05 はぐらかしてごまかして
ハシュ様ふたたび。
明けて、翌日。
何だかハシュルスルビスクルス様が不機嫌です。
お昼寝後のお菓子の時間にお部屋へ行っても、いつものように抱きついてこられません。
席についてもそっぽを向いたまま、こちらを見てくださらないのです。
「あの……ハシュ様?」
しーん。
完全無視です。うんともすんとも言われません。
私、知らないうちに何かハシュルスルビスクルス様を怒らせるようなことをしたのでしょうか。
でも、身におぼえがありません。
となると――きらわれてしまった、とか?
このごようすだと、たぶんそうなのでしょう。
とつぜんの拒絶…、正直ショックです。
「…私のことが不愉快なのですね。申しわけありません、すぐに退室いたしますから」
鼻のおくがツンとしてきました。
いやいや、だめです。泣いてはいけません。
サッとなみだをごまかし、昨日買った砂糖菓子をポケットからとり出してそっとハシュルスルビスクルス様のまえに置きました。
「街に出たおみやげに買ってきたお菓子です。気にいらないようでしたら処分なさってください」
つらい思いをかかえ、肩を落としてとぼとぼと部屋を出ようとしたときでした。
「…ギャウッ!」
「え、わぁっ!」
うしろからいきなりそでを引っぱられ、案の定ぶざまにしりもちをつきました。
そのあいだにハシュルスルビスクルス様は私のまえにまわりこみ、正面から抱きつくように力いっぱい身体をこすりつけてこられます。
ペロペロほおをなめながら見つめてくる緑の眼には、どういうわけか怒りの色はありません。
むしろ、これは…。
――ごめんね、ごめんね――
そう、必死にあやまっておられるような気がします。
「私のことを、おきらいになられたのではないのですか?」
「ギャウ、ギャウゥッ」
「違う!」と言うように、何度もつよく頸をふられるハシュルスルビスクルス様。
クルクル鳴きながら、さらに甘えるようにほおをすりよせてくださいました。
…あぁ、安堵とよろこびから、またなみだが出てきそうです。
床にすわりこんだまま、ギュッとハシュルスルビスクルス様を抱きしめかえします。
「キュウ」
かわいい鳴き声といっしょにフリフリと動く尻尾が見えます。ほんとうによかったです。
それでも、まだひとつ疑問が残っています。
「ハシュ様は、いったいなぜ怒っていらっしゃったのですか?」
すると、ハシュルスルビスクルス様は顔をあげてうったえるようにひと鳴きしました。
ほかにもいろいろと身ぶり手ぶりでご自分のおきもちを伝えようとなさっておられるようですが、よくわかりません。うーん、私のボディランゲージ読解はまだまだでしたか。
いくらやっても伝わらないとさとったのか、ハシュルスルビスクルス様はあきらめたようにしゅんと肩を落とされました。
こんなときに何ですが、あきらめ姿もかわいいです!
「やっぱりハシュ様はおかわいらしいですね」
「…ギュー」
あれ? 今のびみょうな間は何だったんでしょうか?
気になってたずねてみましたが、うまくはぐらかされてしまいました。くそぅ。
ともかく、機嫌のなおられたハシュルスルビスクルス様はその後、私の膝のうえにおすわりになり、おみやげの砂糖菓子をしごくご満悦でペロリと召しあがられました。
【竜の生態・その五】
全体的に穏やかな気性の者が多い竜であるが、独占欲が強く、嫉妬深い一面もある。