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そして俺は

猛は慌ててソファーから離れて玄関の方へと向かう。

そんな猛を少女は追うようにしてついて行く。


「白凪!参上でござる♪」


無論玄関には白凪の姿があり、靴を脱いで中へ入ってくるところだった。

先程家に来た時は制服姿であったが、今は白シャツに黒のミニスカート、ニーハイソックスという格好をしている。

しかしそんな私服のことよりも白凪の荷物の方に目がいってしまい、呆れた猛はため息をつく。

その異様な格好を目にしたのなら呆れるのも無理はない。

両手に一つずつキャリーバッグを握り、大きなリュックサックを背中に一つ、おまけに腰に少し小さめのリュックサックを紐でくくりつけているのだ。

明らかに一泊するだけの荷物ではない。

なんならちょっとした引っ越しが出来るくらいの荷物量だ。

というかリュックサックを腰にくくりつけるのはいくらなんでも異常すぎる。


「お前何泊するつもりだよ」


「タンパク」


「面白くねぇよ」


「ランパク」


「かき混ぜんぞ」


「ワンパク」


「育ち盛りか!」


「潔白」


「綺麗な心だね」


「パクパク」


「なに食べてんだよ」


「パククネ」


「中国の人ね。てか、後ろのパク消えてるじゃん」


「パクヨンハ」


「冬のソナタね」


「チェジウ」


「冬のソナタね。んじゃねぇよ!パクどこいった!」


「心拍」


「まだ続けんのかよ!そろそろやめねぇと家から追い出すぞ」


「わかった♪わかった♪ごめん♪ごめん♪」


白凪は真剣に怒ってくる猛とは別に適当な感じで笑いながらあしらうように謝ったのち、猛の隣にいる少女を指差した。


「私はたーくんが本当にその女の子に変なことしないのか監視しないといけないから死ぬまでここにいるつもり」


「だからやんねぇって!……てっ!まてまて死ぬまでってなんだ」


「今日からお世話になりまする」


「おいおい勝手なこと言うな!お前の親は!?厳しいだろそう言うの!一泊くらいならまだしもずっと俺ん家にいるのはまずいだろ。いくら明日が土曜で学校が休みだからって」


「大丈夫だもん♪結婚したらいい話」


「なにが大丈夫なのかな!?」


暫くこんな風に言い合いが続いたが、猛がこれ以上言っても時間の無駄だと判断したのか仕方なさそうに頭をかいて


「わかったよ。でもそんなに長居すんなよ。俺がこの子に変なことする気がないってわかったらすぐ帰れよ」


「もぉしょうがないな〜」


「なんで上からなんだよ……まぁいいや。そんじゃこんな廊下で喋ってるのも何だし、その大量の荷物をリビングに持っていくぞ」


言って白凪の荷物をリビングに移した。

一つ一つが重くて運ぶだけでもかなり疲れた。

その間白凪は腰にくくりつけた紐を解いてリュックサックを体から離していた。

残念ながら紐が解けなくなって絡まり、エロい格好になるというイベントは発生しなかった。






猛がダイニングテーブルの椅子に座っていると白凪がリビングの床に自分が持ってきた荷物を出して並べているのが見えた。

多分今日使う物とかだろう。

なにか呟きながら並べていくので何を並べているのだろうかと興味本意でこっそり覗いてみた。


「かまぼこ、かずのこ、だてまき、えび、くろまめ」


「お前なに持ってきてんだよ!服とかじゃなかったのかよ!」


「違うよ♪ただ暇つぶしになるかなって」


「それでどうやってヒマを潰すんだよ!なに!?おせちでも作る気!?」


「作らないよ♪そうだね〜なんで持ってきたんだろ」


「お前バカだろ…だから荷物がそんなに多くなるんだよ」


白凪は残念そうに食品たちを腰にくくりつけていた方のリュックサックの中に戻していった。

そんな中、白凪の隣で少女はまたソファーに座りながらテレビを見ている。


「白凪」


床に座る白凪に声をかける。

すると白凪が反応すると同時にソファーに座る少女の背中がピクリと動いたのが分かった。

なぜ少女も反応したのかはわからない。


「なに♪」


白凪が機嫌良さ気に猛に視線をやる。


「その子と一緒に風呂入ってやってくれ」


「え、まぁいいや♪あ!でもこれだけでたーくんが変なことする気がないって認めたわけじゃないからねー」


「そう言う意味で言ったんじゃねぇよ」


「んじゃ入ってくるね〜♪いこー…えーと…な、なにちゃんだっけ?」


白凪がソファーの方へ視線をやって少女に声をかけたのだが、肝心の少女の名前を知らないのだ。


「ないんだよ」


猛の言ってることがよくわからなかったのか白凪が首を傾げて目をパチパチさせる。


「異世界から来たっていったろ?んで記憶失ってるみたいなんだ」


記憶を失っていると異世界から誰かが教えてくれたことを思い出す。

白凪は「ふーん」と案外納得した様子で首を縦に振った。


「じゃあそこのマナイタガール!一緒にお風呂いこ♪」


「ま、まないたがーる?」


少女が首を捻るのを見て白凪が笑う。

そして説明するように自らの胸に両手を合わせて


「ここがぺったんこの人をまないたって言うの」


「なに教えてるの!?」


思わず猛がツッコミを入れる。

少女はなんだか恥ずかしそうに自分の胸元に手を当てて平坦を確かめた。


「大丈夫♪気にしなくていいから♪」


白凪は励ますように少女の背中を撫でた。

少女とは対象に自分を主張してくる胸をもつ白凪は「ドヤ」といった様子で猛に視線をやってくる。

猛は汗を滲ませ思わず白凪の胸元に視線をやってしまう。


「きゃぁーたーくんのエッチ〜」


「う、うるせ!そんなこと言ってないで早く風呂入ってこい!」


誤魔化すように慌てて目を逸らした。


「はいはーい♪言われなくてもわかってますよ〜じゃっ行こっか?」


「うん」


言って少女の手を握った白凪はキャリーバッグの中から出したバスタオルや服を持って風呂場の方へ行ってしまった。

白凪が消えると急に静寂が訪れる。

いつもの自分の家の空間だ。

飽きるほど体感してきた空間だから安心する。

だが、安心はしても先までのことが嘘だったかのように突然静けさに包まれたのだ、なんだか寂しい。

まぁ寂しいと言ってもあいつらが風呂に入っている間だけだと自分に言い聞かせて。


「よし。じゃあ俺は」


呟いきながらテレビの横の小さな本棚から辞書を取り出し、メモ帳とペンを片手にまたダイニングテーブルの椅子へ腰をかけた。


「さっ始めるか」


次回は6月28日の0時00分に投稿します。

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