《その者達の決裂》
また、あの光景だ。
……“また”?
以前にも何処かで見たことがあっただろうか。
それすらも思い出せない程に、霞み切った、朧気で曖昧な風景。
視線の前には、少女と思しき人物が立ち、こちらのことを真っ直ぐに睨み付けていた。
「信じていたのに────何で裏切った?」
少女が何を言っているのかは分からない。
ただ、明らかな敵意と、憤怒の意を向けているのは、考えるまでもない事実だった。
「────」
視線は、何事かを答える。
内容までは聞き取れないが、哀愁すらも感じられる今にも消え入りそうな声だった。
「それならばこの現状は何?ほんの数分前まで平和に過ごしていた人々は一人も居ない……いや、全員化け物になって、互いと互いを殺し合っている……ッ!」
「────」
視線が、少女から眼前に広がる戦火と悲鳴が飛び交う一つの町に移った。
彼らは丘か、もしくは山の上に立っているのだろうか。
地平線の彼方にまで広がる町並みは、黒い怪物達で埋め尽くされていた。
あれは、そう、確か……。
そうだ、汚染者と同じ姿だ。
「こんなの、地獄絵図だよ……誰も戦争なんて望んでなかった……ただ、今を生きていられるだけで幸せだった……それだけ、それだけだったのに……なんでェッ!!」
そう痛々しく叫ぶ少女の目尻には、薄らと涙が滲んでいた。
きっと、本心では悲しんでいるのだろう。
だから視線は。
彼女を気遣うように。
彼女を想うように。
ただ一言、こう言い放った。
「────仕方がなかった」
あまりにも、残酷で悲惨な言葉。
それを真正面からぶつけられた少女は、途端に顔を歪めて、声を張り上げた。
「……ふざ、けるな……ふざけるなァァァァァァッ!!」
そして、再び風景は閉ざされる。
相変わらずの不明瞭で、不可解な世界だ。
だが、もし。
もし、この光景が、“今日のあの出来事に繋がっている”のだとしたら……これは、まさか本当に、未来の暗示なのだろうか。
いいや、そんな考えこそ無駄だ。
何故なら、どれだけ危険視したところで、気付いたら記憶の中から消え落ちているのだから。
誰が見ているのか。
夢か記憶か。
これは、それすらも分からない、狭間に投影されたほんの一つの光景に過ぎない。