話「序.趣旨、結果の概要、調査手法など」と第三話「1.ジャンルごとの文字数の傾向」の後書きで、佐々木尽左様の「『小説家になろう』をデータ分析してみた」から全作品で何ポイントだと上位何割に入るか、という情報を引用させていただきました。
これらを踏まえてお読みいただくと、本エッセイで扱う数値をより実情に即して把握できると思います。