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イノヴェイティブ・パニック  作者: 椋之 樹
第3章 脱退まで・・・
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親友の距離感



「イムニティは、本当に今後の方針を変えるつもりはないんだね?」

 温かい湯気が立ち込める、渋みのある紅茶を一口飲んで皿の上に置く。

 すると、レティーシャはカップを持ちながら、淡々とした口調でこう返してきた。

「えぇ、支部長の意思に変わりはありません。今後も、私達は同じ事を繰り返すでしょう。例え、倫理的に壊れたことだとしても……」

 イノヴェミック発生により、生態系が大きく狂ってしまった世界を救う為。その鍵を握ると思われる汚染者ポルターを、倫理的に外れたやり方で利用する。

 彼等は既に組織ぐるみで、そういった行為を続けていた。

 そこへ横やりを入れて辞めるように促したところで、最早事態は収拾の兆しすら見せないだろう。

 それが気に入らないのならば。

 それが納得いかないのならば。

 自分に出来ることは、必然的に限られてくるのではないだろうか。

「……なら、私は……」

「イムニティと同じ道は踏めない」

 自分よりも先に、レティーシャがカップに口を付けながら、答えを言葉にした。

 驚きはしない。

 ただ、嬉しいという感情と共に、彼女へと微笑みかけた。

「……流石、よく分かっているね」

「伊達に、あなたの親友はやっていませんから。あなたの優しさと強さを合理的に考えれば、難しい結論ではありません」

 こんな私ででも。

 組織の意思に反する私ででも、まだ親友と言ってくれるのか。

 本当なら啀み合いが始まってもおかしくないのに、むしろ安心感が沸き上がってきて、何とも言えない心持ちになってきた。

 だから自分も、負けじと紅茶を飲み干して、こう言い返した。

「私もよく理解しているつもりだよ。君は、それを無理に止めるつもりはない。だけど、もし敵として立ち塞がるのならば……容赦はしない、でしょ?」

「……雰囲気が台無しな探り合いですね。そういうものは、あくまで結論として口にすべき言葉なのでは?」

「親友に空気なんて不要だよ。私達はとっくに手を繋いでいるんだから。話し合うのも、殴り合うのも、丁度良い距離間だ」

 彼女が自分を親友と呼んでくれるのならば……私も親友として彼女の前に立とう。

 そう決意して、カップを皿の上に置くと、レティーシャは相変わらずカップを持ったまま、少し寂しそうな顔で小さくも長い息を吐いた。

「何か辛いことがあったら、私を頼って下さい。その時は、必ずあなたの望む答えを提示してみせますから」

 ありがとう。

 心の底からそう言いたいが、今は辞めておく。

 これは決別だ。

 離別の瞬間だ。

 お礼なんて、温かい言葉は微塵にも似合わないのは語るまでもない。

「うん。それじゃあ、紅茶ご馳走様」

 小さく頭を下げて席を立つ。

 すると、レティーシャはカップを置き、頬杖を付きながらこんなことを口にした。

「ただ一つ……」

「え?」

「きっと今のままでは、あなたはもう一度涙を呑むことになるかもしれませんよ」

 どんな真意を持ってして言ったのかは分からない。

 ただ、今までとは明らかに違う声色で発せられた言葉が、自分の心臓を鷲掴みにしてきたような感覚だった。

 だが、彼女の思い通りにはさせない。

 彼女へと背中を向け、振り返りもせずにこう言い放った。

「……そんなことには、させない……絶対に……」

 それを最後に、歩き出す。

 レティーシャがどんな顔をしているのか確かめもせず、決別の意思だけを持って喫茶店から出て行った。

 その直後。

 一人席に残ったレティーシャは、両手で顔を覆い隠しながら、小さく呟く。

「やはり────分かっていらっしゃらないではないですか」

 まるで断定しているように。

 まるで過去を振り返るように。

 彼女は静かに、吐き捨てるように、そう呟いていたのだった。




  ────世界革新まで、残り四日。

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