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イノヴェイティブ・パニック  作者: 椋之 樹
第2.5章 Memory or Dream?《Ⅱ》
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《その者達の決裂》



 また、あの光景だ。

 ……“また”?

 以前にも何処かで見たことがあっただろうか。

 それすらも思い出せない程に、霞み切った、朧気で曖昧な風景。

 視線の前には、少女と思しき人物が立ち、こちらのことを真っ直ぐに睨み付けていた。

「信じていたのに────何で裏切った?」

 少女が何を言っているのかは分からない。

 ただ、明らかな敵意と、憤怒の意を向けているのは、考えるまでもない事実だった。

「────」

 視線は、何事かを答える。

 内容までは聞き取れないが、哀愁すらも感じられる今にも消え入りそうな声だった。

「それならばこの現状は何?ほんの数分前まで平和に過ごしていた人々は一人も居ない……いや、全員化け物になって、互いと互いを殺し合っている……ッ!」

「────」

 視線が、少女から眼前に広がる戦火と悲鳴が飛び交う一つの町に移った。

 彼らは丘か、もしくは山の上に立っているのだろうか。

 地平線の彼方にまで広がる町並みは、黒い怪物達で埋め尽くされていた。

 あれは、そう、確か……。

 そうだ、汚染者ポルターと同じ姿だ。

「こんなの、地獄絵図だよ……誰も戦争なんて望んでなかった……ただ、今を生きていられるだけで幸せだった……それだけ、それだけだったのに……なんでェッ!!」

 そう痛々しく叫ぶ少女の目尻には、薄らと涙が滲んでいた。

 きっと、本心では悲しんでいるのだろう。

 だから視線は。

 彼女を気遣うように。

 彼女を想うように。

 ただ一言、こう言い放った。


「────仕方がなかった」


 あまりにも、残酷で悲惨な言葉。

 それを真正面からぶつけられた少女は、途端に顔を歪めて、声を張り上げた。

「……ふざ、けるな……ふざけるなァァァァァァッ!!」

 そして、再び風景は閉ざされる。

 相変わらずの不明瞭で、不可解な世界だ。

 だが、もし。

 もし、この光景が、“今日のあの出来事に繋がっている”のだとしたら……これは、まさか本当に、未来の暗示なのだろうか。

 いいや、そんな考えこそ無駄だ。

 何故なら、どれだけ危険視したところで、気付いたら記憶の中から消え落ちているのだから。

 誰が見ているのか。

 夢か記憶か。

 これは、それすらも分からない、狭間に投影されたほんの一つの光景に過ぎない。




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