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殺戮者だった魔王様は殺した主人を愛す。  作者: 桐生桜嘉
序章 二度目の出逢い 
3/15

魔王 レネクスside

男は殺戮者だった。


「あ……あ、あぁ……」


人を殺すことに快楽を感じる者。


「フェリス……」


愛を、知らぬ者――。



――「私は、あなたを愛しているわ」――








男が目を覚ますと、そこは赤と黒の世界だった。

血と、闇の世界――。


「ここは……どこだ……?」


男は目の先に映るソレに、見覚えがあった。


血に染まった、空だ――。


「レネクス様。ようやくお目覚めですか?」


隣から声が聞こえる。


「レネクス? それは俺の名前か」


「もちろん。他に誰がいるのです」


男は体を起こし、横目にその声の主を見た。


「誰だ、お前」


「貴方様直属の秘書をお忘れですか」


「は? 秘書?」


自らを秘書と呼ぶその男は溜息をつき、鏡を差し出した。


「その様子ですと、ご自分の容姿も忘れているのでしょう。ご確認ください」


レネクスと呼ばれた男は渋々鏡を覗き込む。


「…………」


思わず唖然とした。


そこに映っていたのは、彼の知る彼自身ではない。


腰まである長い髪は黒く、毛先は赤に染まっており、目はまさに血の色。

基本的な顔のパーツは変わっておらず、見た目的な年齢も変わらないように思える。

だが爪も赤黒く染まり、耳も鋭く尖っている。


それは、まるで“悪魔”のような姿。


そう認知したその時、頭の中を走馬灯のように様々な場面が過ぎ去っていく。


「貴方様の能力の高さならすぐに今の状況を把握できるのでは?」


「あーぁ。めんどくせぇ」


「そう言うと思いましたよ、魔王様(・・・)



見た目年齢、23歳。

だが実年齢は悪魔的感覚でもうすぐ1000を迎える920歳だ。


そんな彼がいるこの世界は、魔界。

そして彼の名は、レネクス。

魔界において最上位の悪魔――つまり、魔王である。

史上最年少の魔王。

1000歳を迎えることなく魔王になるのは不可能とされているほどだったが、彼は難なく前魔王を倒し、現魔王の座に上りついた。

それほどレネクスの魔力量、魔法技術、魔法威力は高いということだ。


そんな彼の秘書を務めるのはアルクシエル。

レネクスと同い年の920歳。

唯一のレネクスの理解者である。


「やっと目を覚ましたかと思えば記憶がないとは。……また前世の夢でも見ていましたか?」


「まぁ、な」


レネクスは前世の記憶を持ったまま、この世界に生を受けた。

そのことを知っているのは、やはりアルクシエルのみ。

度々前世の夢を見るのだが、今と過去の感覚が狂い、“今”を勘違いする。

彼のめんどくさがりの性格では人を覚えることをしない。

そのことも相まって“今”がわからなくなるのだ。


そんなレネクスに家族など存在しない。


この世界では悪魔同士で闘うのも少なくないのだが、そんな世界でレネクスは、自分を生んだ両親さえも殺した。


見た目は違えど、中身は同じ殺戮者。

殺すことに快楽を感じる者。


悪魔に相応しい性分である。



レネクスは溜息をついた。


――――死ねば、一緒になれると思ったのに。


だが数多の魂を奪い“殺戮者”と呼ばれた彼が、そのまま死ねるはずもなく。

次に目を覚ましたときには、魔界という天国でも地獄でもない、全くの異世界。


“彼女”に会うことはできなかったのである。



「レネクス様。本日の予定ですが――」


アルクシエルが淡々と一日のスケジュールをあげていく中、当の本人はそれを聞き流し、辺りを見回す。

血のように赤い空が見えた天井には、窓があった。

やけに広い部屋には無駄な物は一切なく、そこに生活感はないに等しい。


今自分がいるのはベッドの上。

服は金の装飾が施された黒い軍服を着ており、手には黒手袋をつけている

そして羽織っているコートは、袖に腕を通すことなく肩に引っ掛けるようにしていた。


横に置いてあった制帽を手に取り、徐に被る。


ふと首元に感じた違和感に目線を向けてみれば、首飾りが目に入った。


それは淡い紫色をした薔薇の首飾り。


レネクスが前世で殺した女の形見である。

なぜこの世界に前世での物があるのか、それは定かではないが、それが彼にとってとても大切なものだということに変わりはない。


「……なんだ?」


それを見つめていると、徐々に飾りの薔薇が光を帯び始めた。

訝しむレネクスにアルクシエルが言う。


「――レネクス様、その光は……?」


「俺もよくわかんねぇ……ただ――」



――懐かしい、温もりだ。





「レネクス様――?!」


アルクシエルの声にレネクスは反応することができない。


視界が歪み始め、そして体が熱くなってきた。

それは今まで感じたこともないもの――だが、それが“召喚”を意味していることをレネクスは知っている。


『――――我、闇に身を捧げし者。魔王レネクスよ、汝、我が呼びかけに応え姿を現せ』


その声は“彼女”の声に似ているような気がした――。






次に目を開いた時、最初にその目に映ったのは、忘れもしない“彼女”と瓜二つの顔。




「――私の命をあげる。だから……魔王レネクス、……私と契約して」




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