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異世界からの声

今回は5話、6話同時更新なのでそのまま6話も見てくれたら嬉しいです。

男は歩く。

少女はその隣を歩く。

二人は顔を見合わせ話をしながらのんびりと歩を進めている。

男の方は都立蓮山高校の制服を着ていてスクールバッグを背負い右手に食材の入ったスーパーのレジ袋を持っている。

少女の方は小さな身体を不思議な質感の純白なワンピースで包んでいる。

会話の中で突然、男––––猛の方が目を見張って固まった。


「名前も知らないの?」


「うん」


少女は真顔で頷いた。


「マジかよ!」


冗談を言っている様子は見られない。

少女は言った。

家も虫とり網や板チョコも知らない名前も知らない何より地球を知らない。

そんな少女はどこから来たんだ。

そんなの異世界しかないじゃ無いか。

仮にこれ全てが少女の冗談であったのなら度を超えている。

何が目的なのかもわからない。

つまりこの少女は本当に何も知らないのだ。

信じがたいことかもしれない、だが俺は一目この少女を見たときに地球ここではない、異世界どこかの人間だと直感的に思った。

だからなのか俺の中ではもうこの少女は異世界美少女になっているのである。


「名前は欲しいだろ」


「名前なんていらない」


「な、なんで?」


「必要ないもん」


「え……」


「私はいいからアンタの名前は?」


「お、おれ?」


そういえばここまでこの少女に自分の名前を言っていなかったことに漸く気づく。


「俺は藤井 猛」


「フジイタケル?」


「なんで片言」


「長い」


「あぁ。猛でいいぞ」


「タケル」


「片言かい!長さ関係ないだろ!ワザとだろ!」


そんな会話をしていて思う。

やはり名前は必要だろ。

そうなってくるとこのイベントが発生するのではないだろうか。


【主人公がヒロインに名前をつける】


(俺という物語の主人公は俺だ。そして異世界美少女はどう考えても俺のヒロイン……無理か…いや!理想は高くだ。あぁ。やっぱ理想になるのか……いやいやいや現実にしてやるぞ)


「名前はやっぱり必要だ」


「なんでよ」


呆れたように半眼で言う。


「まぁまぁそんな顔するなよ。俺に提案がある。もぅめちゃくちゃ良い提案だぞ!素晴らしく、絢爛豪華けんらんごうかな提案だ。あれ?使い方あってる?」


「なによ」


猛は腕を高く上げて人差し指を立てた。

そしてそれを勢いよく振り下ろして少女を指差した。

その瞬間カッコいい好感音が入った気がする。


「俺がつけてやる」


「いや」


即答だ。


「あ、あぁそ、そう」


なんでそんなに名前を欲しがらないんだ。

欲しがるとかの前に名前を嫌がっているようにも見えてきた。


「そんなに名前がほしくないのか?」


「……前もそんなことがあったような気がするの。でも、忘れたから。知らなくなったから何もかも」


少女の言葉を猛は理解できなかった。

何を言いたいのか全く分からなかった。

でも、少女の悲しそうに発せられたその言葉に何か胸を締め付けられるようなそんな想いを抱いた猛はそれ以上何も聞かなかった。

いや、聞けなかったのか。

暫く二人の間に沈黙がうまれ、ただただ足音が辺りに響くばかりだ。

そんな空間に耐え切れなくなった猛が口を開く。


「……んん…あれだ……帰ったら牛丼っての食べさせてやるよ」


「おいしいの?」


「もちろん!」


「楽しみ」


少女が笑顔になる。

なんとも微笑ましくてお日さまのようなあたたかい笑顔なのだ。

ずっと笑っていてほしいと思うほど、この儚く愛おしい笑顔を守りたいと思った。


だんだんと自宅に近づいてきた時だった不意にある事を思う。


–––––これって誘拐ゆうかい


(待てよ。冷静に考えたら誘拐だよな。俺の中では勝手に異世界から来た美少女になってるんだけど。いいのか?誘拐にならないのか?交番とか言った方がいいのか!?)


「ちょっと来て」


猛は少女の手を握って引っ張った。

冷静になってみたらやはりこれは交番に行った方が良いと判断したのだ。

知らない内に犯罪者とかマジ勘弁。


「なっ、なに?」


少女は少し慌てた様子である。


「交番に行く」


「交番ってなに?」


当然かは分からないがやはりといった感じだろう交番を知らない。

しかし、仮にこの少女が家出を目的として知らないふりをしているということもあるかもしれないのだ。

猛は少女を引き連れて交番の方に足を向けた時、耳元で何かを聞いた。

それはだんだんと大きくなってやがてそれが誰かの声だと気づいく。

そしてその声はこう言った。


『その子を交番に連れて言っても無駄。その子は君の思っている通り並行世界(そちら)の人間ではない異世界の人間』


猛は足を止めた。


「なぁ…君なにか言った?」


「なにがよ」


少女の方に視線をやって問うてみたが不思議そうに首を傾げるだけだ。

猛も声の主が少女ではないことは分かっていた。

しかし、辺りには猛と少女の二人しかいない。

性別もわからないただ文字として伝わるその声の主は誰なのか。

幻聴とは思えない奇妙な声。

見た感じ少女には聞こえていないみたいだ。


『私も並行世界(そちら)からしたら異世界の人間です」


『交番に連れて行ったところでその子には帰る場所がない。その子は何も知らないの。だから嘘なんて付いていない』


『その子は此方にいたころの記憶も全て失っています』


『私は並行世界(そちらには行けない。ですから聞いてほしい私の頼みを』


『あなたにしか出来ないこと』


『–––––––その子を守ってあげて…………』


その声は次第に小さくなってやがて消えた。

異世界の人間。

確かに声はそう言った。

やはりこの少女は異世界から来たのだ。

声の主もまた異世界の人間。

どうやって声を届かせたのかはわからない、だがそんなことは今はどうでも良いことだ。

漸くはっきりと納得できた。

少女がこんなに可愛い理由も何も知らない理由も。


「やっぱり交番はいいや」


猛は引き返して少女の腕から手を離した。

少女からしたら理解不能な猛の行動に小首を傾げるしかない。

だが、猛はそんな様子を気にすることもなくただ胸の高鳴りを感じていた。

少女が異世界の人間であることそして最後に言われた少女を守ってくれと言う言葉。


「ぁあ。なんだよ面白そうじゃねぇか!何から守るのかは知らねぇが任されたからには最後までやり遂げてやるよ!」


猛は拳に力を入れて愉快そうに唇の端を上げた。

それを見た少女は気味悪そうに頬に汗を滲ませている。

猛はそのまま機嫌よさげに鼻歌を歌いながら歩きだしたので少女は猛から二歩後ろくらいの距離をとって同行した。

この頃はまだ知らなかったのだ守るという言葉の重みを。

このまま6話もお楽しみください。

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