二人の相性
クジュとナイトラがあちらに行ってからチェックは落ち着きをなくしていた。落ち着かないのはもしかするとすれよりも前からだったかもしれないが今とてつもなく冷静さを欠いていることは間違いない。一か所に留まり続けていることが出来ないのかぐるぐると近くを徘徊するチェックは聞き取れないくらい小さな声でぶつぶつと何を呟き続けている。もしかするとナイトラを心配する内容かもしれないしもっと別のことかもしれない。
「チェックさん、落ち着きましょう。俺達が焦ってもどうにもならないですよ?」
チェックの異常な焦りはだんだんとシーナにまで感染し、二人揃って落ち着きを失くし始めたので声をかけてみる。流石に二人が焦っている中で一人だけ冷静を保てるほど強くはない。自分が落ち着くためには二人に冷静でいてもらう必要があった。勝手なのかもしれないがわかってほしい。
「いや、無理だろ。俺はそんなに図太くねえ」
「あの、ウォル様は本当に行かれなくてよろしかったのですか?」
チェックが即答した時点でこの話はこれ以上広げることは出来なさそうだ。それを察したのかシーナが新たに問いを投げかけた。新たにというよりは再度確認するといった意味合いの方が強いが沈黙が続くよりはいいだろう。
「あっちには滅多につれて行ってもらえないんですよ。俺が行った方が負担は減るんですけどね」
「負担」
具体的にどういった負担なのかわからないシーナはただ反芻した。興味がこちらに移ったことで気が逸れたのかチェックは足を止めてこちらを見ている。そういえばまだ説明していなかったことに今更ながら気付いて説明を開始することにした。説明したところで理解してもらえない可能性も高いが。
「クジュの声がとても有害なのは御存じですよね? あの声は聞いた人の耳から脳に侵入して内側から
その人を侵していきます。症状は一概にこうとは言えないんですが気分が悪くなることが多いですね。重症だと意識が混濁したりもします」
そこまで説明したところでチェックとシーナの表情が曇った。そんな危険な声を持つクジュと共にあちらに行ったナイトラが心配なのだろう。正直、ウォルもそれは気にかかっている。
「俺の声はクジュとは真逆でクジュの声と相殺させることが出来るんですよ。例えばクジュが喋る。で、それを聞いた人が体調が悪くなる。でも俺の声をしばらく聞くと俺の声で浄化されて回復します。クジュの声は時間経過で効果が薄まることもあるにはあるんですけどかなりの時間が必要なので俺の声を聞くのが一番だと思います」
二人にわかりやすいように出来るだけ意識して澄んだ声を出す。透明なものを更に薄めて目視出来ないほどに純度の高い透明になってしまっているその声はその割には存在は希薄になることはなくむしろ存在感を増しているように思う。
「ただ俺の声はクジュの声を全部浄化してしまうのであっちについて行くと確実に邪魔になってしまうんですよ」
二人の反応を知るよりも早くそう言って説明を終える。あちらではクジュも騎士もかなり苦戦を強いられることになるのだろう。それがわかっていてもやはりこちら側からはどうすることも出来ない。それならばあまり余計なことを言わない方がいい。そう判断して再び黙り込めばシーナが無事を祈るように両手を合わせて目を閉じた。特にするべきこともないのでそれに倣ってウォルも両手を合わせて目を閉じる。これで二人の状況に変化があると信じられるほど楽天家ではないけれど何かが変わればいいなとは思った。