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そうしてこちらも

 やはり落ち着くことが出来ないのかチェックはあたりを歩き回っていた。シーナは未だに祈り続けているがウォルにはそれを続けることは出来そうにもなかった。どう時間を潰そうかと考えながらとりあえず立ち上がる。そろそろ時間かもしれない。目を閉じて祈り続けているシーナの邪魔になってしまわないように出来るだけ音を立てずに移動する。落ち着きなく徘徊するチェックを呼び止める。


「チェックさん」

「あ?」


 嗜好に没頭していたのかウォルが声をかけた途端跳ね付けられたように顔をあげた。その顔色はあまり良くなさそうだ。


「大丈夫ですか?」

「何が? 俺すげえ元気だぜ」


 チェックの体調がすぐれないように見えるのは単に心配をしすぎるあまりのことなのかもしれない。これまで一体どれほどナイトラに依存していたのだろう。そしてそれを自らの手で手放そうとしているチェックはどんな想いなのだろう。聞きたくないわけではなかったが他人の心に土足で踏み込むような真似に思えてそれは躊躇われた。そうしている間にチェックが口許を押さえた。逆流する胃液を押しとどめようとしているようなその動作にウォルが目を細める。チェックは嗚咽するように何度か咳を繰り返すと二、三歩よたよたと歩いた。今にも意識を手放しそうなその危うさを傍観していることも出来ず手を貸す。チェックの異常に気付いたのはシーナはいつの間にか祈るのをやめてこちらを見ていた。そして腰を上げてチェックへと歩み寄る。ウォルの肩を掴んで支えにしながらチェックは咳き込む。


「な……だ、これ。げほっ」

「多分、あっちでチャックさんの『好き』が消されようとしてるんです。大丈夫ですよ。次に目を覚ました時には『好き』は消えていますから」

「…………ああ、そう」


 たっぷりとした沈黙があってから興味なさげにチェックがそう返す。そうしたところで限界点を越えたのか、安心したのか。目を閉じてその場に崩れ落ちようとしたチェックを咄嗟に抱きこむようにして支える。とりあえず支えられたことに安堵した。


「どうして王は泣かれているんですか?」


 心配そうに覗き込んできたシーナがそう問う。その言葉通りチェックは泣いていた。嗚咽もなく涙だけを静かに流しているその様子は不自然で作り物じみている。意識を手放した途端の涙にシーナが驚くのは無理もなかった。しかしウォルにとっては初めての経験でもないので特別慌てる必要はない。


「『好き』が消えて悲しいんですよ。チェックはもう覚えてないでしょうけど、急に心に空白が出来た心が泣いてるんです」

「……もう『好き』を取り戻すことは出来ないんですか?」

「出来ないことはないですけど、クジュが許してくれないと思いますよ。苦労して消してやったのにその言い草はなんだ、って」

「そう、ですね。すみません」


 目を伏せたシーナに対してあまり気にしないように声をかけてからチェックをソファーまで運ぶ。チェックは意外に重さがあり、半ば引き摺るような形になってしまう。それでもなんとかチェックをソファーに寝かせることが出来た。力一杯ソファーに投げつけるという乱暴な方法ではあったが。


「私、タオル持ってきますね。汗をかいておられるようですし」


 そう言われてチェックを見ればしっとりと汗をかいていてまるで風邪をひいているようだった。そのくせ呼吸は至って穏やかなのだから不自然さを覚えてしまう。


「それがいいかもしれないですね」


 その言葉を聞いてからシーナがタオルを取りに駆けていく。それを見送ってから汗ばんだチェックの髪を何度か梳く。


「まずは一人目」


 チェックは無事だろうか。怪我をしていないといいと心から思う。残るはあと一人だ。

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