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殺戮者の男の一生。 レネクスside

その時、世界は戦争の最中だった。

平和な国など無いに等しいほど、血にまみれた世界。


ギルバートと呼ばれる男はある国で、敵国の兵士のみならず、味方でさえも必要ならば難なく殺す――――そんな無慈悲な殺戮機として戦いの場で暴れていた。


そんな彼は、国に戻れば地下の牢獄に入れられ、厳重な監視下で囚人のような扱いを受ける。

そのことに彼は何一つ文句を言うことなく、それが当たり前かのように毎日を過ごした。

人間ではなく、まさに人を殺すためだけにある機械のように。


そこに人間らしい感情などあるはずもなく、唯一彼にある感情らしい感情は、人を殺すときに感じる快楽のみ。


そんな男がいる牢獄は、地下にあるせいで光一つも届かない。

そこに来るのは、鍵を管理する兵士のみ――ではなかった。


――たった一人、自分の意思で男に会いに来る者がいた。


それはフェリスという名の18歳ほどの女。

国から支給された食事を持って男のいる牢獄へと来る。

その時、自分の分も持ってきて、通常よりも少ない男の食事に自分の食べ物を分け与えた。

男と一緒に食事を食べ、終わってからも暫く居座り雑談をする。


その国の者達は皆男を怖がったが、フェリスは少しも怖がる素振りを見せない。

人々は皆、彼女を“変わり者”と呼んだ。


殺戮者の男にしては珍しく、そんなフェリスを気づかないうちに少しずつ気にするようになったが、それでも“殺す”となれば普通に殺せるほどに、人間らしい感情が生まれることはなかった。



そんな日々を過ごしていく中、戦争が終焉を迎える。


敵国が負けを認めたのだ。


戦争に勝った男のいる国は、情け容赦なく敵国の皇族を皆殺しにするよう、殺戮者の男に命令する。


“殺す”ことを命令された男が断るはずもなく、男はその命令通り、皇族を殺した。

必要以上に残虐に殺されたとされる皇族の遺体は、城諸共炎に焼かれることになる。

だがそこにはいるはずの、姫の姿だけがなかった。


ただ一人、姫を殺し損ねたものの、勝ったことに有頂天の国の者達はその時は特に気にはしなかった。

それよりも殺戮者としてその国の勝利に貢献した男の存在を、国の人々は恐れる。


いつ、誰を殺すか、わからないからだ。


男に下されたのは、“囚人として”牢獄に入ること。

そして、死刑が言い渡された。


男は笑う。


「殺すことは好きだが、殺されることは好まないんでね」


それを最後に、男は姿を消した。





男の情報が入ってくることはほぼないに等しい。

彼が情報となる者を一人残らず殺しているからだ。

一つの場所に居座ることもないため、場所を特定することが難しい。


そんな彼が行きついた先は小さな家。

そこにはフェリスが住んでいた。


「ギルバート……?」


戦争が終わって数年経っていたが、男を覚えていたフェリスは自分の家に彼を招く。

そうして匿うのだった。




男はフェリスと暮らすようになって人を殺す機会がなくなり、フェリスに止められているのもあってか、人殺しをしないようになる。


毎日を過ごしていく中で、男は一つの違和感を感じていた。


フェリスは前とは違う格好をしていたのだ。

髪の色も目の色も変わっていた。


そして必要以上に外に出ようとしない。


男は薄々気づいていた。

彼女も自分と同じように追われる立場なのだと。


フェリス自身の口からそれが語られたのは、男が住み始めて二週間ほど経ったときのこと。


彼女は敵国の皇族、唯一の生き残りである姫らしい。

姫という立場でありながら、スパイだったと言う。

わざわざ地下に来て男と接していたのも、情報収集が目的だったということだ。


それを聞かされても、男の心に変化があるはずもない。


「だからなんだ。俺には関係ねぇよ」


そう言った彼に、フェリスは微笑んだ。




一見、平和に見えるフェリスとの生活は、男にとっては退屈極まりないものであった。

殺すことが生き甲斐だった男が、その殺しができないのだから当たり前である。


だがそんな生活も、ずっとは続くはずもなく、終わりを告げることになる――。





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