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憎い爆弾  作者: 加来間沖
3/5

とある工員

視点の移り変わりが上手く書けないのが辛い。

 空は町にむごい手を振り落した。虚ろになった町の上には蒼い空が広がり、低く垂れた雲が見下ろしていた。空は破壊を吐きつくしこの町を死に渡した。

 ああ、熱火に焼け失せた町よ。誇りに満ちていたわたしの町よ。わたしの頭から、あの頃の誇りに満ち栄光に包まれた記憶よすべて消えてしまえ。そうだ出来るなら消えよ。

 かつてのさちよ消え失せよ。わたしが幸を知らなければ、わたしは辛さを知らなかった。

 わたしは嘆く。嘆き続ける。かつての居場所は奪われた。主人は帰らない。奪われたままではないか。何故だ。奪うなら何故与えた。わたしは今粗末な場所に住んでいる。わたしは織物をして食いつないでいる。いずれはこれも奪うのか。八百万の神よいるなら答えよ。わたしの嘆きを耳に入れ、その目に留めて言葉で慰め、手を差し伸べやしておくれ。



 当時わたしは工員でした。一五歳の時に広島の工場の工員として採用されたのです。八月五日の晩、わたしは布団に顔を埋め寝ました。幾時間か経った時に空襲警報が鳴りました。わたしは布団を蹴り飛ばすように起きました。父と母と妹も同じく起き防空壕に避難しました。やがて空襲警報はやみましたが、しばらくして再び発令されました。妹は重たいまぶたを必死にあげてました。

 

 やがて朝になりました八時から仕事なのでわたしは急いで準備をして家を出ました。妹も学校でした。学童疎開したり一部は自宅に留まったりしていましたが、市内の子供は大多数が学校い行ってました。父も仕事があり家には母だけが残っていました。仕事前に一度だけ空襲警報があり防空壕に向かいましたがすぐになりやみました。わたしは妹の学校と勤務地が近いので妹を送ってから仕事へ行きました。


 さて仕事が始まってからすぐに誰かが言いました。「おっ敵さんだ」呑気そうに同じ年くらいの工員が空を見て言いました。良くあることです。空襲警報も出て無いので大丈夫だろうと思いつつ外に出てみました。すると何か黒いものがおちたのが見えました。それをみて何人かが「爆弾だぁ」と叫び防空壕に走りました。わたしも慌てて走りこみました。 天が裂け、大きな破裂音と目がくらむほどの光量を空が発しました。続いて建物が潰されるような音と共に防空壕の外が土埃で見えなくなりました。

 一分すると視界が多少開けました。工場が木造の建物だったのですが潰れていました。あわてて建物から友人などを助け出したり救護しましたが、ほとんど死んでました。さっきまで一緒に働いていた人が一瞬で亡くなりとてもかわいそうでした。


 この時急に妹の事が気になりました。「学校を見てきます」とわたしは叫ぶように言って学校へ向かいました。後ろからは一緒に防空壕に逃げた人が何か言っていましたが私は聞かずに学校へ走りました。学校の近くにいくまでに地面に人の影が焼け付いていたり死体がいくつも倒れていました。学校の前にいくと瓦礫に女性が足を取られ泣きわめいていました。わたしはそこに走り女性の足を挟んでいる柱を持ち上げようとしました。ですが中々あがりません。そこで別の小さめの柱を女性を挟んでいる柱と地面の間に強引にねじ込みました。すると隙間ができ女性は抜け出すことが出来ました。その女性は「ありがとうございます」と何度も言った。わたしは女性が足をけがしていたのを見て、手拭いをだし、そこを縛り病院に行くように言いました。


 言い終わると、わたしは学校に駆け込みました。

 そこには黒こげになった妹とほぼ同年代の子が沢山倒れていました。職員の人たちがそこに駆け寄っていました。途端火が生じました。火は先生たちに燃え移りました。また飼育小屋だと思われる場所から燃える馬が現れ狂ったように走り始めました。わたしは校舎に向かい妹の名前を叫び呼びましたが見つかりません。あるのは残骸と黒く焦げた死体ばかりでした。妹はきっと他の場所に避難したのだろうと無理やり思い込みわたしは勤務場所に戻りました。家にも戻りたかったのですがこれ以上工場の救援作業を怠れば何をされるか分からなかったからです。


 さて工場行くと上司が一人ぽつりといました。驚いたように私を見て言いました。「もう帰っていいぞ。今日で終わりだ」上司は何とも表現し難い顔をしていました。わたしはお世話になりましたといったような事を言いその場を去りました。この時私の服や体はススだらけで黒く汚れていました。家に戻る途中の道ですれ違う被爆者らしき人々がただの爆弾で無いことを物語っていた。顔は丸に膨れ上り、口はひどく腫れ、両手は申し合わせたように肘から先を前に突き出しまるで幽霊の手のような格好でした。その火傷を負った腕からは、溶けた着衣と皮膚が一緒に交じって垂れ下っていました。

 

 わたしは自分の家があった場所に着きましたが、家は無くただ燃えていました。近くに倒れた消化用の水を入れる水槽があるだけでした。仕方なくわたしは近くの病院に行きました。


 今でも思います。そこで家族全員と会えたのはまさに奇跡なんだと。病院は人でごったがえしていましたが私は見つけることが出来たのです。母は上半身に傷を、父は打撲を、妹は足に軽いやけどをおっていました。それでも皆生きていたことにわたしは嬉しくて涙しました。

 家が壊れてしまったので母の実家で住むことになりました。しかし遠いので無理に近くの家の方に泊めさせてもらいました。本当に感謝でした。お風呂まで貸してくれて汚れも落とせて本当にうれしかったのを覚えています。

 翌日、家の方に礼を言い出発しました。昼が過ぎたころに母の実家へ着きました。するとおじさんが出てきて母を見ると驚いた顔をして言葉にならないような事を言っていました。何はともかく家に住ませてくれることになりました。


 わたしは五日ほどして散歩をしました。その頃になると家から少し歩いたところでは煙が毎日あがっていました。いつも嫌なにおいがするので、そこは早歩きで通り過ぎていました。

 その日も煙が上がっていました。ただわたしはつい立ち止まってしまいました。一〇才ほどの男の子がおばあちゃんと火葬場に歩み寄っていました。その男の子の背中にはその子と顔がそっくりな男の子が背負われていました。直感的に弟であると分かりました。男の子は背中からその弟と思われる子を下ろしました。その弟らしき子の手には赤い斑点がありました。


 火葬場の人が下ろされた子を引き取り火の中に入れました。この火葬場では毎日鳴き声が聞こえるのですが男の子は決して泣きませんでした。その子と共に来たおばあちゃんは涙して男の子の方を見ていました。

 しばらく炎を見た後男の子は背筋を伸ばし回れ右をしてその場を立ち去りました。おばあちゃんは子に歩み寄った。その男の子は決して一度も振り返らなかった。その後ろ姿はだんだん小さくなっていき、遂に見えなくなりました。

次回は視点を長崎に変えます。

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