名もなき少女
3話とプロローグの続きになります。
まだプロローグをご覧になっていない読者様は先にプロローグをご覧になって下さい。お願いいたします。
「異世界ってなんなの?」
「知らないよなぁ」
地球を知らないのなら無理もない。
今になって自分が間抜けだったと内観する。
「異世界っていうのはこの世界とは異なる世界かな?ごめん俺も行ったことないから字のまんまの答えしか言えない」
頭を掻きながら苦笑して答える。
少女は話を飲み込めていない様子で首を傾げて猛の顔を眺めている。
こんなに女の子に見つめられるとかなり恥ずかしくて自分の頬が熱くなっていることが分かった。
猛は目を逸らして
「ま、まぁいいや。君、家は?」
「知らない気づいたらここにいたから」
「マジか」
そんなことが本当にあるのかと疑ったが、この見た目の女の子だ少し変わったことがあっても納得してしまう。
今仮に本当に異世界から来たと言われても大して驚かない自信だってあるくらいだ。
大体今の状況だって本当に異世界から来たって言ってるようなもんじゃないか?気付いたらここにいたとかさ。
期待が高まりいろいろと想像を膨らませていると少女の腹から『ぐぅうう』というヘンテコな音が鳴った。
「え?」
猛はその音に反応して少女に視線を戻した。
すると少女は俯いていた。
耳の先が少し赤くなっていることが確認できる。
「……なか……た」
「な、なかた?」
「おな…か……た」
俯いたまま小さく発せられる少女の震えた声。
「ん?」
「お腹すいた!!!!って言ってるの!!!アンタ何か食べさせなさいよ!!」
我慢の限界に達したのか急に顔を上げて猛に人差し指を突き立ててきた。
目には涙を浮かべて頬は赤く染まっている。
「突然どうしたんだよ」
「いいから!お腹すいたって言ってるでしょ!」
「な、なんだよ」
子供のように滅茶苦茶でわがままなその言動についていけない様子の猛だったが、これ以上こんな街の交差点で騒がれても迷惑なので少女と夕飯の食材を買いにスーパーに向かうことになったのだった。
「これが豚肉でこれが牛肉」
猛は右手に豚肉のパック、左手に牛肉のパックを持って少女に見せながら説明する。
「何が違うの?」
「んー値段とか見た目とかなにより豚と牛って違いがあるな」
「どっちが美味しいの?」
「どっちも美味しいよ」
「じゃあどっちも食べる」
「おいおいマジかよ。どっちかにしてくれそんなに金ねぇし」
「じゃあこっち」
少女は一瞬不満げな顔をしたがすぐに元の様子に戻り、二つのお肉を見比べてから牛肉の方を指差した。
「…高い方か…」
猛はボソッと呟いた。
親が残していった貯金はあるのだが、もしもの時のために残しておきたい猛は、節約して使うようにしている。
だから普段は牛肉など買わないのだが今回は仕方ないと自分に言い聞かせて買い物カゴにそっと大事に入れた。
牛肉をシンプルで鮮やかに美しく映えさせられる料理って言ったら牛丼だろ。
と猛は心の中で呟きながら野菜売り場に足を運ぶ。
猛の背後をついていく少女は沢山の商品を見て不思議そうにしていた。
「なんだ?なにか気になる物でもあったか?」
「これ」
少女は手に持っていた板チョコを猛に見せた。
「持ってたのかよ」
頬に汗を滲ませ少し驚く。
いつ取ってきたのかと疑問に思ったが聞かないことにした。
「それ欲しいのか?」
「食べ物?」
「おう。すげぇうめぇんだぞ」
「本当に!?じゃあ欲しい!」
「おう。わかった!買ってやるよ」
少女から板チョコを受け取って買い物カゴに入れた。
「これは?」
少女は続けて猛に見せる。
その手に握っていたのは虫とり網。
「なんでまた…」
「食べ物?」
「お前、もし仮にそれが食べ物だとしてどうやって食べるつもりだったんだ。あと、お前は食物にしか興味ないのか」
「なんだ…違うんだ」
言って残念そうに虫とり網を元あった場所に戻した。
そんなこんなで野菜と調味料を買い物カゴに追加してレジでお会計を済ませてスーパーを後にした。
「お腹すいた〜」
「待ってろってもうすぐつくから」
「わかった。待つ」
「おう!よろしい。んでさずっと気になってて今更って感じなんだけど言うわ。俺、君の名前とか全然知らないんだけど」
「名前?私も知らないの」
「え?」
少女の言葉に眉根を寄せて驚く猛であった。
次回は来週の水曜日更新です。