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イノヴェイティブ・パニック  作者: 椋之 樹
第3章 脱退まで・・・
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少女作戦会議


 イムニティ内部の忙しさは相変わらずだった。

 どうやら昨日今日で、また新しい汚染者ポルター達を保護、捕捉したらしく、彼らの対応に追われているようだ。

 自分の後ろを、楽しそうにかつ賑やかに付いてくる、ユリのお友達とやらも、その中の一人なのだろう。

 ただ先程から、ユスラって子供居たんだ、とか、子守も楽じゃないよね、等というひそひそ話や気遣うような目線が地味に気恥ずかしい。

「あの、君達さ……」

 振り返りつつ彼女達に呼び掛けると、またもや一斉に返事をしてきた。

「なにかしら?」

「なにかな?」

「なになの?」

 意識をリンクしているのではないか、と疑ってしまう程に息が合っている。

 それに関してはあまり気にしないようにすることにして、彼女達の前で屈んで、肩を竦ませた。

「私の後を付いてくるのも結構だけれど、ご両親も心配しているだろうし、元気になったらちゃんと帰ろうね?」

 すると、モミジが首を傾げて、唐突にこんな一言。

「え?そんなことするヒツヨウある?」

「は?」

「だってむぐぐぐぅ!?」

 いきなり、モミジの後ろからその口を塞いだカリンが、頷きながら言葉を紡ぐ。

「気にする必要はないわ。私達は好きでこうしている訳だし。それに必要になったら動くつもりでいるしね」

「え?」

「だからんぐむむぅ!」

 さらにさらに、その後ろからカリンの口を塞いだユリが、いつも通りの屈託のない笑顔を浮かべながら、片腕を振り上げた。

「おかあさんにもおともだちにもおねがいのうえなのー!だからユリたちはしばらくじゆうのみなのー!」

「???」

 まったく、意味が分からないが……取り敢えず、大丈夫であるらしい。

 ポカンとした顔で首を傾げていると、次第にああでもないこうでもないと、言い争いが始まっていた。三人同時に声を交わしている為、齢的には上である筈の自分の入る余地がない。

 しかし、何故だろうか。

 そんな彼女達がじゃれ合う姿を見ていると、不思議と心が落ち着いてくる。

 少し間、彼女達の楽しそうな論争を眺めていると、後ろから声を掛けられた。

「子供達に大人気ですね、ユスラ」

「……!レティ……」

 顔を挙げて振り返れば、そこには茶色い紙袋を手にした、レティーシャ=ダナムが笑みを浮かべて立っていた。

 彼女は昔を懐かしむように、目を瞑りながらこう言う。

「隣町の丘の上であなたと出会った時からそうでした。あなたは不思議な雰囲気、一種の母性のようなモノを持ち合わせていた気がします」

「そういう君こそ、ファンクラブが出来る程の人気っぷりだよね。天使お姉さん、だっけ?その紙袋、組員と町民からのプレゼントでしょ?」

 レティーシャは慌てた様子で紙袋を身体の後ろに隠すと、目を逸らしながら頬を掻いた。

「こ、これは……!その、こういうのは困るといつも言っているのです!……まぁ、嬉しいことに、変わりはありませんけれど……」

 女である自分が言うのも変な話だが……こういうところで照れるのが可愛いなぁ。

 普段の真面目な姿から生まれる、ギャップというやつなのだろうか。きっとレティーシャをアイドルのように崇高する彼等も、そんな彼女の可愛らしさに惹かれて、言い寄ってくるのだろう。

 ただ。

 それよりも前に、まずは彼女と話をしなければならない。

「……ユリちゃん、皆と一緒に何処かで遊んできてくれる?私、こっちのお姉さんと話があるからさ」

 ユリの目の前で屈んで声を掛ける。

 すると、彼女はレティーシャを見上げながら、何やら釈然としない表情を浮かべて首を傾げた。

「ん~……?む~……?」

「邪魔をしてしまって、ごめんなさい」

 こんな小さな子に対しても、同じ視線になって、丁重に頭を下げるレティーシャ。

 普通ならば、彼女の礼儀正しさに、快く自分から引いていくのだが……今回だけは、何故かユリの方が頑なに、イエスとは言わなかった。

「む~、んむ~……」

「ユリちゃん?」

 少し困ってしまって首を傾げる。

 すると、その後ろから、カリンとモミジがユリの両脇から腕を差し込み、無理矢理引きずる形で彼女を連れて行った。

「分かったわ。ユリはカリン達に任せて、楽しんできていらっしゃい」

「おネェさん、またアトでね~」

 何だか分からないが、ユリは彼女達に任せておけば大丈夫そうだ。

 手を振るモミジにこちらも手を振り返すと、即座にレティーシャに向き直って、こう切り出した。

「レティ、昨日のことで……」

「分かっています。では、一階の喫茶店に行きましょう。そこで、お茶でもしながら如何ですか?」









「一番の年長者でもあるあなたが、判断を曇らせるだなんてね。もっとしゃんとしたらどうなのかしら?」

「む~……」

 お姉ちゃん達が見えなくなった通路の影で、三人の幼女は輪になって立っていた。

 カリンの言葉に訝しげな表情を浮かべるユリ。

 そんな彼女の様子を見ながら、モミジは念押しするように、こう言い放った。

「ワかっているとオモうけれど、ワタシタチのモクテキをワスれたらダメだよ」

 すると、ユリは可愛らしく頬を膨らませて、こう答える。

「わすれてないの~、わたしはおねーちゃんのことがだいすきなの~」

「……はぁ、軽い妖艶的な幻覚を見ているようね……」

 カリンが呆れた顔をしながら、首を横に振る。

 彼女の顔色を気にした様子もなく、ユリはまるで自分に言い聞かせるように、少しばかり低い声を口にした。

「でも、きっとこのままだとだめなの」

「え?」

「かわりはたくさんいるの。だから、ひとりぐらい、いれぎゅらーがいてもいいとおもうの~」

 それは、少女達にしか知り得ない、少女達だけの秘密。

 その秘密を実行する為に、少女達は今日も町を駆け巡るのだった。

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