▼幽霊少女、エピローグ。
私の第二の人生(幽霊が人としてカウントされるかは良く分からないが)を振り返ってみたら…普通に青春していたと思う。寧ろ、私は生きていた頃の方が枯れていたと思う…まぁ、今さら過ぎたことをいっても仕方ないから振り替えることに専念する。
朝の戯れあいはいつも通り。だって、幽霊である私にはリュシオルは触れれないから逆に襲われる心配がないから。
変わった点と言えば、服を決めるときに少しだけリュシオルの目線を意識するようなった所か。寝巻きのネグリジェは大人しいデザインの物にしたが、時より浴衣とか着てみた…だが、何となく…本当に意図せず普段着にミニスカートにニーソ穿いた時なんて、リュシオルを含めた村の男性陣の視線が凄かった。私を含めた村の女性陣が密かにドン引きするぐらい凄かった。…男の人って、どの世界でもやっぱり生足が好きなのだろうか?いやでも、私幽霊だぞ?幽霊に欲情するとか…死んでいる私ですら「えっと…医者紹介しようか?」って真面目に言いそうになったもん。
そう言えば、たまにフローリアさんが「どうやって料理作っているんですか?」って聞くけど…死ぬ前、料理が趣味だったんだよね。だから、どうにか分量だけしっかり計れば味が分からなくてもそれなりに美味しいものが出来るのである。…たまに失敗するときもあるけど。…その時のリュシオルの顔と言ったらもう…居た堪れないにも程があるレベルだった。本当、あの時は悪い事した。…でもなぁ、ちょっとピリ辛にしただけであんな顔しなくても良くないか…どんだけ香辛料慣れしてないんだ。お母さんは普通に美味しそうに食べてくれた上にカレー粉モドキを作ってくれたと言うのに!!で、適当に作ったナンみたいなパンとドライカレーみたいなピリ辛の物が意外と村の人達に好評で…レシピ布教して村興しして…お母さん、ありがとう!!って、花畑で花摘んで、ミミィに教わりながら花冠作ってお母さんにお礼言ったのも懐かしい。
『ふふ、本当に色々あったなぁ。』
思い出したら笑いと共に、思い出を思い出した時に感じる郷愁以外の寂しさが込み上げてきた。…ああ、もしかしたらもう少ししたら私は消えちゃうのかな…もう少しだけ思い出に浸りたいのだけど…。
予兆が現れ始めたのはかなり前。多分、リュシオルに男としてみるから的な事を言って逃げた直後ぐらい。何か、瞬間的にだけど凄く苦しくなって…で、当たり前だけど幽霊になったのもこんな状況になったのも初めての事だったから…凄く戸惑った。
で、定期的に苦しくなったりポルダーガイストが起きにくくなると言った発作が出始めて、何か…心なしか体の透け具合が前より進んでいる気がした。足の透けている範囲が膝辺りだったのが太股まで進んできたに進んできたから…流石にお母さんやリュシオルが気付いた。…でもまさか、ロングスカートの部分まで透けるとは思わなかったわ…。
「ミナト、これはどういう事なんだ!?」
「ちょっとリュシオル、少し落ち着きなさい。」
「落ち着けって!?どうやって落ち着けば良いんだ「気絶させたろか?」…ごめんなさい。」
『あははは…まぁ、多分…なんだけどね。私と言う異質の存在が、この世界に溶け始めている証拠なんだと思う。…この世界に、受け入れられている証拠なんだと思う。』
そりゃもう…水に浸けたオブラートの如く、水に浸かってふやけて溶けていって、少しずつ形を保てなくなっていく。そこに残るのは水とは別の物だけど、端から見たらその違いなんて分からない。…そんな感じだと思う。…なんで例えがオブラートって、それしか想像できなかったってのが本音だ。だって、他に水に浸かってふやけて溶ける物が、他に思い付かなかったんだもの。…あ、ライスペーパーも似たような物って、生きている時に聞いたことあるかも。
で、現在。既に手足は見えなくなっていき、辛うじて顔と胸元辺りが薄ぼんやり見えるだけになっていった。
『あはは…あの時のリュシオルやお母さんの顔、ビックリしたなぁ。』
ビックリされるのは想定内だったが、まさか泣かれるとは思わなかった。その泣き顔に逆に私がビックリしてしまい、現在進行形で家出中である。…死期を悟った猫のごとく、静かにカッコ良く立ち去りたかったんだけどなぁ。まぁ、この方が私らしいかな。
『ああ、優しい人達と出会えて、楽しい出来事があって、少しだけだけど青春も出来て…幸せだったなぁ。』
もしかしたら、今私がなっている状態は私が思っているような『成仏』とは違うんだろうか……でも、それでも良いんだ。短い人生終わった時はどうなるかと思ったけど…また生きられた。色んな意味で第二の人生を歩めた。それでもう満足。せめてリュシオルとフローリアさんの結婚式が見たかったけど…これ以上神様に我が儘は言えない。て言うか私に時間がない。
最後に、昔言いそびれた言葉を――。
『……さようなら。…ありがとう。』
とある森の片隅で幸せそうに呟いた幽霊の姿は、その場から真の意味で完全に消えたのであった。