2.母集団の大きさとの関係
ここでは母集団の大きさによる最頻出などへの影響を、幾つかのジャンルを対象に見ていきます。
「全短編」に関する項「0.全体的な文字数の傾向」でも触れましたが、全ての短編では短い作品が圧倒的に多いことが理解できました。
これを「恋愛」「ファンタジー」「文芸」の三ジャンルに関して、ジャンル別の傾向がどうなるか調べました。
本来なら「1.ジャンルごとの文字数の傾向」で扱った全ての区分について調べたいところです。
しかし「SF」「童話」「エッセイ」は元々の作品数が少ないため、ある程度は上位500位の傾向と似るだろう、と推測しました。そこで作品数が多い三つのみとしました。
ご要望が大きければ、除外した三つも別途調査し掲載するかもしれません。しかし、まずは母集団が大きく、上位500位以内がより希少なものとなるジャンルを対象に語りたいと思います。
1.「全短編」の全作品の文字数の傾向と上位に入った割合
比較のため再掲載しますが、「0.全体的な文字数の傾向」で触れたので説明は省略します。
図5: 全短編 上位500内 文字数ごとの作品数の割合
(「0.全体的な文字数の傾向」からの再掲載)
図4: 全短編 全作品の文字数ごとの作品数
(「0.全体的な文字数の傾向」からの再掲載)
表2: 全短編 上位500内や総数の実数と割合
(「0.全体的な文字数の傾向」からの再掲載)
※左端の列は何千文字台かを意味する
※「総数」は該当範囲の作品数
※「該当数」は上位500内の作品数
※「割合」は「該当数/総数」
総数:206,275作品
500位:2,946pt
2.「恋愛」の全作品の文字数の傾向と上位に入った割合
図12: 恋愛短編 上位500内 文字数ごとの作品数の割合
図13: 全恋愛短編 文字数ごとの作品数
表4: 全恋愛短編 上位500内や総数の実数と割合
※左端の列は何千文字台かを意味する(表2と同じ)
※表題(横方向のラベル)も表2と同様
総数:12,449作品
500位:1,896pt
まず図12「恋愛短編 上位500内 文字数ごとの作品数の割合」ですが、「全短編」の場合(図5)と大まかには似た傾向だと思います。
つまり母集団を「何千文字台」という形で分割し、それぞれで上位に入る割合を出した場合、短い作品が不利であると読み取れます。
ちなみに割合の値が「全短編」の場合より遥かに高いですが、これは作品数が大きく異なるからです。
表4の下に恋愛ジャンルの総数と上位500位のポイント数を記しました。また「全短編」も同様に表2の下に追記しました。
「全短編」では上位500位までは上から0.24%に入った作品ですが、「恋愛」は4.02%です。そのため「恋愛」で上位500に入る割合も上がります。
次に図13「全恋愛短編の文字数」ですが、「全短編」の場合(図4)とは違い、1千文字未満の作品に極端な集中はありません。しかし、1千文字台より多いものについては、ほぼ似た傾向となっています。
このことは恋愛ジャンルに関して「少なくとも一千文字以上は必要と考える作者様が多かった」ということではないでしょうか。つまり多くの作者様は「恋愛ジャンルにショートショート的な作品は似合わない」とお考えになったのだと思います。
最後に表4「全恋愛短編 上位500内や総数の実数と割合」です。
これは「全短編」の場合(表2)で触れたことの繰り返しですが、以下になります。
・短い作品が上位に入る割合は低い。
・中程度は割合も多くサンプル数もそこそこあるから信頼できる。
・後半はサンプル数が少ないから疑問符が付く。
「恋愛」に関して一言で纏めるなら、「全短編」とほぼ同じ傾向だった、になると思います。
3.「ファンタジー」の全作品の文字数の傾向と上位に入った割合
図14: ファンタジー短編 上位500内 文字数ごとの作品数の割合
図15: 全ファンタジー短編 文字数ごとの作品数
表5: 全ファンタジー短編 上位500内や総数の実数と割合
※左端の列は何千文字台かを意味する(表2と同じ)
※表題(横方向のラベル)も表2と同様
総数:7,684作品
500位:417pt
まず図14「ファンタジー短編 上位500内 文字数ごとの作品数の割合」ですが、「恋愛」(図12)や「全短編」(図5)に比べ、文字数が少ない作品の割合が増えています。
ただし、これが「ファンタジー」での短い作品の有利さを示しているかには疑問が残ります。
ポイントで見ると上位500位は「ファンタジー」が417ポイント、「恋愛」が1,896ポイント、「全短編」が2,946ポイントです。
つまり「ファンタジー」は400ポイント以上を対象にした場合、「恋愛」と「全短編」は更に多いものを対象にした場合の傾向かもしれません。これについては、別途論じます。
次に図15「全ファンタジー短編 文字数ごとの作品数」ですが、大まかに言えば「恋愛」の場合(図13)に似ています。つまり1千文字未満の作品に極端な集中はありません。しかし、1千文字台より多いものについては、ほぼ似た傾向となっています。
少し意外に感じたのは「ファンタジー」の方が「恋愛」より1千文字未満を選ぶ作者様が少なかった、ということです。
つまり全作品数で論じた場合、ファンタジージャンルは恋愛ジャンルよりも「ショートショート的な作品は似合わない」と考える作者様が多かったのかもしれません。
最後に表5「全ファンタジー短編 上位500内や総数の実数と割合」です。
これは今まで触れてきたことと、図14での「文字数が少ない作品の割合が増えている」を合成した結果だと思われます。
なお、2万2千文字台の該当数がゼロですが、その前後も該当数が3です。やはり後半部分、つまり1万5千文字台以降や2万文字台以降になると個別の範囲のみで傾向を見出すことは難しいのでしょう。
4.「文芸」の全作品の文字数の傾向と上位に入った割合
図16: 文芸短編 上位500内 文字数ごとの作品数の割合
図17: 全文芸短編 文字数ごとの作品数
表6: 全文芸短編 上位500内や総数の実数と割合
※左端の列は何千文字台かを意味する(表2と同じ)
※表題(横方向のラベル)も表2と同様
総数:22,670作品
500位:413pt
まず図16「文芸短編 上位500内 文字数ごとの作品数の割合」ですが、どちらかというと「ファンタジー」(図14)と似た傾向で、文字数が少ない作品の割合が増えています。
これは推測でしかありませんが、どちらも400ポイント以上を対象にした場合の傾向かもしれません。
また、山が二つに分かれているように見えるのも興味深いです。ただし前述の通り、後半部分に関してはデータの絶対数が少ないので安易に結論を出せません。
一つ推測を挙げるとするなら、やはり文芸ジャンルは下位ジャンルごとに分けてみるべきではないか、つまり下位ジャンルのあるもの(もしくはある群)が一つ目の山、別のものが二つ目の山を作っているのでは、ということです。
次に図17「全文芸短編 文字数ごとの作品数」ですが、大まかに言えば「恋愛」(図13)や「ファンタジー」(図15)に似ています。ただし1千文字未満の作品は、かなり増えています。
このことは文芸ジャンル全体、あるいはその下位ジャンルに「ショートショート的な作品が多い」可能性を示していると思います。ただし、単に試験的な投稿や習作が多かったという可能性も否定はできません。
最後に表6「全文芸短編 上位500内や総数の実数と割合」ですが、これは今まで触れてきたことで理解できるので説明を割愛します。
4.母集団の大きさとの関係の総括
基本的には「全短編」で割合を見たときと同じことが、ジャンル別でも成り立つと理解できました。つまり、上位に入っている短い作品が多く感じるのは、元々の母集団が大きいから、ということです。
ただし各ジャンルの分布については、ジャンルごとの特性か、上位500位の全体での割合の違いか、そういったものに影響されている可能性が高そうです。
次項では、恋愛ジャンルを対象にポイント数(順位)と文字数の分布の変化を掘り下げてみます。