03 思わず笑ってしまう
ここ最近、もっかハシュルスルビスクルス様のお気に入りの場所となっているのは、私の膝のうえのようです。
仕事中でも休憩中でも、椅子にすわるといつも「待ってました」とばかりに飛んでこられ、得意顔でちょこんと私の膝にすわられるのです。
その一連のしぐさのおかわいらしいことと言ったら…!
筆舌に尽くしがたい愛らしさをまえに、女官の立場もわきまえず何度鼻血をふきそうになったか知れません。
…ええ、自分でもだんだんアブナイ方向に転がりつつあることは自覚しておりますとも。
改善の努力していないわけではありません。ただその努力が反映されていないだけです。
ま、それが問題っちゃ問題なんですが、今のところまだセーフのはずです。…たぶん。
「リセ・リアルデ。太子様がそなたをお呼びだ。これから寝室へむかうように」
「……承知いたしました」
有翼の御仁はあいかわらず無表情でつっけんどんです。添い寝の指示はいつものことなので、もう慣れましたが。それにしても、なぜいまだにフルネームで呼ぶのでしょうか。
ともかく、言われたとおりハシュルスルビスクルス様のおられる寝室にまいります。
「ハシュ様、リセでございます。入ってもよろしいでしょうか」
「キュー!」
扉をあけると、胸のなかほどあたりの身長の金色の子竜がとびだしてきて、うれしそうにペロペロと私のほおを舐めます。ふふふー、くすぐったいですよぉ。
加減をおぼえられたのか、最初のころのように全力でのしかかったり抱きついたりされることもなくなりました。これでひとまず圧死のフラグは回避です。バンザーイ!
頭をなでたあと、なかよく手をつないで本棚のまえに立ちます。
「今日のおやすみまえのお話は何にいたしましょう?」
「ギュ、ギュ!」
両足でピョンピョンとびはね、おのぞみの絵本の背表紙を指さされました。
くっ、いちいち動作がかわゆすぎます、ハシュルスルビスクルス様!
しばし悶絶し、なでまわしたい衝動を何とかこらえ、絵本をとると、白くやわらかな寝台のふちに腰をおろします。すると、ハシュルスルビスクルス様はよじよじと器用に寝台にのぼり、私の膝にデンとすわられました。
頸だけふりかえり、くりくりした緑の眼を期待でキラキラさせながら、じっとこちらを見つめてこられます。
――ねえねえ、はやくよんで――
そんなお声がきこえてくるようです。たぶん間違っていないでしょう。
私はハシュルスルビスクルス様の竜語を解せませんが、ハシュルスルビスクルス様は私の言葉をきちんとききとられているようで、意思疎通のボディランゲージにはこと欠きません。
ですので、私としても、眼や声や羽や尻尾の動きから、多少は正確にハシュルスルビスクルス様のおきもちをくみとれるようになったのではないかと自負しております。
ちなみに、今はとても上機嫌であられるのではないかと推測されます。
誘惑に負けてほおをツンツンすると、ほにゃりと笑われました。
調子にのってさらにつつくと、おかえしのつもりなのか鼻先でほおをつつかれました。
あー、もー、かわいい!
ほんとに何なんですか、この子竜ちゃんは! かえしの行動までツボにくるなんて、ラブリー度マジ半端ねぇ!
まるで生きたぬいぐるみッ!
「ハシュ様、かわいいですッ」
「ギャウッ!」
背中からぎゅーっと抱きしめると、ハシュルスルビスクルス様もパタパタ尻尾をふり、クルクルと喉を鳴らしながら甘え全開で身体いっぱいスリスリしてくださいました。
これぞ至福の瞬間です! 思わずデレデレ……いえ、笑ってしまいます!
けっきょくこの夜は絵本そっちのけでじゃれあい、そのまま眠ってしまいました。
――結局、何が言いたいのかというと。
ハシュルスルビスクルス様の愛らしさに、私の平凡な顔は連日終始ゆるみっぱなしだということです。
【竜の生態・その三】
特定の場合をのぞき、竜は雌雄ともに己の愛する者にのみ自身の身体に触れることを許す。