彼方へ零る涙
「……星々が、美しい……」
イムニティ本部の屋上。
そこに、落下防止の柵に手を掛け、一人ボンヤリと空を眺めるレティーシャ・ダナムの姿があった。
この日の夜は、雲一つない広々とした星空が広がっている。
あのオレンジ色の星はうしかい座のアークトゥルス。
あの南の空の星はおとめ座のスピカ。
あの大三角形の最後の一角はしし座のデネボラ、だっただろうか。
無数の星が散乱する広大な宙の中で、自らの存在を主張する、強く美しい星々。それらを見ていると、不思議と心に響いてくるのだ。
────私は自分で良いのだ、と。
「何故、幾ら見ていても飽きないのでしょう?不安感?安心感?いえ、ただ、こうして遥か遠くの世界にも、幾つもの星々が存在していることが……私にとっては、とても温かい」
曇りの夜空は恐い。
どれだけ大きくても、どれだけ強い力を発していても……地球の膜という極めて小さな障害物に遮られ、人の目に映ることすら叶わなくなる。
それが、とてつもなく恐い。
だが、怯えてばかりはいけない。星々には出来なくとも、自分には為す術があるのだから。
「そうですね……感傷に浸るのは今日までにしましょう……でも、だからこそ、今日位は……」
気付けば、目尻が熱い。
疑うまでもない。
確かめるまでない。
それはきっと、感情の叫びだ。
レティーシャ・ダナムが、自ら心を抑えつけた反動で生まれた感情の爆弾が破裂した音だ。
だから。
「────泣いても構いませんよね」
止め処なく。
感情に促されるままに。
レティーシャの目尻から、涙がこぼれ落ちたのだった。
────世界革新まで、残り三日────