永遠の魅力
とある街の喫茶店の大きな窓の側で男と少女がテーブルをはさんで向かい合っていた。少女は前髪とサイドをまっすぐに切りそろえてお人形のような上品さをだった。ただし、携帯ゲーム機に夢中で見た目の上品さとは裏腹に歳相応さを感じさせた。男も若かったが少女と向かい合う姿を見ると親子と言われてもおかしくない和やかな雰囲気だった。男は少女のその様子を眺めニコニコして話しかけた。
「ひめちゃん、僕達って付き合い始めて何年になるっけ?」
しかし、少女は顔を上げるどころかまったく無反応でしばらく携帯ゲーム機を操作する音だけが響いた。男は気を取り直して再度話しかける。
「おーい、媛乃さーん」
「なんだ、蒼汰」
媛乃と呼ばれた少女は、しぶしぶ返事をした。ただし、携帯ゲーム機からは目をそらさなかった。機嫌が悪いようだが、蒼汰は媛乃の性格をよくわかっているのか気にすることもなく再び同じ質問をした。
「僕達って付き合い始めて何年だっけ?」
「十年だな」
少女はそっけなく応える。
「高校からだっけ?」
「そうだな」
媛乃が返事をしたことに蒼汰は満足気に言葉を続けた。
「そっかー、もうそんなに経つのかー。ひめちゃんもすっかりロリば――」
ベチッ。
おしぼりが蒼汰の顔面にクリーンヒットした。媛乃はいつの間にかゲーム機をテーブルに置いて左手にソーサー、右手にカップを思って優雅に紅茶を飲んでいた。しぐさも上品でとても絵になる。しかし、蒼汰にはいつおしぼりを投げたのかまったくわからなかった。
媛乃はカップから口を放し問いかけた。
「で、何の話だ?」
「僕達もだいぶいい歳になってきたわけだけど。高校のとき始めて話したときのこと覚えている?」
「ああ」
カップを持ったままそっけなく応える。
「頭に雪を積もらせた媛乃が公園で泣いて――」
バチッ。
注文伝票用のバインダーが顔面に張り付いた。角ではなく面の部分が当たったのがせめてもの温情だろうか。媛乃を見ると左手でスコーンを持ち右手でジャムを塗っていた。心なしかジャムを見る目が輝いている。しかし、蒼汰にはいつバインダーを投げたのかさっぱりわからなかった。
媛乃はスコーンに口を付ける前に再び問いかけた。
「で、何の話だ?」
「公園で始めて話をした時、僕の言ったこと覚えている?」
「ああ」
スコーンを口に運びながらそっけなく応える。
「僕に君の魅力的な幼女姿を一生ささげ――ガ」
スカンッ。
ティースプーンが眉間に張り付いた。何かのマジックのように張り付いていた。媛乃はすました顔で再び紅茶を飲んでいた。紅茶でリラックスできたのか心なしか落ち着いた表情をしている。今度はティースプーンを投げるところが見えた。少し動揺していたのかもしれない。しかし、蒼汰が何もできずティースプーンを眉間に張り付かせたのは言うまでもない。蒼汰はティースプーンを下ろして顔を拭きながらもう一度言葉をつなげた。
「もう一度言うよ。君の魅力を永遠に僕のものにしたい。だから、ずっと側に居てほしい」
そう言って、蒼汰はポケットから小さな箱を出し、蓋を開けて媛乃の前に差し出した。
「照れ隠しが長いわ!」
言うが早いか箱の中身は空になり媛乃の左手に輝くものがあった。
「どっちが照れ隠しだよ」
蒼汰の反論に媛乃はぎゅっと目をつむりべーっと大きく舌をだした。
二人から窓をはさんで見える街は輝く銀世界だった。十年前の今日のように。
お題を「雪」「携帯ゲーム機」「魅惑的な幼女」ジャンル「恋愛」として書いた三題噺的なものです。
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