そらのそこのくに せかいのおわり Another side 〈Vol,1.5 / Chapter 06〉
三日後のことである。
一通りの事後処理も終わり、このころには回収したノートの鑑定も済んでいた。ノートは本物。行方が分からなかった三冊が、すべてあの場所に揃っていた。
回収物品をあるべき場所に収め、報告書を提出し、これにて任務は無事終了。シアンとナイルには、いつも通り、任務後の臨時休暇が与えられた。
次の任務に出るまで三日。それまではゆっくり体を休めて――と、言いたいところなのだが。
「すまないナイル、お前とのんびりしている時間はない。そこを退け」
「えっ⁉ 嘘でしょちょっと! オフには宿舎でのんびりダラっと! これ常識じゃん⁉」
宿舎の共用スペース、居間の陽だまりでゴロゴロ。それはネコ科種族たちの、当たり前の休日の過ごし方である。イヌ科種族と違って、彼らが休日に遠出することは少ない。今日もナイルは、昼寝する気満々で二人分の毛布と枕を抱えていた。
元々群れる習慣のないシアンとしては、どうせゴロゴロするにしても、別々の場所で昼寝したいのだが――。
「悪いな。俺としては、まだこの件は終わっていないんだ」
「何が? 何のこと? 対象物品は回収したし、報告書も全部出したし……まだなんかあったっけ?」
首を傾げるナイルに、シアンはいつも通りの、淡々とした口調で答える。
「あの店だ。賠償金と見舞金が支払われても、滅茶苦茶になった店の片付けは自分でやらなきゃならない。女性一人で……ましてや病み上がりであれを片付けるのは骨が折れるだろう。俺も行って、手伝ってくる。じゃあな」
「え、ちょ、ちょっと待って! だったら俺も行くって!」
「いや、別に、無理に付き合うことはない。まだ全快してないんだろう? お前はゆっくり休んでいてくれれば……」
「馬鹿!」
「あ?」
「アホ! 何でお前、いつもそうなんだよ! この格好つけ!」
「……ちょっと待て。今の文脈で、なんで俺が罵られなきゃならないんだ?」
「そのくらい分かれよ! この超・大馬鹿野郎! 一緒にやったんだから、一緒にケジメつけんのは当然だろ⁉ もうそれ、水臭いとかそーゆーレベルじゃないからな! これ以上言ったらマジでぶん殴るぞ!」
「……すまん……」
「ちょっと待ってろ! 三分で用意してくるから! 勝手に行ったらお前の部屋の鍵穴に接着剤流し込んでやるぞ! マジでやるからな! 待ってろよ! いいな⁉」
ナイルの剣幕に押されて、シアンは目を真ん丸にして立ち尽くしていた。
自室に駆け戻っていくナイルを見送り、誰もいなくなった居間で、小さく吹き出す。
「懐かしいな……あいつが、ああいうキレかたするの……」
新人のころはしょっちゅう衝突して、本当に殴られたし、こっちも本気でやり返した。その都度隊長に呼び出されて、二人そろって懲罰を食らったものだ。
いつでも互いの気持ちが分かった。同じ目標に向かって走っていると実感できた。それがいつのころからか、徐々に変わっていった。しかし、具体的にどこがどう変わったのか、考えてみても分からない。
ナイルは相変わらずベタベタしてくるし、特に揉め事もない。二人は親友で、ともに上を目指そうと誓い合った最高のライバル。
それなのに、どこか違和感があった。
一緒に歩いていたはずなのに、いつの間にかはぐれて、たった一人で歩んでいるような――。
(このところ、何か隠し事をされている気がしていたが……俺の勘繰りすぎだな。あいつは、あいつのままじゃないか……)
ドタドタとやかましい足音を響かせて、ナイルは本当に三分で戻ってきた。
昔から変わらない、無駄に元気な声で言う。
「お待たせ! 行こう、シアン!」
フッと笑って、黙って歩き出す。
ナイルの騒々しさが、なぜだか今は、悪くないと思えた。




