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イノヴェイティブ・パニック  作者: 椋之 樹
第3章 脱退まで・・・
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少女増殖



 目蓋が酷く重い。

 少し身をよじるだけで身体の節々は悲鳴を挙げ、激しい頭痛が襲い掛かってくる。

 それに何より、心が痛い。

 昨日のことを考えるだけで、心臓が締め付けられるように痛くなり、涙がこぼれ落ちてくる。

 だが、いつまでも塞ぎ込んでいたら駄目だ。

「……起きよう」

 レティーシャが用意してくれた、一人用の病室の柔らかいベッドから身体を起こし、ふらついた足取りで付属の洗面所へと向かう。

 洗面台に両手を掛けて、顔を挙げて鏡を見た。

「……うぇ……」

 酷い顔だ。

 フェイズ2に叩き付けられて出来た傷で、顔面は絆創膏や湿布だらけ。あまり眠れていないのか、目元には明瞭な色のくまが出来ていた。

 反射的に目を逸らして、冷たい水で顔を洗う。

 よし、少しスッキリした。

「おねーちゃん」

「うわぁ!?」

 背後から、突然声を掛けられて、不覚にも悲鳴を挙げてしまう。

 驚きつつ振り返ると、そこには明るい笑顔を浮かべる可愛らしい幼女、ユリが立って……。

「ご機嫌よう」

「…………」

「おネェさん、あまりゲンキなさそう?」

「…………」

「おねーちゃん、なんかびっくりしてるの」

「…………」

 なんか、増えている。

 ユリだけじゃなく、彼女と同じ背丈と、似たような外見をした少女が、計三人に増えていた。

「あら、カリン達が誰かって顔をしているわ」

「モミジタチは、ユリのおトモダチだよ。だからあまりキにしなくてダイジョウブだよ」

「おともだちたくさんでユリはとってもうれしーのー!」

 なるほど。

 嬉しいのは何よりだ。

 こちらは混乱の真っ最中だけれども。

 大人びた少女がカリンで、ショートヘアの少女がモミジらしい。

 注意深く見れば、目つきや髪型で、何となく違いは分かるが……ここまで似た子達が、こうして横に並んでいると、どうしても自分の目がおかしくなったのではないか、という感覚に襲われる。

「幻覚、じゃないよね……?」

 すると。

 彼女達は、まるでハモるようなタイミングで、一斉に答えた。

「カリンは幻覚じゃないわ」

「モミジは幻覚じゃないよ」

「ユリは幻覚じゃないのー」

 どうやら、違うらしい。

 ならば続けて出て来る疑惑は、きっと必然的なモノであろう。

 後生だから、今はあまり混乱させないで下さい。

「じゃあ、三つ子?」

 すると。

 以下略。

「三つ子じゃないわ」

「三つ子じゃないよ」

「三つ子じゃないのー」

「……眼と耳が疲れてきたよ……」

 では、彼女達は、奇跡的にこの場で患者として出会った、赤の他人だと言うのだろうか。

 そう言えば。

 ごく最近に彼女達と似たような子らを、計二回見たような……。

 いや、辞めておこう。

 考えると、混乱が増すだけだ。

 そう自分の中で決定付けると、彼女達三人を正式に迎え入れてから、四人揃って患者服から私服に着がえるのだった。



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