表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/17

修羅場の予感

猛は少女と共に帰宅した。

猛の家は大きくもなく、小さくもない何処にでもある特になんの特徴もない一軒家である。

猛は家についてすぐに食事の準備に取り掛かった。

その間少女はソファーに座ってテレビを見ていた。


「ほら、できたぞ」


猛がテーブルに出来立ての牛丼を置いて少女を呼ぶ。


「ほんと!?」


少女はソファーから跳び上がるようにして駆け足でテーブルに向い、椅子に腰掛けた。

牛丼はシンプルな物で具は玉ねぎと牛肉だけだ。

だから短時間で簡単にできた。

しかしシンプルな物ほど作る者の技量が試されるものなのだ。


「なにこれ!?」


目を輝かせながら牛丼の器を持ち上げていろいろな角度から眺めはじめた。


「食べてみ」


少女は首を縦に振って牛丼をテーブルに戻した。

そして数秒牛丼を眺めてから突然素手でお肉を掴もうとした。


「まてまてまて!これ使え!」


猛は牛丼と一緒にだしてあったレンゲを少女に手渡した。

お箸は初心者には扱い難い物だと思いレンゲにしたのだ。


「なに?これ」


「レンゲ」


「食べ物?」


「お前ほんと食いモンにしか興味ねぇのな」


「違うんだ……どうやって使うの?」


「それですくうようにして食べてみ」


「こう?」


少女はレンゲでお米とお肉と玉ねぎを持ち上げた。


「そうそう」


それから口に運んだ瞬間、目を見開いて猛に視線を向けた。


「おいしぃ!!!!」


感動を声と手で伝えてくる。

ストレートな言葉が一番嬉しくて思わず笑ってしまう。


「そうか、よかった」


パクパクと気持ち良いほどに牛丼を口に運ぶ。

少女の勢いは止むことなくすぐに牛丼を完食してしまった。


「はや!」


驚きが口に出てしまうほどだ。

少女は満足げな顔をして「ありがとう」と言った。

とても可愛くて写真に収めておかなかったことを後悔した。




猛が食器を洗っていると少女はソファーに座ってテレビを見ていた。

とても興味深そうに画面を無言でまじまじと見つめている。

そんな姿が面白くてつい口元が緩む。

そして猛は少女を見ながら数時間前に異世界から届いた謎の声を思い出していた。

その子を守ってとは果たしてどう言う意味なのか、何にせよこんな可愛い女の子が危険な目にあえば守らないわけはないのだが、少し胸のあたりがもやもやするのだ。

自分は何に巻き込まれたのかと、異世界から来た少女ってだけでもやはり多少は驚いたし、その少女を守れとか主人公的で面白そうとか思ったりもしたが、一体何からどうやってどう守ればいいのか、肝心な事が何もわかっていないままだ。

不安なのも仕方がないと自分を励ます猛であった。

そしてもう一つ思ったのがこんな可愛い子を家に連れてきて大丈夫だったのかだ。

(べッ、別にやましいことなんてこれっぽっちも考えてないんだから!ただ家もないみたいだしかわいそうだなって思って連れてきただけなんだから!勘違いしないでよね!)

などと心の中で呟いていると猛の携帯がバイブと共に着信音を流しはじめた。


「誰だよ、こんな時間に」


壁にかかった時計は午後8時を表していた。

猛は一旦食器を洗うのを止めて手を拭いてからテーブルの上に置いてある自分の携帯をとりにいった。

そして画面に映し出された着信相手の名前を見て身体を硬直させた。


「は、はつ、白凪…」


思い出したのだ。

今日は白凪が晩飯を食べに来るという予定だった。

すっかり忘れていた猛はパニックになって暫くあたふたしてから深呼吸をし、画面に視線を戻して震えた指で[応答]を押した。


『もしもし〜?出るの遅いよ〜♪今の時間でカップ麺100個はできたよ』


そんなに経ってねぇよ!

と言ういつもの雑なツッコミも出ないくらいに猛はパニックになっている。


『あれ?もしもし〜?もしもし〜?もっしもっし〜?もしもしもしもしもしもしぃいいいいぃいぃいい。…あれ?……………もしもし?』


「なんだよ」


『あー♪たーくんだ♪』


「そりゃ俺にかけたんだから俺が出るだろ」


『そだね♪あと5分でそっち行くから用意しといてね〜それじゃ♪』


プツンという音と共に通話が終了された。

猛は身体中冷や汗をかいていた。

もぅあれだプール入った後、みたいになっている。

なぜこれほど猛が焦っているのかというと理由はあの異世界美少女がいるからだ。

白凪は昔から猛が隣の席の女子と喋っただけで早退して次の日もその次の日も学校を休むほど病んだり、猛が仲良くなった女子に猛の恥ずかしいことを言いふらして嫌いにさせたり、猛はゲイだから男の子意外とは喋りたくないという嘘を中学の時に全校生徒の前で話したり、女の子と喋ると蕁麻疹じんましんができるとか、終いには女の子と喋ると爆発して地球が滅びるから危険とかいうわけの分からない嘘をついたりして猛に近づいてくる女子を遠ざけようと奮闘していた。

それでも無理なら実力行使でその女の子たちを何度も病院送りにしたという噂もあるくらいだ。

だから高校に入ってからも女子とろくに喋れていないのも全て白凪が原因なのである。

そんな女に猛が女子を自宅に連れ込んだなどと知られたのなら何をされるか分かったもんじゃない。

それこそ俺と少女の命の保証はない……これはいいすぎた。

しかし、それくらい恐ろしい女なのである。


「ちょっと」


「な、なに!?」


猛はテレビを見ていた少女の腕を引っ張った。

少女は突然腕を引っ張られたので驚いていた。

そして不満そうに猛を睨む。


「待ってくれ!テレビは後で飽きるほど見せてやるから少しの間だけ隠れていてくれお願いだ!」


「なんでよ!いいところだったのに」


猛は胸が裂ける想いで苦しかった。

できればこのままテレビを見させてあげたい。

でもそれは同時に死を意味するかもしれないことなのだ首を振って決心した猛は少女を引っ張ってお風呂場へ向かった。

(あの声に言われたその子を守ってあげてってのは白凪から守れということだったんだ!!!)

と自らに言い聞かせて正当化する。


「いやーー!あれ見たい!」


少女はなんとか猛に反抗して力を入れるも男子高校生の腕力には到底勝てるわけもなく地面に足裏を擦りながらゆっくりとお風呂場へ引きずられる。


「本当にごめん!でも、これは君のためでもあるから!」


「意味わかんない!離してよ!」


「頼むから!今だけだから隠れていてくれ!」


お風呂場の扉の前まで来て少女がラストスパートをかけたのか、いきなり先程よりも力を入れて抵抗してきた。

玄関から繋がった廊下の真ん中でお互い一歩も譲らない戦いが起きていた時だった。

最悪が起こる。


「おっじゃっましま〜す♪」


玄関のドアが勢いよく開かれて白凪がテンションMAXで入ってきたのだ。

そして目撃した。

お風呂場へ異世界美少女を無理矢理引きづり込もうとしている猛の姿を。


「何やってるのたーくん!!!」


次回は来週の水曜日更新です。

コメントを書いてくれたらとても嬉しいです。

白凪を良いと言ってくださった方もいました。ありがとうございます!

これからの励みになります!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ