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お酒の力

作者: ぎょにく

 飲み会が始まって1時間は過ぎただろうか。新入社員の研修が終わり、同期総勢20人と大衆居酒屋で飲んでいた。コースの料理は締めの雑炊とデザート以外は出つくしている。同期の数人は飲み放題をフルに活用してべろべろになって騒いでいる。そんな頃合いに事件は起きた。テーブルをはさんで私の対面にいる、コールに応えて多量の酒を飲んでいたAが隣りにいる女子の同期にからみだしたのだ。ボディタッチや下ネタ連発で、誰が見てもそれは非常にたちの悪いものだった。

 このAという男、普段は生真面目で同期からも頼りにされている人物だ。黒い短髪で四角い顔をした、いかにもアメフトやラグビーをしていたような見ためをしている。そんな彼がまさかこんなにも人柄が変わるとは、平常時の彼を知る人なら予想だにできなかっただろう。私は呆れながら隣りにいるBさんに話しかけた。


「すごい酔ってるね、Aのやつ」

「ね。ちょっと驚いちゃった。お酒の力って怖いね」


 Bさんは酒が入ったからか、頬をやや紅潮させながら答えた。そういえばBさんはこの1時間でなかなかの量を飲んでいるようだ。この人はいつも穏やかで落ち着いており、しっかりと周りを見てくれていて優しい印象を与えてくれる。長い黒髪で華奢な胴体、端正な顔立ちで周りから22歳にして「委員長」と呼ばれていた。その後も私とBさんはお酒にまつわる話を続けていたが、Aの蛮行に会場全体が見るに見かねた空気が漂い始めていた。それと同時期に私とBさんが頼んでいたグラス2つの焼酎水割りが届いた。


「そろそろ本格的にひどいな、あれ。止めた方が良いかな?」

「んー。確かに見てられないね。ここは私に任せてみて。お酒の力を見せてあげるね」


 笑ってそう言うと、彼女はゆっくりと立ちあがった。それから間髪いれずに数粒の水滴がテーブルを濡らしたのが見えた。なにが起きたのか、その場の誰もが理解していない。少なくとも当事者のBさんを除いて、だ。


「いい加減にしなさい」


 落ち着いて声を荒げることもなく、怒るというよりはたしなめるような語調であった。彼女の手には届いたばかりのグラスが空になって握られている。A君は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。顔をびしょびしょにしながら。


「ね?お酒ってこんな使い方もできるのよ」


えへへ、とはにかみながら座る彼女を見て、

お酒の力は怖い、そう強く感じたひと時だった。

読んでいただきありがとうございます。感想など、忌憚ないご意見いただけたら幸いです。

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