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イノヴェイティブ・パニック  作者: 椋之 樹
第2章 分裂まで・・・
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疑惑が亀裂に変わる時


 ビル全体を支える強硬度のコンクリート。

 そいつでガチガチに固められた床を粉々に砕くには、想像を絶する力が必要……なんてことは、誰にでも分かる事実だ。

 ならば、それを人体の頭を叩き付けて砕いたとしたらどうなるか。

 結論────コンクリートが砕ける前に頭が粉砕して終わる。

「ぐ……ッ、ぅ、う……あた、まが……ッ」

 どうやら……いや、やっぱり、生きているようだ。

 途中からどうやって頭を打ち付けられたのか考えなくなっていたが、計五回、天井から床に激突して、下に落下したのは感覚的に覚えている。

 ならばここは一階よりも下、ということになるが……“イムニティに地下なんてあっただろうか”。

 激痛の走る頭を振りながら、瓦礫の中から身体を起こす。

 すると、真っ白に染まった視界の中で、黒い身体の奴が、ゆっくりとこちらに近付いてきていることを認識した。

「こ、の……」

 慌てて動こうとするが、膝を着いた状態から身体が上がってくれない。全身が痙攣を起こし、下手したらまた突っ伏してしまいそうな感覚だった。

 そんなことをしている間に、フェイズ2は眼前に立ち塞がり、相変わらずの憎たらしい笑みを浮かべる。

「凄イヨ、オ母サン……コイツ、壊レナイ。他ノ奴ダッタラ、五回ハ死ンデイル筈ナノニサァ?ソレニ、匂ウヨ……“僕ラト同ジ匂イ”ダァ」

「……ッ」

 どこかぎこちない言葉を聞きながらも、その真意を感じ取った瞬間、心臓が破裂しそうなくらいに鼓動した。

 彼の見取っている感覚。

 それが何を意味しているのかは、自分でもよく分かっている。

 だが、違う。

 自分はイムニティの一員、新実ユスラだ。

 その事実に偽りはない。

「違う……私は、君じゃない……私は、イムニティだ……免疫なんだ……ッ!」

「おねーちゃんをいじめないで!!」

「は……!?」

 幼子が発したような甲高い声が、大きく響き渡った。

 ほんの少し視線を落とした隙に、自分とフェイズ2の間に割り込み、勇敢にも大きく両手を広げて立ち塞がる小さな人物が、そこにいた。

 元汚染者ポルターとして処置を受けていた少女、ユリだ。

「何、コノ小サイノ?」

 訝しげにユリを見下すフェイズ2。

 今の彼女は戦闘能力の欠片も残っていやしない、ただのか弱い人間だ。

 例えるならば、虎と鹿の間に、小鹿が割って入るようなものである。

「ユリ、ちゃん……!?どうやってここに……いや、何やっているの!?そこを、どいて!!」

「…………」

 ユリは動かなかった。

 汚染者ポルターだった時の性質を未だに引き継いで、感覚が麻痺したままなのだろうか。

 どちらにせよ、このままでは彼女の身が危ない。

「マァ、何デモ良イヤァ。オ母サン、一緒ニヤッチャオ?」

 フェイズ2の手が軽く上に掲げられる。

 元から厳つい形をしていた指先が、まるで刃物のように鋭く変形し、今にもユリを狙って振り下ろそうとしていた。

 こんな時に、何故身体は動いてくれない?

 こんな時に、何故意志を貫かせてくれない? 

「や、やめ……ッ!お願いッ!辞めてッ!!」

 湧き上がる感情。

 目の前の小さい命を守る為、身体は既に無意識を貫こうとしている。 

 気付けば、その手は“右眼を塞ぐ包帯を掴んでいた”。

「おね……ちゃん……?」

 だが、こちらの異様な気配を察したのか。

 頑なに動こうとしなかったユリが小さく振り返り、恐怖に怯えたような表情で、こちらをジッと見詰めていた。

「……ッ!?う、ぁ……あァァァァァァッ!!」

 何をやっているんだ。

 怯えさせたら、元も子もないではないか。

 反射的に我に返り、同時に……身体の限界を越える。

 激しい頭痛と身体の節々に響き渡る激痛を無視して、勢い良く膝を跳ね上げ、ユリを抱き寄せると、その場で全身全霊で反転。

 フェイズ2が振り下ろした鋭い指は、自身の背中に深々と突き刺さり……内部の肉を抉りながら振り下ろされた。

「がぁぁ……ッ……ッ……!!」

 恐らく、この激痛と共に、大量の血が止め処なく噴き出ているのだろう。

 最早自分だけではどうすることも出来ず、ただ、痛みに震えながら、胸の中の小さな命を強く抱き締めていた。

「おねーちゃん……?おねーちゃん、いたいの……?ユリが、でてきたから……ユリが、わるいの……?ねぇ、おねーちゃん……?」

 今にも泣きそうな顔でこちらを見上げるユリ。

 戒めることも、叱ることも出来ただろう。

 だが、今の自分に出来るのは、精一杯に微笑むことぐらいだった。

「そんなこと、ない……君は、悪くないよ……全部私が、甘いから……だから、心配しないで……君だけは、絶対に守るから……」

 何故こんなに必死になるのか?

 何故血だらけになっても彼女を庇うのか?

 最早理由はどうでも良かった。

 ただ、彼女だけは何としてでも助けたい、そんな子供理論だけで動いているのだから。

「ヘェ、壊レナイノニ、斬レルンダァ。ヘェ、ソッカァ、ソウイウコトカァ、オ母サン、コイツノ死ニ方、分カッタヨ……ヒヒヒッ!」

 フェイズ2は鋭指を後ろへ引き、その指先をこちらの背中へと狙いを定めている。

 それこそ、トドメの一手だろう。

「大丈夫……守るよ……絶対に……絶対に……ッ」

 背後の声が耳に響く度に、自身も負けじとユリを抱き締める力を強めていく。

 無意識に発している言葉は……まるで今にも崩れ落ちそうな自分に対して、必死に言い聞かせているかのようだった。

 そして。

 フェイズ2が動く。

「サァ、死ンジャ……」

「……ッ!」

 奴の指先がピクリと動き、無慈悲な一撃が振り抜かれようとした。

 その時だ。

 

「────何やってんだよオイ」


 声と、気配。

 妙に隠った声と、怒りに滲んだような熱い気配が、背後から漂ってきた。

 その人は、到底親しいと思える人物ではなかった。

 その人は、こんな状況で自ら身を張るような生き方をしていなかった。

「ナニ、オ前?邪魔シナイデクレル?」

「この人には聞きたいことが山ほどあるんだ。お前の方が邪魔をするな」

 信じられない。

 だがその人は、いや、彼は……そこに居る。

 今だけでも、こんな自分を守る為に、そこに立ってくれている。

 その立ち位置が、自分にとっては何よりも温かくて、嬉しくて……思わず警戒を忘れ、彼の方へと全ての意識を傾けたのだった。

「栄志、君……!?」







 そこは異様な空間だった。

 白色のタイルが、天井、壁、床……一面に敷き詰められた、真っ白に染まる広い空間。天井の四隅には監視カメラのようなモノがぶら下がっており、目を凝らしてみれば、空間のあちらこちらが赤い何かで汚れている。

 開放的なイメージはあるが、どこか不気味な雰囲気が漂っていることを察知した。

 だが、そんなことよりも、真っ先に目に飛び込んできたのは……。

「……ユスラさん?」

 小さな女の子を庇うように抱き締めるユスラと……それを狙って手を振りかざす、黒い鎧だ。

 瞬時に、その場を駆け出し、状況を分析。

 レティーシャの忠告を頭の中から押し退け、とある一つの感情が沸き上がってくる。

 それは恐らく、怒りだ。

 何故かは分からない。

 ただ、ユスラが必死になっている姿を嘲笑うかのように、その信念を踏みにじろうとしている、あの黒い鎧のにやけ顔が何よりも気に食わなかった。

「何やってんだよオイ」

 だから、躊躇なんてしない。

 相手がどれだけ化け物だろうが構わない。

 この狂ったように湧き出てくる感情を発散する為に、目の前の怪物は許してはならない。

 ただ、それだけだった。

「栄志さん!?先程の警告をいきなり無視ですか!?あれほど前には出ないで下さいと……って、ユスラさん!?大丈夫ですか!?」

「レティまで……どうして……?」

 大慌てで走ってきたレティーシャが、こちらの行動を戒めながらユスラに寄り添う。

 彼女はジャケットのポケットから注射器を取り出し、ユスラの襟部分を強気で引き剥がした。

「研究員からの報告を受けてここに来たのです!それより、ここは立ち入り禁止なのにあなたは……いえ、それより!相変わらず怪我をする頻度が超一流並みですが、まずは特殊止血剤を打ちます!歯を食い縛って下さい!」

「間髪入れずにそれはちょっと待っぐてぅ!?」

 妙な悲鳴が聞こえた。

 自宅で止血剤を打ち込んだ時も、場所を問わず何処でも良いから、と言われたが、果たして止血剤とはそんなに乱暴な使い方で何とかなるモノなのだろうか。

「獲物増エタヨ、オ母サン」

「……!」

 肝心のフェイズ2が、自分達には見えない何者かと交信を始める。

 すると、首を横に倒し、一歩、また一歩と、後ろに下がり出した。

「……エ?逃ゲルノ?何デ……“要請”?ウゥン、分カッタ。言ウ通リニスル」

 それだけ口にすると、こちらを顧みもせず、大きく後ろに飛び跳ね、天井に開いた穴を仰ぎ見る。

 まるでそこを目指しているかのような動きに、フェイズ2の動きを見ていた者達が一斉に顔を歪めさせた。

「逃げ……!?おい、ちょっと待てよ!この罪悪感は一体どこにぶつければ良いんだコラァッ!」

 思わず駆け出そうとすると、その脇を、偉吹の怒号と共に、レティーシャが凄まじい速力で駆け抜ける。

「おわっ!?」

「レティーシャ!奴を逃がすな!外に出たら厄介だ!」

「はい!」

 あの黒刀を達人並みの太刀筋で振るう動作から、何となく察知していたが……どうやら、彼女も相当の実力者らしい。

 荒れ狂う暴風の如く、人並み外れた速度で、黒刀を構えながら走るレティーシャ。

 彼女のいつになく鋭い目つきは、真っ直ぐに今にも飛び立とうとするフェイズ2を睨んでいた。

 だが。

「逃がしません……!」

「────かわいい子の旅立ちに茶々をいれるもんじゃないヨ?」

「……ッ!?」

 間に、何者かが割って入る。

 いや、何も無い場所に、忽然と白衣を棚引かせる一人の人物が姿を現し、レティーシャも思わずといった様子で、足を止めてしまう。

 その隙にフェイズ2は驚異の跳躍力で跳ねると、天井の穴の向こうへと姿を消してしまった。

「あれって……あの時、執務室から出て来た……」

「やぁ、諸君。遅れざれば、あたしが推参だヨ」

 確か名前は、ハカセとか言った筈だ。

 黒刀を携えるレティーシャが目の前に立っているにも関わらず、一切の注意を払う様子もなく、楽観的な態度で彼女の隣に立つと、その肩に腕を乗せて寄り掛かった。

 その言動に対して、背後から歩いてきた偉吹が、厳格な態度を返す。

「貴様……何のつもりだ?まだ受理した訳ではないが、脱退届を出した直後に、何故オレ達の邪魔をする?」

「そりゃあするサァ。何故なら、たった今からアタシは君達へ宣戦布告をするつもりだから……この世界の全てを浄化する為の団体────『ドラッグ』としてネェ」

「『ドラッグ』……?」

 その言葉に強い反応を示したのは、彼女の隣に立ち尽くすレティーシャのみ。

 偉吹は依然として毅然と構え、自分とユスラは首を傾げていた。

「ふざけたことを……宣戦布告だと?我らに敵対することが、どういう意味か分かった上で言っているのか?」

 イムニティとは、民衆の支持も高い正義の集団だ。

 そこに敵対することは、必然的に彼らへ希望を寄せている民衆の怒りを買うことも同然。つまり、イムニティと共に、彼らを支持する民衆をも敵に回す、ということになるのだろう。

 考えるだけで頭の痛くなる話だが、何故かハカセはその問いには答えず、部外者の立場にいた自分達に声を掛けてきた。

「……この部屋が何の為に存在するか……栄志クン、ユスラクン、何故か分かるカナ?」

「……!」

「所々が崩れたタイルの壁、赤黒い色で染まった床……これは全て、ある者達の悲劇が関連しているんだけどネ……」

 出入口はエレベーターへ通じる扉が一つ。

 四方を取り囲む監視カメラの存在。

 まるで中に居る者を収容し、監視するかのような施設……イムニティが行う、ここの利用用途といえば、一つしか思い浮かばなかった。

「……汚染者ポルター、のことか?」

「ご名答!彼らはここで使われるんだヨ。皮や血を採取され、肉を引き裂かれ、時に同類同士で戦わされて、そう────人体実験の被験者として、ネェ」

 陽気な言葉で言うハカセ。

 そんな簡単に発せられた言葉は、ユスラやレティーシャを容易に動揺させる程の破壊力を秘めていた。

「人体実験……!?」

「……っ」

 ハカセは笑いながら、硬直状態にあるレティーシャの頬を指先で突きながら続ける。

「だが、仕方がないことサ。栄光の裏には闇が潜み、改革には犠牲が付き物だからネ。イノヴェミックは従来の人体を浸食する感染体類とは大きく異なり、人の身体を根本から変貌、いや革新させるという未知なる現象サ。そいつの正体を解き明かして解決に導くには、感染体フィーゼが人体にどんな影響を及ぼし、どう変化させているのかを知る必要がアル。ならば、嫌でも被験体の解剖が不可欠なんダヨ。そうっショ?イムニティの諸君?」

「…………」

 レティーシャも、偉吹も、答えない。

 否定している訳でもない反応は、同時にその事実を認めているかのようにも見える。

 そこへ、明らかに動揺したユスラが、今までずっと抱き寄せていた少女から腕を離し、焦点が合わない視線をレティーシャに向け、懸命に震える声を口にした。

「まさか、その為にこの地下室で……い、いや、レティ、嘘、だよね……?イムニティは人類の希望。イノヴェミックから人々を救える、唯一の組織なんだ。それなのに、その下に、犠牲者の屍が敷かれていただなんて……嘘なんでしょ?そうでしょ?」

「…………」

 時に沈黙は言葉よりも真実を告げるものである。

 どうやら、揺るぎも無い事実のようだ。

 そうなると、どうしても気になるのは、エレベーター内で偉吹が決断した上で口にした、あの言葉だ。

 もし、彼は最初から反感を買うつもりで、この場を自分に見せるつもりだったのだとしたら……。

「残酷な言葉って……支部長、あんたもしかして、最初から全部さらけ出すつもりだったのか……?何で、そんなこと……」

 振り向き際に偉吹を見ると、彼は立ち尽くしたまま、ただ真っ直ぐにハカセを睨んでいる。

 その顔に動揺はなく、曇りなど一切感じられない。

 そして……遂にその口から真実の言葉が発せられる。

「……今更そんなこと言われたところで意味は成さん」

「……!?支部、長……何を言って……!?」

 ユスラが怒りにも似た感情を滲み出して立ち上がると、背後の偉吹を睨んだ。

 その視線を受け止めながらも、彼は揺らぐことはない。

 意志は銅像のように頑なに、言葉は皇帝のように迷いなく、淡々と自らの冷徹な信念を貫くばかりだった。

「我々の最終目的は、この世界をイノヴェミックの脅威から救うことだ。オレはこのやり方を疑っているつもりはない」

 そこからは、偉吹とハカセの論争だ。

 周りの人間を捨て置き、互いの尊重の隙を狙っては守り、狙っては守る、を繰り返す。

「例え、どんな犠牲を払ったとしても?」

「犠牲?違うな、彼らは礎だ。その経過がどれだけ汚れていたとしても、最終的に大人数の人々が救われる結末に導くことが出来れば、誰もが礎となった者達に感謝することになる」

「家族を持つ者は?愛人の帰りを待つ者は?彼らの気持ちを踏みにじってまで、その礎とやらを増やす意味があるのカナァ?」

「心配はいらん。被験者となった者は、凶悪犯罪者、植物人間、ホームレス……つまり、家族も持たず、愛人も持たない、社会のはぐれ者ばかりだ。誰も心を痛めることはない」

 理には適っている。

 ただ、倫理的に見れば絶望的に残酷だ。

 口を開けば開く程、偉吹の冷徹さが露見されていく中……堪忍袋の緒が切れたのか、ユスラが顔を歪め、声を張り上げる。

「……なに、それ……だからって、人を人体実験にして……たった一つの命を利用して……そんなモノの積み重なった先にある未来なんて、私は誇りたくはないッ!!」

 何となく、分かってきた気がした。

 ユスラと偉吹の中にある未来の形は、行く先は同じと言えども、その過程には決定的な違いがある。もし同じ山を築き上げるとして、砂と粘土を材料にしたとする。結果、効率も完成形も大きく異なってくるのは分かるだろう。

 今の彼女達は、そんな過程の問答をしているのだ。

 しかし、偉吹には届かない。

 彼は冷静にユスラを見据え、冷え切った残忍な言葉を返した。

「ならば全員まとめて死ぬか?化け物に成り果てて、人の心を失った者達が蠢く世界ならば、お前は胸を張れるのか?」

「は、ぁ……?」

「躊躇した結果、全員が死ねば世界は終わりだ。その前に何としてでも事態を食い止める必要がある。これが……最善で、最速な、唯一の救済への道なんだよ」

「そんなの……嘘だ……うそに、決まっている……」

 きっと、ユスラは何も知らなかったのだろう。

 イムニティに拘束された汚染者ポルター達の一部がどうなるか分からぬまま、本気で人々を守る為に、ただがむしゃらに戦い続けてきた。

 なのに、自らの望まない形で被害者となった者がいて、自分はその一端を担っていた、と知ったとしたら……どれだけの絶望と喪失感を味わうことになるのだろうか。

 それは、彼女の今にも泣き出しそうな顔を見れば、一目瞭然だった。

「ウソ、う、そ……あぁぁ……うぁ、ぁぁぁぁ……ッ」

「おねー、ちゃん……?」

 頭を抱えて膝から崩れ落ちるユスラに、傍に居た少女が気まずそうな顔で、その肩に手を掛ける。

 あまりにも精神的に痛々しい光景に、今まで無言を貫いてきたレティーシャまでも、思わず声を漏らしてしまう程だ。

「ユスラ……っ」

「…………」

「さてさて、イムニティの真実、分かってくれたカナァ?ねぇ、栄志クン?」

 唐突に、ハカセの陽気な声が響く。

 しかし何故か、その声は自分へと向けられていた。

「何故、俺に聞く?」

「もし、彼らのやり方が気に食わないようならば、あたしの話を聞いてみたらどうかと思ってネ────“君の穴場で待っている”からサァ」

 それだけ言うと、ハカセはレティーシャから離れる。

 スキップ混じりに施設の奥へと歩んでいき、霧に混じるように姿を消してしまったのだった。

 イムニティを内側から崩壊させる、決定的な爆弾を放置したまま……。





 ────世界革新まで、残り五日。

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