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憎い爆弾  作者: 加来間沖
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あの日の記憶

 多少聞いた話もありますがほぼオリジナルです。描写があまりリアルで内かもしれませんがよろしくお願いします。

 わたしは今嘆く。ただただ悲しみは増幅していき、衣のように恐怖がわたしを包む。どんな言葉を発しても、どんな思いを巡らせても、わたしの心には空白がある。空虚だ、何もない。空虚の思いにわたしは苦しむ。わたしの心の中にしまわれていたそれは今はからとなった。全て奪われた。

 わたしは動物ではない。わたしは人だ。だから悲しむのだろうか。動物は同じ種族で喧嘩しても同じ種族同士殺さない。でも人間は人間同士殺しあう。

 一閃を発した空よ。わたしが好きだった蒼い空よ。あなたは一日で憎むべき対象に変わってしまった。

 煙立つ場所よ。あなたが焼いた者の臭いが鼻につく。あなたは何を燃やしている。最近まで歩いていた者か。生きていいた者か。苦しい気持ちになる。見るに耐えない。

 廃墟となった町よ。あなたの面影はどこに消えた。虚しく家は壊れていた。瓦礫が散乱し建っている建造物は数えるほどしか無い。


 あの日大木は折れ電柱も同じく折れた。ガラスはことごとく割れた。柱は砕け支えられていた屋根は地について中のものを潰した。空気に炎が生じ、激しく燃えどんな暗闇をも照らした。


 わたしは力なく町を歩いて川を見る。水は足の裏を湿らすほどしかない。川には人、人、人。皆動かない。服は裂け皮膚が垂れウジが湧いていた。わたしは気持ちが悪くなり空を見上げた。とても憎く感じた。首をまわし町を見渡す。私の知っている町は無く虚しさが泣きを誘ったが、涙はとうに枯れていて何も出ない。立ち昇る煙を見た。静視することもでき無かった。

 すべての風景がわたしを拒んだ。映る物を見る事が辛かった。現実の直視に耐えきれず目を閉ざした。するとまぶたの裏には、より残酷な四日前の光景が映った。

 

 あの日空襲警報が鳴った。しかしそれはすぐ鳴りやんだ。そのとき今日は何事もなくいつもと変わらぬ一日が始まるのだと思った。わたしが家の前の学校に目をやると校庭が見える。子供たちが楽しそうにボールを追いかけて走っていた。戦時中である事を感じさせず平和な世であると錯覚するような風景であった。わたしは庭の防空壕の上で野菜を育てていたため、それを取りに行った。時間は八時を少し過ぎていた。蒼い空に白い何かが突如落ちてきた。私は防空壕の入口付近で伏せ目を閉じた。それでも私の目には光が入った。


 その日わたしの町の天は開けて、悪が地上に投げ落とされた。光が発せられると激しい風が町を走り抜けた。家々はなきながら倒れた。炎の幕が広げられ四方から叫びの声が聞こえた。わたしは崩れてきた家屋に足を取られ動けなくなった。炎は手を伸ばし命あるものを次々襲いこれを奪った。次第にその炎の手はわたしに向かってきた。もがいたが瓦礫がわたしの足をつかみ歩むことを許さなかった。わたしは激しく泣き、涙は頬をつたい地に垂れた。目は腫れ、やがて涙は枯れた。

 だが固い鎖に絡まったように動かせなかったわたしの足は幸い道行く人により解放された。礼を言うとその人は足の傷をみていった。

「そこまで深くはないが出血している」そういってポケットから手拭いを出し、裂いて私の足にまいた。

「後でちゃんと病院に行くんだよ」そういって学校の方へと走っていった。わたしは校庭の風景を見て恐怖のあまりに叫んだ。

 体操着を着ていいた子供は格好はそのままで全身黒くなっていた。潰れかた小屋から尾が燃えた馬が飛び出て狂ったように走り始めた。教師が黒くなった学生へと走った。すると、どこからか火が生じた。それは教師たちに燃え移った。わたしを助けてくれた人は死角にいて見えなかったが、視界に映る人は死んでいるか、燃えながら動いていた。わたしは声にならない叫びをあげ走って町から逃げた。その際うめき声や「水を…水を」と声が聞こえた。わたしはどうしていいか分からず道をただ走り抜けた。それ以上にわたしは怖かったのだ。道行く人の半数が皮膚を垂らし人間じゃないように見えて。決して振り返らずわたしは前へ前へと進んだ。足の傷がその時になって痛み始めた。

 山には澄んだ川があり私は浸かった。少しやけどを負っていたからだ。無論服は濡れたが晴れ空の下歩いていると服も乾いた。足の傷が痛んだが我慢して歩くと防空壕があったのでわたしはその中に入った。二人の人がいた。目は焦点があっておらず、死んだように動かず座っていた。わたしも同じような顔をしているのだろうかと思いつつ歩み寄った。


 歩む寄る前にわたしは初めて後ろを向いた。町が見えた。町は…真っ赤に燃えていた。


 善人も悪人も富む者も貧しい者も皆等しく地獄を見た。道行く人の中には痛々しい姿をした人が何人もいた。わたしはあの日この町から逃げ、そしてたどり着いた汗と血の臭いがする病院で薬を塗られ包帯を巻いてもらった。そして今四日たちわたしは戻ってきた。何故戻ってきたのかわたし自身よく分からない。

 失った何かを求めてきたのか。だがわたしが求めるものは無い。どこにも無い。何かがわたしに憑依したかのようにこの地に来たのだが…。わたしが悲しんでもわたしは慰められない。慰める人がいないからだ。

 上だけ焦げた葉のない木がわたしを見降ろす。この時になって自分は居場所がないことに気づいた。わたしに子は無い。夫は戦地に行って帰ってこない。


 わたしはトボトボと来た道を戻り始めた。ここには無い。どこにも無い。わたしの居場所は無い。空はあの日と同じく蒼かった。あの日わたしは奪われた。あの爆弾に。


 五日が経ちひどく雑音が混じったラジオから声が聞こえた。

「帝国…府をして米英中ソ四国に…しその共同宣言を受…する旨通告せ……たり」四国のから共同宣言を受託した。どういうことだろう。だが少ししてわたしの脳は次の言葉に支配された。

「…敵は新に残虐な…爆弾を…用して」残虐なる爆弾。あの日の風景がフラッシュバックした。そして日本が負けたことも分かった。勝つと信じてわたしは疑わなかった。憎い憎い憎い。空が憎い。敵が憎い。爆弾が憎い。


 戦争が終わった。でもあの人返ってこない。わたしの町もかえってこない、食べるものにきゅうす毎日。

 やがて国は敵だったものが住むようになった。わたしの国は戦争を始める罪を犯し不義を国民が共に負っている。

 わたしは織物が得意であった。必死に頼み込み元の家より離れた場所に雑な家をもらいそこで暮らした。

 憎かったがわたしは堪えて生きていかなければならなかった。

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