誰かの記憶 ※一人称
時々夢に見る、誰かの記憶。
そこはわたしが知る世界とは別の世界のようで、人々は見慣れない服を来て聞いたことのない言語で話している。
そう、全てが“初めて”のはずだった。
しかしわたしは、そこになんとも言い難い懐かしさのようなものを感じていた。
既視感、というのだろうか。
見慣れない服だというのに、違和感を感じない。
初めて聞く言語だというのに、まるで今まで使っていたかのように当たり前のようにその意味を理解出来た。
そしてわたしは、夢で見た光景を、知っている気がした。
しかし目が覚めると、その夢の内容を思い出すことはできなかった。
“夢を見た”という事実だけを残し、中身は全て消えてしまうのだ。
そんな中、唯一覚えてるものがある。
それは何度も繰り返し見る“記憶”。
感触や、人の声、温度。そして、感情。
夢の中の主人公が感じる全てのものが、彼女に乗り移りその記憶を見ているわたしにも伝わってくる。
それは現実を間違えてしまいそうになるほどリアルなもので。
起きてからもその感覚は残るほどはっきりとしたものだった。
それが、わたしが夢ではなく“記憶”と呼ぶ理由だ。
その記憶は、――――“死”の記憶。
つまり、その“誰か”の最期だ。
彼女の死には、“恐怖”というものがなかった。
優しい温もりと、“ギルバート”という名の彼への愛情に満ちていた。
そのせいだろうか。
わたしは“死”というものが怖くない。
むしろ、早く死なせてほしいものだ。
しかしわたしは、そう簡単に死ぬわけにはいかない。
――自分への復讐を、果たすまでは。