第21話「成長」
「バルドっ!」
「バルドさん!」
イルリアとサラがバルドに駆け寄る。
二人を見るバルドの目から金色の輝きは消えていた。
「凄い傷だわ。サラ、治癒を」
「はいっ。『主よその』――」
「……いらん」
バルドの無数の傷を見てイルリアもサラも驚いた。
サラが呪文を唱えようとするのをバルドが制する。
「なに言ってるのよ。そんなに怪我してるじゃない!」
「そうです、すぐ終わりますからじっとしていてください」
サラがそう言って再び呪文を唱えだす。
だがバルドはさっさと歩き出してしまう。
「この人は呪文で治癒されるのが嫌いなんですよ」
ルブリスが肩をすくめて呆れたように言った。
「……寝れば治る」
「本人がこう言うんだからいいじゃない。馬鹿はほっときましょう」
ミレアが軽口をたたく。
バルドがジロリと睨んだが、どこ吹く風だ。
「なんなんだ、これは?」
ナーニャが自分の手のひらを眺めて呟く。
「あら、どうかしたの?」
ミレアの声に顔を上げた。
「なんて言うのか、体の奥から何か湧き上がるような。うまく言えないが」
「あら、実戦は初めてだったわね。EXPが入って成長したのよ。かなりまとめて倒したし、どこかの馬鹿がオークロードまでやってくれたから」
困惑するナーニャにミレアが答える。
なんだそんなこと、という風に。
「……誰が馬鹿だ」
またもやバルドが睨むが無視された。
「イルリアさまやサラさんも感じない? 結構成長したと思うんだけど」
「えっ、わたしも成長してるんですか?」
ミレアの言葉を聞いてサラが驚く。
「パーティーを組んでたら全員にEXPが入るわ。じゃなきゃヒーラーなんて永久に成長できないわよ」
「言われてみたら確かにそうかもしれないわね。わたしもなんだか魔力が強くなったように感じる」
イルリアもなんとなく成長を感じているらしい。
「わたしはちょっと分からないです」
サラは実感がないようだ。
「サラ、だったらちょっとこの傷を治してもらえるか?」
ナーニャがそう言って腕を差し出す。
その腕には何かにえぐられたような傷があった。
血はほとんど出ていないが傷口が生々しい。
イルリアとサラをかばった時に石で傷ついたのだろう。
「ちょ、ちょっとナーニャ! ひどい傷じゃない!」
「それほどではない。少し痛むがちゃんと動くし」
イルリアが焦って叫ぶがナーニャは腕を動かして見せた。
「何言ってるのよ! サラ、早く!」
「は、はいっ。『主よその御手により傷を癒したまえ』――」
サラが傷に手をかざして祈ると、傷が白い光に包まれた。
傷口がみるみるうちに塞がっていく。
「ありがとう、たすかった。サラ、やっぱり呪文が強まっていないか?」
「確かにそうみたいです。今までより効果が大きくなっていると思います」
ナーニャの傷は跡も残さず綺麗に治ってしまった。
それを見てサラが嬉しそうにうなずいた。
「もうナーニャ、 もっと自分のことも大事にしてよね!」
イルリアは文句を言いながらもホッとした様子だ。