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殺戮者だった魔王様は殺した主人を愛す。  作者: 桐生桜嘉
第一章 魔王レネクス
10/15

夢物語 レネクスside

その日。

レネクスとフェリシアは、空き家に入り夜を過ごすことにした。

時間の問題もあり、フェリシアの家からそう遠くは行けない。

しかしこの廃れた街には、空き家がそこら中にある。

一夜を過ごす場所には困らないということだ。


水や服に困らない場所を探し、見つけた家はまだ綺麗な状態を保っていた。


だがそこは、“一人用”だった。



「なぁ」


レネクスの不服そうな声が部屋に響く。


「何?」


「『何?』じゃねぇよ。なんで俺が下なんだ。なんで俺が床で寝なきゃなんねぇんだよ」


そう。そこの家は一人暮らし用らしく、部屋の広さや物の数が一人用。

つまりベッドもまた、一つだけだった。


シャワーを済ませたレネクスが部屋に戻ると、ベッドを独占するフェリシアの姿があった。

そして、傍の床に雑に置かれた毛布。


「私、床で寝れないの」


そういう彼女は壁側を向き、レネクスに背を向けている。


「いやお前、床で寝れないとかどういうことだ。寝れんだろ。今までずっとベッドで寝てきたってのか? その状況で?」


「そう」


「…………」


それ以上言うのも面倒になったレネクスは、ため息をつきベッドに寄りかかるようにして座った。


「寝ないの……?」


「寝るのはあんま好きじゃねぇ」


「……そっか」


沈黙が、彼らを包んだ。


一度目を瞑ったレネクスだったが、その暗闇の中に浮かんだ前世の映像から逃げるように再び目を開く。


そして暇つぶしというように、フェリシアに問いかけた。


「お前の望むものは、“お前にとって大切な人のための、お前への復讐”だったな」


「それがどうしたの」


「じゃあ、お前の目的はなんだ」


「目的、か」


一瞬の間のあと、彼女は答える。


「私の目的は、――“私を、殺すこと”」


「…………」


彼女の中で、自ら死を選ぶことは復讐として成り立たないのだろう。


“殺される”ことに、意味があるというのか――。


「なら、そのために、これからどうするつもりだ」


少しの沈黙のあと、フェリシアが言う。


「……戦争に、参加する」


あまりにも軽く、彼女はそう口にした。


レネクスは徐に顔をあげ、無機質な天井を見上げる。


「それで? 参加してどーすんだ」


「全員の敵になるの。戦争をやっている人たちの“敵”になって、皆の“悪”になる。……そうして私が死ねば、みんなが待ち望んだ“平和”がくる」


それは“夢物語”だった。

そこにはきっと正義のヒーローがいて、御伽噺の如く、決め付けられた悪が殺される。

悪側の事情なんて関係なく、本当の悪を押し付けられて、死んでいく。


出来すぎた話。

――けれどそれができてしまう立場に、彼女はいる。


“犠牲”――……



平和は、犠牲の上に成り立つ。


その犠牲が“悪”だということが、当たり前というだけ。



誰も、そこに違和感など感じない。


彼女は望んで、その“犠牲”になりたがる。



「――それが、唯一、私にできる“正義”」



「…………」


彼女が殺しを嫌っていることは、先の闘いで知った。

あのホームレスの男と悪魔を残虐に殺したレネクスを見る、何かを失ったかのようにどこか冷めたフェリシアの目。

そして、彼が持つ鎌から滴る血を見て、何かを堪えるように手を強く握り締めていた。


――殺しを嫌うくせに、それを自ら望んで行う。


その唯一の“正義”のためだけに、“悪”になると言うのだ。


(めんどくせぇ性格してやがる)



「その御伽噺が上手くいくといいけどな」


「御伽噺なんかじゃないよ。……これから起こる未来のお話」


僅かに笑みを含んだような、光を滲ませるフェリシアの声。


その一言を最後に、フェリシアは眠りに落ちていった。

魔王召喚で体力を大幅に削っている。

大分疲れていたのだろう。


この家に電気はさすがに通っておらず、月も雲に隠され、部屋の中は真っ暗だった。

自分たちの息遣いしか聞こえないほどの静けさの中、レネクスは小さく呟く。



「悪いがその話、“正義のヒーロー”はお前だよ――フェリシア」






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