魔王の目的 レネクスside
――『あなたは、何が目的なの……?』――
「目的、か……」
家を出てからレネクスの頭には、フェリシアの言葉が離れないでいた。
基本的にはあまり睡眠というものを必要としない魔族ではあるが、寝ようと思えば寝れる。
かつ、レネクスは前世の記憶がある分、睡眠への抵抗が少ない。
そのためフェリシアが起きるまではちゃんと眠っていたのだが、彼女が起きる物音に気付き目が覚めた。
しかし、寝起きの気怠さからそのまま目を瞑ったままでいると、フェリシアが目前に来て身動きが取りにくくなり、挙句寝たフリをすることになったのだ。
正直、フェリシアの言葉に一瞬気が動揺した、というのも理由の一つ。彼女の問いへの答えがはっきりとは浮かばず、思わず考えを巡らせていた。
彼にとっての目的は前世の“彼女”に再び出会うこと。自分がそう簡単に死ねないのなら、“彼女”の生まれ変わりに出会うことが目的である。
――フェリシアが“彼女”である確証はない。しかし、近しい何かを感じるのだ。フェリシアを初めて見た瞬間、ようやく“彼女”に再開できたと錯覚してしまうほどに。
(ならまずは、確証を得ることが目的、ってなんのか。――もし違ぇなら、また探すだけだしな)
ならば、もしフェリシアが“彼女”であったなら、どうなるのか?
レネクスの目的は達成されたことになるが、だからと言って“目的”というものが無くなるわけではない。
目的は更新される。――“彼女”を守る、というものに。
そうして、今度こそ、“彼女”を本当の意味で手に入れるのだ。
フェリシアが“彼女”である確証が掴めない今、確証を得ることと同時に守ることも、必然的に目的として必要となるだろう。
そう結論付けたレネクスは、ふと、また別のことに思考を巡らせた。
それは、フェリシアについて。
彼女は人間ではあるものの、天使の象徴である純白の翼を片翼だけ持っていた。
それのせいだろうか。彼女からは、人間にはないはずの――魔力を、感じる。
それも、今まで感じたこともないほどの、強く膨大なそれを。
(あいつが追われているのは、殺人を犯したからっつぅだけじゃないのかもしれねぇな)
「あ? だとしたら……」
(あいつを一人にすんのはやべぇんじゃね?)
一瞬考えた後、レネクスはため息をつき舌打ちをする。
「……あー、めんどくせぇ」
宙を仰ぎながらレネクスはそう呟き、用事をさっさと済ますべく足を速めた。