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憎い爆弾  作者: 加来間沖
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廃絶への嘆き

0時更新でしたが、諸事情で時刻を変更しました。

 我がしゅよ、父なる神よ。わたしは今災いにより苦しんでいます。空は光りすべてを奪っていきました。教会も兄弟姉妹(信徒の事を指す)も。主よどうか私の兄弟姉妹を天の国で傷を癒やし、多くの恵みを与えてください。雄々しき王の王、主の主である神よあなたの像は無残に壊されました。あなたを慕い求める者が集まる教会は無残に崩されました。

 世の万物は主が作られました。しかし主が作られたものを世はよこしまに扱い主とその弟子に対しあらゆる限りの暴虐を働きます。人も神より作られし被造物です。人は神の下に平等に創られました。人が人に加える乱暴な働きは主への冒涜です。

 しかし主よどうか憤りを抑え、むしろその暴虐を働く人を憐れんでください。彼らは今自らの行動…その罪を知らないのです。

 人を創られ万物をも創られた父なる主よ、恵みをもたらし人を愛してくださる主よ。この世に肉の体をまとい、ゲツセマネで受難を受け入れられた御子である主よ、ゴルゴダで人類の罪を背負われた御子である主よ。私の嘆きの声を聞かれる聖霊よ、私の願いを伝えられる聖霊よ。どうか時代の乱れを、人の心の乱れを癒してください。人は見えない正しき神を侮り、偽りの神に騙され正義をうたい、あなたに背きます。どうか主よ私の嘆きを、町の嘆きを聞き入れ救いをもたらしてください。


 どうか主よ約束を永遠に忘れないでください。あなたがみ顔を隠し恵みの窓を閉めると、みな慌て私たちは死にちりに帰ることになります。こうしてあなたはすべての被造物を塵に戻し地の表を新たにされる。古は滅び新たな物を誕生させるため。ですが主よあなたは私たちを永遠に愛される約束をなさいました。どうか遠く離れずに子々孫々あなたの救いを求める者々を、あなたをいまだ知らぬ者々を闇より救い光へと導いてください。



 8月9日11時2分、町は瞬時に破壊の拳になぎ倒された。三日前に広島に新型爆弾が投下されたことは長崎にも伝わっていたが、具体的なイメージを浮かべることはできなかった。

 朝より警戒警報は聞いており皆は防空壕へ避難をしていたが、10時前には解除されたため大半の者が軍需工場への作業へと戻った。

 この教会に来ている一部の信徒も需要工場で労働にいそしんでいる。しかし一五日は聖母被昇天の祝日があることもあり、ゆるしの秘跡のため多数の信徒が教会に来ている。ゆるしの秘跡とは罪の許しを与える秘跡であり、主を受け入れた者が受けることができる。本来主を受け入れたときにすべての罪は許されるが、人は簡単に罪を犯してしまう。そのため再び罪の許しを得なくてはならない。そのため行われるのがゆるしの秘跡である。


 わたしは建物の影にいた。その日、長崎の空は青く澄みわたり鳥がうたっていた。突如空からピカッと光線が差し込んだ。この時私の脳裏に新型爆弾の特徴を思い出した。最初に空がピカッと光るというものだ。わたしは反射的に伏せ「恵ぶかき主よ!」と叫んだ。別の人によると直後破裂音が轟き火の玉が生じ、それが瞬時に膨張し、まるで傘のようになり上空を覆ったとの事だ。凄まじい音に怯えを感じる前に破壊の風が地の表から数多の建築物を拭い去った。教会がガラガラと崩れ、私の体は吹き飛ばされた。


 私が生きていたことは何を現すのだろうか。目覚めたとき私の目の前には無残に瓦礫と化した教会があった。悲壮な情景に私は正気を保っていられなかった。私は建物の影から日のもとの世界に放り出されていた。否、わたしがいた教会が消え失せたのだ。一瞬で。

 町々は赤く燃え煙がたっていた。辺りには瓦礫に混ざり黒こげた死体が折り重なって倒れていた。私はふらふらと町へと歩いていった。その後の記憶がすっぽり抜けている。記憶が落ち着いた時私は防空壕にいた。私は片腕にけがを負っており誰かが包帯を巻いてくれた。防空壕の中は薄暗く男女の区別がつかない水膨れと火傷を負った人でいっぱいになっていた。「水を、水を」と求める声が聞こえたので、私は水を求めて外に出ました。外はもう暗くり始めており道には焼け焦げた死体や物が散乱していた。赤々と周囲を照らしていた炎はほぼ鎮火されていた。

 落ちていた器を広いそれに水をくんで防空壕へと走っていきました。そして「水を」と声をあげ口を開ける人に水をゆっくり流し込むと「ああ、うまい」と言いました。数人が私と同じことをしていました。まだ二口分ほど残っていたので全部口に流し込むと「うまかった」と二度良い何も喋らなくなりました。彼はもう動きませんでした。


 その夜は気分が悪く横になってもなかなか眠れず、深い睡眠を取ることはありませんでした。朝になって生きていた人はほとんどいませんでした。わたしはその後病院に行きました。傷はその後化膿することなく回復してい逝きました。腕の傷が完治する前に戦争が終わりました。


 それから月日が経ったある日、私がいた教会で慰霊祭があった。空虚と化した教会前で亡くなった兄弟姉妹へと慰霊を行った。


 しばらくし、わたしは核廃絶を口にし始めた。わたしは戦争の無い世界へと変えることを、平和の大切さを唱えるようになった。

 皆さんは知らないだろうか、戦後アメリカが放射能被爆の「隠ぺいと廃棄」過小宣伝工作を続けたため私たちの苦しみの声が、平和を祈る声が遮られたことを。


 全くを持って私にはわからないことがある。それは世界が核兵器を持ち、それを誇りのようにしていることだ。彼らは自らの手中に人類の敵を保持しそれを誇りとしている。今度核兵器が猛威をふるうとき町では無く地球が消えてしまうだろう。被爆体験者しか恐怖を知らない。語りには限界がある。

 しかし私は祈り続ける。語り続ける。平和な世を願う。あぁ平和をもたらす主よ、世界へこの思いを伝えてください。

核兵器は廃絶されなくてはならない。

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