▼幽霊少女は、異世界人と遭遇しました。
あ、死んだ。
そう認識したのは、真っ赤に染まった道路と、砕けたメガネ、逃げ去る車のナンバープレートを、激痛で朧気になった意識でぼんやり見つめた時だ。
居眠り運転だったのか、酒気帯び運転だったのか、その後の轢き逃げ犯が有罪になったのか無罪になったのか、私は知らない。知る術がない。
何故なら、
『ココ、何処よ。』
訳のわからない世界に居たからだ。
いやいや。私、轢き逃げされて思いっきり死んだよね。その証拠か知らんけど、手とか透けちゃってるし…。…幽霊になったんだろう。
だとしても、それならその轢き逃げ犯に取り憑くか(呪う気満々です。)、その場に留まって地縛霊になるか(適当に姿表して、そこを心霊スポットにしてやる。)、そのまま浮遊霊になるよね?断じてモンスターをハントするような世界に在りそうな森の中に漂うわけないよね?
『…あー、全くわっかんね。』
だいたい、私しがない学生よ?…もう[だった。]…過去形な訳だけど、それでもしがない浮遊霊よ?何かしましたか?私。
むおーっと、変な声上げながらジタバタゴロゴロと悩んでいたら、近くの茂みがガサガサって音をたてた。
『…まさか、マジでモンスター的な生物?』
幽霊だから喰われることないだろう…ないといいな!
もう鳴らないはずの心臓が、ドキドキと脈打つ。(脈もないけど…気分的に。)
「うわっ!」
ドッテーン!
『………何だ、人かよ。』
茂みの中から出てきたのは、私と同い年ぽい青年だった。
「イテテ…くっそ、また逃がした!」
何か追い掛けてるのかな?
『何追い掛けてるの?』
「【雪ウサギ(スノウラビット)】って言う兎だよ。毛皮は手触り良いし、肉も旨いから、狩って市場に出すと、そこそこ高値で売れるんだけど…。アイツ、すばしっこくて中々捕まえられないんだ。」
『へぇー、大変だね。』
「他人事だと思って…。君は何のために…ここへ……へ?」
『あ、漸く気付いた?初めまして、私は「うわぁぁぁぁあ!!!!?」…って、自己紹介する前に逃げたし…。』
でもあの青年、私の姿が見えてたな。
『後追っかけてやろ。』
「はぁはぁ、っ…はぁ。ここまで来れば、大丈夫かな…。」
『足速いねー。』
「まぁ、いっつも【雪ウサギ】追いかけてたから、これくらいは序の口…ってあぁぁぁぁ!!!?」
『その大声、森だとともかく、ココだと近所迷惑だよ〜?』
「っあ…!〜〜〜!!!?」
『そして、私に指摘されて口を押さえながら悲鳴あげるってか。素直だねー、おにーさん。
自己紹介が遅れたけど、私の名前は宮城 湊、湊が名前ね。人間で、因みに17歳で永眠しました。
見ての通り幽霊だけど、別におにーさんに危害を加えに来たわけではないの。…おにーさんの名前は?何歳?種族何?』
「お、俺はリュシオル。リュシオル・アーベ。今年の春で19になる。種族は…ちょっと特殊だけど人間。」
『わお、同い年かと思ったら意外に年上だ!リュシオルさん背ェ高いのに童顔〜。(…人間なのに、ちょっと特殊って何だよ。)』
「地味に気にしてることを、さらっと…!」
『あら、ごめんね?わざと。』
「尚の事たち悪い!」
「で、ミナトは何のために俺を追ってきたの?」
『ん〜、何となく。「傍迷惑なっ!」あはは、うそうそ。私の姿見えたから、どんな人かな〜って思って。』
「姿が見えたって…、ここの村の人は全員見えると思うけど…。」
『本当に?確証持てる?』
「確証は…。っあ、俺のお袋に会わせてみよう。そうすれば、少なくとも俺の家族には見えてるって分かるだろ?」
『…分かったけど、私の姿見せて大丈夫かな?リュシオルさんみたいに叫ばない?』
「お袋の方が神経図太いから…。寧ろ歓迎するかも。」
『頼もしいお母さんだねぇ。』
リュシオルさんの後ろをふよふよと浮いて付いて行く。(憑いて行くって言った方が言いかな?)
その際、村人であろう人達に、ジロジロ見られまくった。
『リュシオルさんの言葉、本当みたいだね。さっきから視線が痛いや。』
「だろ?」
ドヤ顔してきたのがイラッとしたので、リュシオルさんの後頭部をぶっ叩いてみた。
バシッ
…わお。
「っ〜!痛いじゃないかミナト!」
『いや、まさか物理攻撃できるとは思わなくて…。私幽霊なのに。』
ビックリしたのは、寧ろ私の方よ。
リュシオルさんの家に着いたは良いんだけど、
「まぁ〜、リュシオルったら!可愛らしい女の子連れてきて!え、幽霊?こんなに可愛い幽霊なら大歓迎さね!行くところないなら、うちに居なよ。…あ゛?リュシオル何か文句あるかい!?…ミナトちゃん…だっけ?ようこそアーベ家へ。これからはヨロシクね!」
…マジで歓迎されたよ。有り難いけど。
お母さんの顔通しが一応済んだところで、一度リュシオルさんの部屋を訪れた。
『何か豪快なお母さんだね。』
「いきなり入ってくるなよ…。…お袋は若い頃冒険者やってたらしくて…。お陰で大概のものは驚かなくなったらしい。」
『ふーん、そうなんだ。リュシオルさんも、ちょっとはお母さんの図太い所見習えばいいのに。』
「無理だよ。俺は、お袋みたいにはなれない…。」
『当たり前じゃない。人は、人。自分は自分。その人みたいになりたいと思っても、なれないのが現状。
だけど、その人に近づくためにした努力は、きっと別のところで役立つと思うよ?』
「そうかな…。」
『あ、どうして私がリュシオルさんを叩けたか多分分かったよ。』
「何だったんだ?」
『ポルダーガイスト…普通は、霊が物理干渉で起こす念動力的な現象なんだけど、それかなって。』
「へぇー、それで俺の頭を叩けたって訳か。」
『今度は、私の方が確証ないけどね。』
「まぁ、今日から一緒に住むんだし…ヨロシクな、ミナト。」
『こちらこそヨロシクね、リュシオルさん。…ん~、そっちの方が年上なんだし、《お兄ちゃん》って呼ぼうか?』
「ぶっ!止めてよ、恥ずかしい!…でも、さんは付けなくても良いよ?何かむず痒いから。」
『了解、リュシオル。』
こうして、幽霊少女と童顔青年は出会った。
リュシオル達の《特殊》って意味を追々書ければと。