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09 照れくさい

御仁ふたたび。

 迅速な処置と的確な治療のおかげで、私のほおの傷は三日ほどできれいさっぱりなおりました。

 いやー、竜の国の医療はすすんでいると聞いていましたが、本当にすごいです。


 …それにしても、みなさん過保護すぎやしませんかね?

 たかが薄皮いちまい切れたぐらいで仕事をやすめだなんて、やりすぎです。


 手や足をケガしたわけではないので通常業務にはいっさいさしさわりないのですが、強引に押しきられ、強制的に寝台の住人にさせられてしまいました。

 病気でもないのに寝かしつける理由がわかりません。







「リセちゃん、おみまい人よー」


 同室のおねえさんを経由して部屋にあらわれたのは、ハシュルスルビスクルス様づきの侍従である有翼の御仁でした。

 あいかわらず無表情に変わりはなく、手にしたフルーツの盛り合わせが何ともミスマッチです。


 というか、わざわざみまいに来てくださるとは思いませんでした。


「痛みはないか、リセ・リアルデ」

「はい。おかげさまで、もうすっかり」

「それはよかった」


 青い眼がふっとやわらかく細められ、真一文字の唇がゆるく弧をえがきました。


 ――うわあ、こんなに笑っている顔、はじめて見ました! というか、全開で笑えたんですね!

 そりゃあ、ほんのすこしほほえむところは今までにも何度か見たことありますけど!


 いやはや、ふだん笑わない人の笑顔は破壊力まんてんです。


 ボケッと口をあけて見入っていると、おねえさんも眼を丸くしていました。

 食べかけのクッキーがボロボロ落ちてますよ。


 でも、そうですよね、びっくりしますよね!


「何を好むのかわからなかったので、店の者に適当につめさせたが……。ここに置いておくぞ」

「あ、ありがとうございます」


 すごい量です。

 全部熟しきっているので、ほっといたら明日にはぜんぶ腐っていること間違いなしでしょう。

 せっかく高級品ばかりなので、それは何としてもさけたいところです。


「それでは、わたしはこれで」

「あ、待ってください!」

「…!」


 あわてて手をつかむと、御仁はぴたりと足をとめてふりかえりました。


 一瞬、細マッチョな身体が硬直したような気がしましたが、気のせいでしょうか。

 しかも、何でかおねえさんが「ひゃあ」と変な声をあげています。


 え、何ですか?


「あ、あの、いっしょに食べませんか!?」

「…なに?」

「その、私ひとりじゃこんなにたくさん食べきれませんし、いろんな人といっしょに食べるほうがずっとおいしいと思うんです。…だ、だめですか?」


 あああ、一体何を言っているんでしょうか、私は!


 わたわたしながらあわてて手をはなそうとすると、逆ににぎりかえされました。


 …ぉ、ぉおおおおおッ!?

 こ、これはどういうことでしょうか!?


「かまわない」


 うすくほほえみながら寝台よこの椅子にすわり、ワシャワシャと頭をなでられました。

 や、私、もう二十ウン歳なんで、それやめてください。むちゃんこ照れくさいんで!


 赤くなってにらむと、またちいさく笑われました。くそー!







 …けっきょく、おねえさんもまじえて三人で食べられるだけ食べ、残りはほかの人たちにおすそわけしました。


 御仁が去ったあとも、おねえさんはもぐもぐフルーツをほおばりつつ、「あのアウゼスさまがねえ…」と私の顔を凝視しながらしきりにぼやいていました。


 はて、私、何かおかしなことをしてしまったのでしょうか?



【竜の生態・その九】

異種に対し、よほど気にいった者でない限り、竜自身から相手に触れることはない。

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