少女増殖
目蓋が酷く重い。
少し身をよじるだけで身体の節々は悲鳴を挙げ、激しい頭痛が襲い掛かってくる。
それに何より、心が痛い。
昨日のことを考えるだけで、心臓が締め付けられるように痛くなり、涙がこぼれ落ちてくる。
だが、いつまでも塞ぎ込んでいたら駄目だ。
「……起きよう」
レティーシャが用意してくれた、一人用の病室の柔らかいベッドから身体を起こし、ふらついた足取りで付属の洗面所へと向かう。
洗面台に両手を掛けて、顔を挙げて鏡を見た。
「……うぇ……」
酷い顔だ。
フェイズ2に叩き付けられて出来た傷で、顔面は絆創膏や湿布だらけ。あまり眠れていないのか、目元には明瞭な色のくまが出来ていた。
反射的に目を逸らして、冷たい水で顔を洗う。
よし、少しスッキリした。
「おねーちゃん」
「うわぁ!?」
背後から、突然声を掛けられて、不覚にも悲鳴を挙げてしまう。
驚きつつ振り返ると、そこには明るい笑顔を浮かべる可愛らしい幼女、ユリが立って……。
「ご機嫌よう」
「…………」
「おネェさん、あまりゲンキなさそう?」
「…………」
「おねーちゃん、なんかびっくりしてるの」
「…………」
なんか、増えている。
ユリだけじゃなく、彼女と同じ背丈と、似たような外見をした少女が、計三人に増えていた。
「あら、カリン達が誰かって顔をしているわ」
「モミジタチは、ユリのおトモダチだよ。だからあまりキにしなくてダイジョウブだよ」
「おともだちたくさんでユリはとってもうれしーのー!」
なるほど。
嬉しいのは何よりだ。
こちらは混乱の真っ最中だけれども。
大人びた少女がカリンで、ショートヘアの少女がモミジらしい。
注意深く見れば、目つきや髪型で、何となく違いは分かるが……ここまで似た子達が、こうして横に並んでいると、どうしても自分の目がおかしくなったのではないか、という感覚に襲われる。
「幻覚、じゃないよね……?」
すると。
彼女達は、まるでハモるようなタイミングで、一斉に答えた。
「カリンは幻覚じゃないわ」
「モミジは幻覚じゃないよ」
「ユリは幻覚じゃないのー」
どうやら、違うらしい。
ならば続けて出て来る疑惑は、きっと必然的なモノであろう。
後生だから、今はあまり混乱させないで下さい。
「じゃあ、三つ子?」
すると。
以下略。
「三つ子じゃないわ」
「三つ子じゃないよ」
「三つ子じゃないのー」
「……眼と耳が疲れてきたよ……」
では、彼女達は、奇跡的にこの場で患者として出会った、赤の他人だと言うのだろうか。
そう言えば。
ごく最近に彼女達と似たような子らを、計二回見たような……。
いや、辞めておこう。
考えると、混乱が増すだけだ。
そう自分の中で決定付けると、彼女達三人を正式に迎え入れてから、四人揃って患者服から私服に着がえるのだった。