第5話「テスト」
本日2話目の投稿です。
「と言う訳で、頼みますよ」
「……面倒くせえな」
バルドは練習場に置いてある剣の一本を手に取った。
「ちゃんと選ばなくてよいのか?」
ナーニャがあまりに無造作な様子に驚いて声を掛ける。
「……どれも一緒だ」
そう言ってバルドは手にした剣を適当に振り回す。
「なるほど、確かに力はあるようだな」
選んだ剣と木盾を手にしたナーニャ。
剣を担いだだけのバルドの正面に立つ。
「盾は要らないのか?」
「……邪魔なだけだ」
ナーニャは騎士の作法に則って礼をした。
対するバルドは肩に剣を担いで立ったまま。
「構えろ」
「……いい。始めろ」
ナーニャはイルリアの方を見た。
小さくうなずくのを確認して動き始める。
剣を構え、相手の動きを伺う。
――なんなんだ、この威圧感は?
ナーニャは始めてすぐに内心で驚いていた。
構えようともしない男に隙が見えないのだ。
――仕掛けてみないと始まらない、か。
意を決してバルドに打ちかかる。
まずは小手調べの一振り。
力より速さに重点を置いた一撃。
キン!
驚くほどの反応速度。
いとも簡単に弾かれた。
その流れのまま襲いかかるバルドの剣。
それを盾で受け、次は力を籠めた一撃を。
ガギンッ!
これも剣で完璧に受け止められる。
だが。
ナーニャは女だてらに力にも自信があった。
目一杯の力で押す。
しかし全く押し込めない。
ビクともしないのだ。
「……力じゃ勝負にならんぞ」
なんという力だ。
全く力んだ様子もないと言うのに。
しかもただ受けるだけで攻める気配も無い。
女だからと馬鹿にしているのか。
「チッ!」
ナーニャは左手の盾でバルドの右腕を殴った。
それをバルドは事も無げに受けてみせる。
剣を持っている腕を木とはいえ盾で殴ったのだ。
それなのに気にする様子もない。
痛覚というものが存在しないかのようだ。
「なんとも丈夫なものだな」
仕方なくナーニャは剣を引いた。
少し距離を取って構えなおす。
「……次はどうする?」
バルドは事も無げに言う。
相変わらず構えもしないで。
剣をだらりと下げたままだ。
――この男は強い。
それはもう認めざるを得なかった。
速さ、力強さ、頑丈さ。
どれも戦士にとって大切な資質だ。
――悔しいな。
ナーニャは自分の力が及ばない事を悟った。
それも僅か2合で。
主のイルリアにとってこの男が強いのは喜ばしいことだ。
だが騎士として修練を積んできたという自負。
男にも剣では引けを取らないというプライド。
それが素直に負けを認めさせてくれなかった。
ナーニャは名門の騎士の家に生まれた。
亡くなった父は剣の名手として有名だった。
男子がいなかったので後継ぎとなった。
父が厳しくナーニャの剣を鍛え上げたのだ。
幸いナーニャは努力する才能に恵まれていた。
血の滲むような修練で手に入れた騎士の剣。
明日も2話投稿予定です。
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