可美
遅れました。すみません。そして次回は今日中に更新します。
白凪が自宅に帰ってしまってから数分が経過してもう日をまたいでいた。
二人は散らかったトランプを全て片付け、ひと段落したところで、ソファーに座ってまたテレビを観はじめた。
その場には特に会話はなく、ただテレビの音が空間を支配しているだけ。
別に猛はその空間に苦を抱くこともなく、むしろテレビを静かに観れるのだからいいんじゃないかな?とさえ思っていた。
「白凪いないと静か」
だが少女はそうは思っていなかったのか、退屈そうな顔で隣に座る俺の顔を覗いてくる。
「な、なんだよ」
「別に…」
そこで会話が再び途切れる。またあの静かな空間に戻りそうになったところで少女が指をもじもじさせながら
「ぁッ……えっと……な、なんでもない」
「なんだよ。言えよ」
少女は恥ずかしいそうに視線を下に向けてボソッと呟くように
「あのとき、本当に…キスするつもりだった?」
「ッ!!!」
猛は目をパッと見開いて数分前の出来事を思い出す。
どんどん頭の中で映像が再生されていき、どうしようもないくらいに恥ずかしくなってきた。
顔が一瞬で赤く染まったのがわかるくらいだ。
「ぁっ!あ、あれはその!えっと……ごめん!!」
猛は焦りで言葉がまとまらず、ただ純粋に頭を下げた。
「な……なんで謝るの…」
「なんでって!だって好きでもないやつにキスされそうだったんぞ!?」
「でも、罰ゲームだったし…アンタも悪気があったわけじゃないんだし…」
「それでもだよ!本当に本当にごめん!」
「だ、大丈夫だから!…で、でも私が本当に聞きたいのは…白凪が勝ってたらアンタは白凪とキス…してた?」
少女の問いに猛は急に口を閉じた。
(言われてみたら…白凪…。そうだ、俺は白凪がもし勝っていた場合どうしていたんだろう…。キスしたのかな?いや、多分しなかっただろうな。それはこの子とのようにキスできなかったんじゃなく、しなかったになると思う。俺と白凪は幼馴染で本当に産まれたときからずっと一緒だったからそういった特別な感情はない。………となると俺…少女にはキスしようとしてたよな………あれ……俺。)
「異世界美少女」
急に猛が真剣な眼差しで少女を見る。ついでに低く、男らしい声音。
少女は身を縮めて「な、なに」と呟く。
「俺は白凪とはキスしなかったと思う。でも、君とは罰ゲーム関係なしでキスしたいと思った。だから俺、君のこと好きなんだと思う」
女子は吃驚という気持ちと恥ずかしいという気持ちが混ざりあって無になり意識が飛んだように一旦、思考と動きを停止させた。
そして時間が止まったかのようにリビングが静寂につつまれる。時間にして5秒。
「な、な、な!なに言ってるのぉぉぉおお!?」
だが、いきなりスイッチが入ったかのように立ち上がって顔を紅潮させながら大声を出す。
「多分君と出会ったときからだと思う。一目惚れだな」
一方猛は焦る少女と対して冷静に口を動かす。
「だ、だから!なんでそんな恥ずかしいことさらっと言えるの!これ以上は耐えられないよ!」
「自分が一番驚いてるよ。なんでこんなこと普通に言えるのかってな。でもいま言わなくちゃって思ったんだ」
「そんなの知らないよ!そ、そもそも私のどこに………ほ、惚れるような要素があるの?」
「全部」
猛は真顔で言った。
「………ぜ、全部って今日はじめてあったのに」
「いや、厳密に言うと昨日だな。まぁそんなことはどうでもいい」
猛は少女と目線を合わせるために立ち上がって腕を組む。
「俺は君が好きだ。だけどいくら罰ゲームだからってキスをしようとしたのは悪いと思ってる。だからなんでも言うこときく。何でも言ってくれ」
「………なんでも…?」
少女は考え込むようにして下唇を軽く噛む。
そして遠慮した様子で猛の顔にチラチラと視線を送る。
「なんだよ…」
「べ、べつに」
「言えよ」
「お、怒らない?」
「もちろん」
猛は深く頷く。
「絶対?」
「絶対」
「呆れたりしない?」
「おう」
「じゃっ、じゃぁ」
少女は下方に視線を移して
「なまえ…」
「名前?」
「私に名前を…ちょうだい」
「もちろんだよ!」
猛が満面の笑みで応える。
少女の願いは意外だった。でも何となくわかっていたのだ少女が名前を欲していることが。
「こんなこともあろうかと俺は辞書で良い字を探してたんだよ」
猛はズボンのポケットからメモ帳を切り取った紙を一枚取り出して広げた。
そこには『可美』と大きな字で書いてある。
「可愛の可に美しいの美でかみって読むんだ。ちなみに神みたいに美しいって意味でもかかってるからね。あーあとメモ帳の紙のかみも」
「かみ…」
「どう?ダメかな?」
「へ、変なの」
少女はプイっと猛に背を向けた。
しかし猛は見逃さなかった少女が嬉しそうに微笑んだのを。
「へんかなー?」
猛は笑いながらそう言った。
そして続ける。
「どうして名前だったんだ?」
少女は背を向けたまま
「白凪が……羨ましくて…」
「やっぱりな」
猛は頷いた。
少女は驚いたように再びこちらに身体を向けてきた。
「君、俺が白凪って呼ぶたびに反応してたしな」
「なっ!してないし!!!」
猛は少女の恥ずかしそうにしている様子を笑いながら見つめる。
「可美」
「…なに」
「俺のこともアンタじゃなくて猛って呼んでくれよ」
「………」
少女は照れくさそうに頬を薄っすら桜色に染める。
「た、たける…」
「可美」
※
猛は風呂場に向かった。
脱衣所で、ずっと着ていた制服を脱いでハンガーにかける。ストレスから解放された感覚でとても気持ちが良かった。
そしてその気持ちのままお風呂場に入った瞬間目に飛び込んできた衝撃の光景。
「お湯が全然ないぞぉぉぉぉおおおおおお」
浴槽のお湯が半分以上なくなっていてもう足湯の域だったのだ。
猛は浴槽のお湯に浸かることもできずに、ただひたすらシャワーを浴びるのであった。
今日中に次回話更新。