幼馴染
俺の名前は藤井 猛16歳の高校2年生。
今、学校に向かっている。
「たーくん♪」
飽きるほど聞き慣れた少女の声。
瞬間、視界は黒で塗りつぶされ、何も見えなくなった。
だが、何も見えなくなったとしてもわかるほど、その少女の声を聞いてきた。
「なんだよ白凪。うっとぉしいからその手を離せ」
「えぇぇ。離したら私にメリットがあるの?」
「離さなかったらお前にメリットがあるのか?」
「んーメリットか〜。たーくんとお話しができる♪」
「手を離してもできると思わないか?」
「そうかも」
「だろ?」
「でも、いや」
「なんでだよ!」
「面白いから♪」
「理由になってねぇよ!」
「もぉしょうがないな」少女は笑いながらその手を猛の両目から離した。
声の方へ振り向くと幼馴染の館百合 白凪がそこにいた。
色素の薄いアッシュブラウンの長い髪をポニーテールにして纏めている。
黄がかった宝石のような双眸に健康的な体型の容姿端麗な少女だ。
猛の通う都立蓮山高等学校の女子の制服に身を包んでいる。
「おはよ」
「おはよーーー♪♪学校いこ♪」
「お、おう」
朝から無駄にテンションが高いのは何時ものことである。
昔からずっとこうで鬱陶しかったがその明るさに何度も救われてきた。
明るい性格のおかげで沢山の友達がいて、かなりの人気者だ。
特に男子の人気が高く、学年の彼女にしたいランキングでは毎回ベスト3位内にランクインしているらしい。
そんな少女と俺は毎日こうして登校しているのだから当然、男子からはあまり良く思われていない。
二人はいつものように学校に向かって歩き出した。
「お前さ、そろそろたーくんって言うのやめろ」
「ぇえ。なんで?」
驚いた顔をして頭の上にはてなマークを沢山浮かべている。
「俺もう、高校2年生だぞ?」
「知ってるよ」
「この歳でたーくんは流石にないような気がする。ほとんど大人だし」
「でも童貞じゃん」
「関係なくねぇ!?!?」
「関係あるよ。童貞じゃなくなったらたーくんって呼ばないであげる!」
「なんだよそれ」
「たけーくんに昇格してあげる」
「『け』がついただけなんですけど!?根本的なとこが何も解決されてませんよ!?俺は普通にたけるって呼べっつってんの」
「童貞卒業したらね」
「だからなんで童貞関係あんだよ!無理に決まってんだろ。彼女もいないのに」
「私が卒業させてあげよっか?」
「……………ッ!!!」
一瞬動きが止まり、目を見張った。
「な、ななな何言ってんだよ」
動揺を隠せずに両手をビュンビュンと振り回す。
ダメだ!!!幼馴染だぞ!?昔からずっと知ってるから今更そんな目で見れねぇよ!!
でも超絶かわいいんだよ!!高校入ってから更にかわいくなってるし!こんなかわいい子と…………ダメだダメだ!!!幼馴染なんだ!!
「ヤバ!なに本気にしてるの面白すぎでしょ」
白凪は目に涙を浮かべて大声で笑う。
それを見て精神的打撃を受けた。
不覚にも本気に捉えてしまい、面食らったところを見られてしまったことを後悔。
「はぁ…可笑しかった」
呼吸を整えてようやく笑うのをやめた。
男心をもて遊びやがって許さねぇ。
「やっぱり、たーくんはたーくんだね」
気のせいか白凪の表情が真面目になった様に見えた。
普段の声よりも若干低くてどこか悲しみがこもっているかの様な声音。
「何だよいきなり」
「ん〜別に〜♪」
「何だよ」
「ほら、早く行かないと学校遅れるよ?」
そう言って地を蹴り、走り出した。
「おい待てよ!」
「学校まで競争ね!負けた方はジュース奢りね♪」
「フライングだろ!卑怯だぞ!」
「し〜らな〜い♪」