そらのそこのくに せかいのおわり Another side 〈Vol,1.5 / Chapter 01〉
この任務を言い渡されたのは、四月の半ばだった。
「流出した遺品の奪還? お安い御用です。して、その遺品とは?」
俺はまったく警戒せず、普段通りにそう訊いた。
どうせいつもの仕事と同じ。ギャンブル依存症の貴族が、由緒ある品を売り払ってしまったに違いない。
競馬や競艇などの公営ギャンブルで満足できなくなった依存症患者たちは、さらに強い刺激を求めて闇カジノに手を出す。しかし、闇カジノの運営母体は総じて土着の反社会的組織。いわゆる地場ヤクザというやつだ。そもそも、まともなゲームは行われていない。すべてが仕込み、すべてがヤラセ。そこで行われる全ゲームが『いかさま』であると見抜けない世間知らずの貴族たちは、あっという間に手持ちの金をむしり取られる。
だが、そこで帰る者はいない。人心掌握術に長けた娼婦らが、絶妙なタイミングで客を煽るのだ。
〈やっといい風向きになってきたのに、今降りるの?
次のゲームは必ず勝てるのに。
え?
賭け金がもうない?
ならこのお金を使って。
当たったらすぐに返してちょうだい?〉
何もかも仕組まれた出来レース。娼婦らに金を借りて挑んだゲームは、当然貴族の一人勝ち。賭け金は十倍近い金額になって戻ってくる。
美しい女たちに「貴方は賭け事の天才」「数十年に一人の逸材」「才能のある男性って素敵」などと誉めそやされ、上機嫌で次のゲーム、また次のゲームへとのめりこみ――気づけば借金は数億から数十億。売れる土地や宝飾品を現金化しても、とても払いきれる金額ではない。かといって、これは違法賭博でできた借金。ひどい取り立てや脅迫を受けたとしても、王立騎士団に助けを求めることもできない。
このような状況が数か月から数年続くと、たいていは使用人らへの給与の支払いが滞る。そして騎士団や労務省へ通報され、事態が発覚。これまでひた隠しにしてきた『違法な夜遊び』が、なにもかも明るみに出てしまうのだ。
けれど、それで捕縛されるのは無知で愚鈍な貴族のみ。賢く素早い犯罪者諸君は、騎士団の介入と同時に蜘蛛の子を散らすように方々へ散り、行方をくらます。
あとに残るのは空っぽの屋敷と、買い手もつかないやせた土地。親類や家臣にも見放された無一文の貴族一家。
俺たち『コード・ブルー』が動くのは、その段階になってからだ。
「今その手の問題を抱えている家とすると、北部のノティアかユノーですか? どちらも息子が賭場に出入りしているとの情報がありますが……」
俺の言葉に、上司は静かに首を振った。
「あの程度の夜遊びは、今回の件に比べればまだまだ甘いな」
「甘い? すでに数億つぎ込んでいるようですが?」
「金額の問題ではない。……昨年引退した、女王陛下付の女官がいただろう? 取り戻したいのは、彼女の遺品だ」
「それは……まさかとは思いますが、日記類ですか?」
「ああ、そのまさかだ」
上司の話では、彼女は大変几帳面な性格で、あらゆることを日記に書き留めていたという。もちろん、女王陛下のお側役を務めるほどの女性だ。部外秘の情報を文書として残すような馬鹿な真似はしない。それでも彼女の一日の出来事を王室の公式記録と照らし合わせれば、かなりの情報が読み解ける。
日記に参加者が記載された茶会と、されない茶会の違い。
その日王宮を訪ねた貴族の役職や、その領地の主力産業。
貴族院議会をたったの十分で通過した重要議題。
いつの間にか決まっていて、いつからか施行されていた法律。
女官の日記は手に入れた者の使い方次第で、国民に公表できない『何らかの取引』が行われたことを示唆する、最重要機密文書と成りえる。どんな公文書の流出よりも、現場に居合わせた人物が個人的に書き留めたメモ書きのほうが恐ろしい。
「それは日記帳ですか? 手帳ですか? それとも、外観では日記帳と分からないようなものですか?」
「ただのノートだ」
「ノート? 学生が使う、あれですか?」
「そうだ。四十枚綴りの薄っぺらなノート。彼女はそれを、一か月ごとに新しくしていた」
「一か月ごとに? なるほど、それは確かに……」
几帳面な性格である。月ごとにまとまっていれば、保管も見直しも容易。ということはやはり、彼女の日記は『後で見直す必要のある文書』なのだ。王宮の公文書には一切記載されない秘密の会合も、彼女の日記には何らかの形で記録されているに違いない。
「一年で十二冊。女学生時代から亡くなられる前日まで、毎日欠かさず。表紙に通し番号が振られていたおかげで、すぐに何冊か足りないことが分かったのだが……」
「いつごろの日記です?」
「二十四年前。女王陛下が、妹君に影武者を頼んでいたころのものが抜けている」
「何冊でしょう?」
「三冊だ。マルコ・ファレルの出生月と、その前後」
「……一番厄介なところが……」
「彼女は賢い。もしかしたら、自分でノートを焼き払ったのかもしれない。だがそうでなかった場合、女王陛下にとって大変ご都合の悪い使われ方をする可能性もある。流出した遺品を徹底的に調べ、ノートを回収せよ」
「存在しなかった場合は?」
「難しいこととは思うが……それを証明してほしい。できるか、シアン」
存在の証明は容易いが、存在しないものの証明ほど困難なことはない。俺は数秒置いたのち、こう答えた。
「できないことを無理にでもやるのがウチでしょう?」
上司は申し訳なさそうに肩をすくめ、片方しかない瞳で俺を見る。
「健闘を」
「死亡報告以外なら、なんだって妥協してくださいよ?」
そう言って、笑って上司の部屋を辞す。
情報部に、『吉報』などというモノはない。
騎士団本部庁舎の裏手に、完全隔離された近代的なビルがある。すべての窓は嵌め殺しで、外と行き来できるのは正面と裏手、屋上の三か所のみ。どのガラスも鏡面加工が施され、中の様子をうかがうことはできない。ビルの周りには高さ五メートルのコンクリートの壁。門は一か所。
本部庁舎の数十倍の警備網を張り巡らせたこのビルこそが俺の職場、王立騎士団情報部である。
情報部の任務は、その名の通りありとあらゆる情報の集約と発信。全国各地に諜報員を送り出し、国家の敵となり得る不穏分子の発見に努めているのだが――。
「ヤッホーッ! シアーン! おっはよーう! この組み合わせで任務出るとか、超珍しくなーい? マジ楽しみなんだけどーっ!」
エントランスホールを抜けようとしたところで、これだ。
声の方向に目をやると、そこには満面の笑みを湛えたハイテンション野郎がいる。こいつは昼夜を問わずうるさい。とにかくうるさい。なぜ隠蔽工作や諜報活動を主とする情報部に所属していられるのか分からないくらいうるさいし、たとえ喋っていなくても、存在感がうるさい。そこにいるだけで無駄に人目を惹くタイプの人間である。
「ああ、よろしくな、ナイル」
「ねえねえ、今日ってさ、まずは古物商のとこ回るんでしょ? 価格交渉なら任せといてよー。俺、そういうの大得意だからさー」
「そうだな。必要になったら任せてやる」
「イエーイ! ナイル様大活躍の予感! マジで上がる! 善は急げだゴー・ゴ・ゴーゥッ! イヤッハーッ‼」
コードネーム、ナイルブルー。雄大にして繊細、不規則な揺らぎの中で複雑に色を変える大河の水面――の、名前なのだが。当人にダイナミックさ以外の要素が何もなく、名前負けしている感が否めない。
無駄にはしゃぐナイルとともに、まずは城下の商店街へ向かった。
王宮の西側は、比較的裕福な市民らが居を構えるエリアである。流出した遺品はこの町の古物商に売却されたらしい。
「その女官の親族ってさ、別に、お金に困ってなかったんだよね? なんで売っちゃったんだろうね?」
歩きながら、阿呆の発言に一応答えてやる。
「資料に書いてあっただろう? 大きすぎたんだ」
「だって、ドレッサーだよね? 鏡にちょっとした引き出しがついてるくらいの家具でしょ? うちのマムも使ってたけど、それほど大きくないはずだよね?」
「引き取った親族も、そのつもりでもらい受けたんだろうな。よくある間違いだ」
「え? どういうこと?」
「貴族の家の鏡台は座って使う物だけとは限らなくて……ああ、この店か。百聞は一見に如かずだ。行くぞ」
通りに面した瀟洒な古物店。その入り口を開け、俺たちは店内に足を踏み入れる。
「ごめんください、王立騎士団の者ですが……」
俺の声に、店の奥から店主が駆けだしてきた。
「は、はい! いらっしゃいませ! あの……その軍服は、もしや特務の……?」
情報部の軍服は特務部隊と同じデザインで色違い。黒のジャケットに白のパンツだ。あちこちの現場で特務と一緒に動いているため、新聞や週刊誌にもたびたび写真が掲載されている。残念ながら、一般市民からは『特務部隊の下部組織』と思われているのが現状である。
「私は情報部所属のシアンと申します。特務部隊同様、貴族に関係する案件のみを担当しておりますので、まあ、似たようなものとお考えいただいて結構です」
「あ、えーと、特務部隊とは別なんですか?」
「ええ、うちは平民ばかりで構成された部隊です。特務の貴族様がやりたがらないドサ回りが、主な仕事ですね」
「へぇ~、そうだったんですか~! いえね、いつも気になっていたんですよ。新聞の写真に、色の違う軍服の人が写っているから。なんだ、市民階級の部隊は別にあったんですね~」
「はい、そうなんですよ。あっちは貴族のお坊ちゃんと、そのお世話役しかいませんから。面倒な仕事は全部こちらに回されてくるんです」
嘘は言っていない。特務は貴族のボンボンとお気に入りの騎士団員だけで固めた仲良しお友達部隊だ。奴らが暇そうな面で漫画本を読んでいる間にも、俺たちはこうして市内を歩き回っている。
「それはそれは。ご苦労なさっておられるんですねぇ……」
俺の言葉を信じた店主は、同情の眼差しで俺を見ている。
これでだいぶ交渉しやすくなった。
どうせ下部組織と思われているのだから、それを利用しない手はない。同じ市民階級であることを前面に押し出して、『貴族に対する思い』という共通項を作り上げる。そこから本題を始めれば、たいていは話が上手くまとまるのだ。
「実は、今日お伺いしたのも貴族に関係する案件でして……」
「それはまさか……うちで仕入れたものに、貴族のお屋敷から盗まれた品が……?」
古物店ではよくある話である。その場合、せっかく仕入れた品は事件の証拠品として押収されてしまう。仕入れに使った金は戻らない。犯人から賠償金が取れればいいが、ほとんどのケースでは店側の泣き寝入り。保険会社から補償金が下りるかどうかも怪しい。
俺は店主を安心させるべく、事前に用意した『嘘の筋書き』を説明する。
「いえ、今のところは、まだ窃盗の捜査でありません。先日、こちらに鏡台が持ち込まれたでしょう? 大きな姿見の……」
「ええ、はい、三面鏡のですよね?」
「その鏡台は、本当は他の方に相続されるはずだったのです。それが手違いで別人の手に渡り、売却されてしまった。そのため、本来の相続人との間で話がこじれていまして……」
「えっ? それは、あの……手違いとはいっても、泥棒と同じなのでは……?」
「その通りです。私たちが動いているのも、本来の相続人から『窃盗』として通報があったためですが……なにぶん、親族間の問題ですからね。双方、これ以上大事にするつもりはないそうで。ことを穏便に収めるために、まずは鏡台を買い戻してから、改めて話し合いの場を設けたいとのご要望です」
「ええと、では、その……お代は、いただけるんですよね?」
「はい。ただ、このまま話がまとまらなければ、本格的に窃盗罪で告訴するとおっしゃっておられます。そうなれば、鏡台は証拠物品として押収することになりますので……問題を早急に解決するためにも、できれば、そちらが買い取ったお値段と近い金額で商談をまとめさせていただきたいのですが……いかがでしょう?」
店主は一も二もなく頷いた。今なら仕入れ費用は取り戻せるのだ。押収されて赤字を出すくらいなら、プラスマイナスゼロで手放してしまったほうがいいに決まっている。
俺とナイルは店主に案内され、店の裏手の倉庫に入った。そこではじめて現物を目にしたのだが――ある程度予想していた俺でさえ、これには言葉を失った。
「……大きいですね……」
高さ三メートル、幅二メートル弱。基本的な形状はワードローブのような収納家具。扉部分が三面鏡になっていて、完全に開けば幅は五メートル近くなる。
これは夜会用のドレスと鬘、羽根飾りなどを身に着けて、頭のてっぺんから足の先まで、くまなくチェックできる『上級貴族のためのドレッサー』である。
「うへぇ……これが貴族用の家具かぁ……」
庶民のマムが洗顔後に白粉をパタパタやる『ドレッサー』とは全くの別物。ナイルもようやく、『大きすぎて手放さざるを得なかった』という文章が理解できたようだ。
「この鏡台、中身は空でしたか?」
「いいえ。化粧道具などが収められておりましたが……ご覧の通り、うちは古物の中でも家具類を専門に商っております。中身のほうは、小間物専門の業者に卸してしまいました」
「そうですか……。中身のほうも相続対象物品となっていますので、その業者の住所と名前、あと、取引の記録も控えさせていただけますか?」
「はい、ただいまご用意いたします」
俺とナイルは必要な情報を一通り入手し、鏡台の購入手続きと輸送の手配を済ませ、次の店へと向かった。
道中、ナイルは不満げに言った。
「なんだよなー、もーう。俺の出る幕無かったじゃーん」
「通常価格から値切っていくより、ああ言ったほうが安く済ませられる。互いに嫌な思いもしなくて済むし……小間物屋の住所を聞き出すのも、自然な流れで行けただろう? 普通、度を越えた値切り癖のある客を、仲間の商売人に紹介したがる奴はいないからな」
「いやソレわーかーるーけーどぉー。フリマとか青空市なら、俺の独壇場なのになぁー」
「そうだな。そういうところまで流れていたら、ナイルに任せる」
「ホント? ホントにホント? 俺このままじゃなんとなく後ろ歩いてるだけの人なんですけど? ホントに任せてくれるの?」
「ああ本当だ。だからちょっと黙れ。うるさい」
「あ、ひどっ! 間が持つように賑やかしてあげてんじゃーん!」
「頼んでないし、そういうのは求めてない」
「またまたぁ~、いつも単独任務ばっかりだから、実は寂しかったりするんじゃないのぉ~? ねえねえ、シアン~?」
俺は適当に無視しながら、さっさと目的地に向かう。しかし、それでもナイルは無駄にベタベタくっついてくる。はじめて会った頃は俺に気があるのかと疑ったこともあるが、このごろでは、これがこいつの種族の特徴だということが理解できた。
俺もナイルもネコ科の種族だが、こちらはカラカル、あちらはイエネコ。親兄弟であっても、俺たちは基本的に群れない。だがイエネコというヤツらは、気が付くとすぐに群れている。ベンチでコーヒーを飲むときも、休憩室で仮眠をとるときも、なぜか体が密着するような距離感で寄り集まっているのだ。
見た目が似ていても別の種族なので、勝手に添い寝することだけは勘弁してもらいたいのだが――。
「あ、ほら、あの店だよね?」
先ほどの店から徒歩十五分ほど。同じ町内だが、こちらは路地裏にひっそりと店を構えた『隠れ家的ショップ』といった風情だ。看板はなく、店の前に立てたアンティークのイーゼルだけが店名を知らせている。入口も個人宅を改装したようなごく普通の扉で、掛けられた木のプレートには『営業中』の一文のみ。営業時間や休業日の類は一切書かれていないので、店主の気まぐれで決まるのだろう。
俺たちは店に足を踏み入れた。そしてその瞬間、二人同時に、ナイフの柄に手をかけていた。
殺気である。
尋常でない『殺気』と『敵意』を感じた。
素早く視線を奔らせるが、特におかしなものは見当たらない。店内はごく普通の中古雑貨店のレイアウト。どちらかと言えば女性向けの店なのか、古いガラス瓶や小物入れ、写真立てなどがレースやドライフラワーで飾り立てられている。
しかし、この気配だけは間違えようがない。これまで幾度となく感じてきた『戦闘開始直前の空気感』なのだ。
俺たちは視線だけで確認し合う。
(感じるよな?)
(でも、どこから?)
狭い屋内での活動が多いため、情報部の基本装備は特務と異なる。あちらが剣と短銃なら、こちらはナイフとスタンガン。殺傷能力が大幅に劣る装備で同等かそれ以上の成果を求められるのだから、実際の腕前は推して知るべし。そんじょそこらのチンピラヤクザなら五人、十人が相手でも何の問題もなく戦える。
俺はいつでもナイフを抜ける体勢で、店の奥に声をかけた。
「ごめんください、王立騎士団の者です。どなたかいらっしゃいませんか?」
数秒待ってみたが、返事がない。
店を開けたまま外出するなんてありえない。俺たちはナイフを抜き、慎重に進んでいく。
バックヤードと店舗とを隔てる間仕切りの衝立。そこから恐る恐る奥を覗くと――。
「大丈夫ですか⁉」
「いったい何が⁉」
女性が倒れていた。この店の主人のようだ。赤いエプロンを身に着けた五十歳代の女性が、真っ青な顔で気を失っている。
俺が脈と呼吸を、ナイルが怪我の有無を確認する。
「外傷無し。着衣も乱れてないし、店内も荒らされてないから、誰かにやられたわけじゃなさそうだね」
「脈も呼吸も正常。ただ、体温が異常に低いな。貧血か持病だろうが……ともかく、病院に運んだほうがいい」
そう言って抱き起そうとしたときである。俺は、彼女の体の下敷きになっていたものから目が離せなくなった。
「シアン? どうしたの?」
俺は無言でそれを指差す。するとナイルも、すぐに気付いた。
「これ……禁呪符だよね……?」
「ああ……それも、通常ルートじゃ出回らないタイプのだな……」
禁呪符とは、法的に規制された呪符の総称だ。銃や刀剣類と同様、『殺傷目的で開発された魔法呪符』は民間人の製造・所持・使用が固く禁じられている。比較的簡単に作れる発火呪符の類は放火事件の現場でよく見つかるが、ここにあるのは、その手の呪符とは根本的に異なるものだ。
「……何重だ? いったい何種類の呪詛を複合させてやがる……」
「最上級呪詛の複合パターンなんて初めて見たんだけど……シアン、これ、もしかしなくても……」
「マフィアに拾われる野良ウィザードごときに、こんなものは組めない。女王陛下の側近の魔女か、あるいは……」
「女王陛下、御本人が……?」
「その可能性は大だな。クソ、こういう可能性も考慮しておくべきだった。表に出せない文書は始末するに限るが、燃やすわけにはいかない文書なら……」
「勝手に読まれないように、『ガーディアン』をつける……」
「間違いない。ここだ。この店のどこかに、問題のノートと……」
俺たちは静かに立ち上がり、構える。
「そのノートを守る『ガーディアン』がいる……」
女主人が倒れた原因は、貧血でも持病でもない。出現した『ガーディアン』によって、なんらかの攻撃を受けたのだ。
姿も攻撃法も、攻撃対象とみなされる条件も分からない。
どこかにいる、何かとの対戦。使える武器はナイフとスタンガンのみ。
どうやら俺たちは、とんだ貧乏くじを引かされたらしい。




