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継ぎ接ぎ安全地帯

 あれからシーナは仕事が忙しいそうでそれに代わるようナイトラが二人を監視した。世話などいう暖かくも友好的な雰囲気は一切なく逃げ出さないように見張っているというのが最も相応しい。ウォルはなんとかナイトラと親しくなろうと努力はしていたが無駄に終わり、クジュはそもそもそんな考えは持っていなかったのでナイトラとは睨み合うことが多かった。何度となく訪れた一触即発の空気をウォルがなんとか抑えて、ようやく夕方になる。仕事で忙しかったらしいシーナがようやく落ち着いてきたのか夕食であることを伝えに顔を出したことでようやく落ち着いた雰囲気になり始めた。

 豪華な料理がずらり並んでいる中わずかな間ですっかり仲が悪くなってしまったクジュとナイトラがお互い目が合う度に数分睨み合う。それだけで殺伐としてしまう空気をなんとか壊そうとウォルは尽力した。


「シーナさんの作る料理はどれもおいしそうですね」

「ありがとうございます」


 仕事中だからなのかシーナは空になった皿を下げたり、新しい料理を持ってきたりを繰り返すばかりで椅子に腰かけようとさえしない。仕事中なら無理に誘うのも良くないかと思いウォルが食事をしているとナイトラが急に立ち上がった。


「ん?」


 何事かとウォルがナイトラを見ているとナイトラは舌打ち混じりに踵を返すと部屋を出て行ってしまった。二人が意味がわからず首を傾げているとナイトラの行動をシーナが補足した。


「また王から電話があったみたいです」


 そう言われて耳を澄ましてみれば確かに電話が鳴っているような……気がしなくもない。こんなかすかな音にナイトラはすぐに反応出来るのか。そんな風に感心していると乱暴に子機を取る音が聞こえた。余程機嫌を損ねているのか。


「ナイトラさんに愚痴でも言ってるんでしょうか?」


 騎士と王なのだからもっと込みいった話もあるのかもしれないがウォルの発想慮奥では浮かぶのはせいぜいこのくらいだ。冗談半分で言ってみたのだがシーナは困ったようにそうかもしれませんねとだけ言って笑った。


「この国は平和すぎて王が揚げ足を取られていると聞いた」

「そう、ですね」

「お前と王が交際していることで国民は我先にと嬉々して批判をしていると」

「返す言葉もありません」


 これまでどれほどの辛酸を舐めてきたのか彼女の表情が苦痛に歪む。それでもここに留まり続けるのは離れたくないからなのか、離れられないのか。第三者にそんなことが判断出来るはずもない。


「いつか状況が改善されるといいですね」


 そんな当たり障りのないことをウォルが言ってシーナが頷く。状況を改善するためにここに呼ばれているわけなのだがそのことには互いに触れずに茶番のようなやり取りをいくつか交わした。




 ウォルはクジュと旅をしている。旅を始めたのは数年前の話だがそれよりもずっと昔、気付けば物心ついた頃からクジュとは一緒にいたように思う。それでもクジュの全てがわかっているわけではない。わからないことも未だに多い。今回もまたウォルはクジュの考えが理解出来ずに困惑していた。

 あれから結局ナイトラは通話を続けていて戻ってくる様子はなかった。そのため食事を終えた二人は部屋へと戻り、一息つく。ベッドにダイブしたウォルをクジュが埃がたつという理由で咎めたが気にしない。これくらい自由にさせてもらわなければ息が詰まってしまう。


「クジュ、今回はよく喋りますね」

「……そうか?」


 その返答で無意識だったのかと納得する。クジュは特殊な声をもっているせいで普段はほとんど口を開かない。しかし今回ここに連れて来られてからはクジュは当社比ではあるがよく喋る。そう言ったところでクジュは否定するのだろうがクジュが多弁になっているのは事実だ。これはずっと一緒にいたウォルだけが知っている。


「クジュは何が気にかかってるんですか?」

「……別に。ただの好奇心だ」

「そう」


 これ以上問うてもウォルの求めているような返答はもらえそうもなかった。こうしている間にもこの呑気さが自分の首を絞めているのではないかと不安にあるがクジュが留まると言ったのだからクジュの気が済むまだここにいようと思う。そんなことを口にすればクジュはこれ以上なく嫌そうな顔をして気持ち悪いことを言うなと呟くに決まっているので言わないが。


「おい」

「ん?」

「ん? じゃない。何寝ようとしてる。寝巻に着替えろ」

「いいじゃないですか。クジュは神経質すぎるんですよ」

「なっ……!?」


 誰が神経質だ。憤慨したクジュがそう怒声を飛ばすよりも早くベッドに潜り込んで視界を覆ってしまう。クジュが何を考えているかわからなくて、教えてもらえない以上ウォルに出来るのは待つことだけだった。

 そうしてウォルは深い眠りに落ちる。意識の端でクジュに頭を撫でられたような気がした。

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