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さあ、塗り潰そう

 チェックとナイトラの手紙は一時間ほどで書き上がった。

 チェックの手からクジュへと渡された手紙は綺麗に封がされていて中身を見ることは出来そうになかった。その手紙の中にどれだけの気持ちが込められているのだろうか。ウォルには想像することしか出来ない。


「これからクジュがお二人の感情を塗り潰してきます。クジュ、いけそうですか?」


 二通の便箋を手にして考え込んでいるクジュにそう問えばクジュは首を横に振った。厳しいようだ。それならば協力してもらわなければいけないだろう。本当は危険も伴うので協力なしに済ませたかったのだが無理なのだが仕方がない。

 マイペースに歩き出したクジュの後を追う。横に並んで懐から出したガムテープを手渡した。クジュはそれを受け取ると便箋とガムテープを左手に持ち、右手でガムテープの始まりを掴むと引っ張る。三十センチほどガムテープを伸ばしたところで乱暴に手で引き千切った。そして不要になった千切っていない方のガムテープをウォルに突き返した。それから三十センチのガムテープを更に半分に千切る。その動作を人通り眺めたところでウォルは少し離れたところをついてきている三人へと振り返った。その間にもクジュは歩き続けているので引き離されてしまわないように後ろ歩きをする。


「すみません。ナイトラさんに協力してもらいたいんですけど大丈夫ですか?」

「協力とは具体的にはどういった内容でしょうか」


 二つ返事をしないあたりナイトラは慎重だ。説明をしようとしたところでクジュが足を止める。後ろ歩きをしていたせいで止まるのが遅れて壁にぶつかった。後頭部が痛む。

 クジュは頭をさするウォルに一瞥くれることもなく突き当たりの部屋のドアに便箋を一つ押しつけた。その上にガムテープを貼りつけて便箋をドアへ固定する。もう一つの便箋も同じようにドアへと貼りつけた。


「これからクジュはお二人の好きという感情と戦ってきます。感情は戦って倒さないと消せないんです。でもクジュはあまり強い方じゃないというか、むしろ弱い方なんですよ」


 苦笑混じりに事実を告げればクジュに睨まれた。事実なのだから仕方ないだろう。痛い視線をなんとか受け流しながら続ける。


「だからナイトラさんにも行ってきて戦ってほしいんです。チェックさんは王様ですから、流石に頼むわけにもいきませんし」


 説明といってもこれからクジュがやろうとしていることを言葉にするのは困難だ。それならば端的に説明して協力してもらうことにしよう。


「協力してもらえますか?」


 してもらえなければクジュが無事に帰ってこられる可能性が大幅に下がるのだがそれはあえて言わないことにしよう。そういう脅しをかけるような言い方はあまり好きではない。出来るだけにこやかにそうナイトラに再度問ってみればナイトラは「わかりました」と躊躇することなく協力してくれる意思を表明した。


「それは良かった。じゃあこれをして行ってください」


 ポケットを探って耳栓を取り出す。オレンジ色をしたそれはきちんと両耳につけられるように二つ用意してある。それをナイトラに渡す。ナイトラは意味がわからずに戸惑っているようだったので自分の手を耳に当ててここにはめるのだということを伝えておく。ナイトラが聞きたいのは耳栓をしなければいけない意味なのだろうがそれを説明しても理解されるのは難しいだろう。だから説明をすることはなく無言ではめることだけを指示すればナイトラは渋々ながら耳栓を両耳へ押し込んだ。そうしている間にチェックとシーナが驚きの声を上げた。


「なんだ、これ……」

「何をしたんですか……」


 先程クジュが手紙を貼りつけたドアは目に痛いほどに光り輝いていた。その目の前に立つクジュはそのあまりの眩しさに目を細めているがドアから離れようとはしない。そしてこちらを一瞥すると耳栓をはめたナイトラを手招きした。ナイトラがクジュへ歩み寄るとチェックとシーナが不安そうに表情を曇らせたが何も言わない。ナイトラはチェックの頭を軽く叩いてからにやりと悪戯好きの子供のような笑みを作った。それからチェックが何か文句を言うよりも早くクジュがナイトラの手を取ってドアを開けた。


「うわっ!」

「きゃっ!」

「っ!」


 あまりの眩しさにその場にいた全員が目を閉じる。痛いほどの静寂には光が差し込むばかりで聴覚への情報は一切ない。眩い光は瞼を突き刺して、目を閉じていても尚視界を明るく彩っていた。しかしそれも次第におさまっていく。目を閉じた世界が暗く戻った時、ようやく目を開けることが出来た。


「いねえ……」


 ぽつりとチェックが呟く。その言葉通り、クジュとナイトラは姿を消していた。そこには便箋がガム

テープによって貼りつけられたドアがあるだけで、それもきちんと閉められていた。


「ウォル様は行かれないんですか?」


 シーナはてっきりウォルも同行すると思っていたらしくウォルがこちらに残っていることに疑問を投げかけた。その率直な問いに苦笑しつつもウォルは答える。


「ええ。あっちに俺が行っても足手まといにしかなりませんから」


 自分で言うのも情けないが事実だ。それならば待機していた方がいいだろう。シーナにはウォルも特別な人間に映っていたようで申し訳ないのだがウォルは本当に大したことは出来ないのだ。


「無事に帰ってくるように祈りましょう」

「無事に帰ってこねえわけがないだろ。俺の自慢の騎士が行ってるんだぜ」


 胸を張ってそう主張するチェックの瞳はシーナに負けず劣らず不安げに揺れていた。そう自分に言い聞かせていないと不安なのだろう。それならばその言葉に乗ればチェックも少しは不安を和らげてくれるのだろうか。


「ええ、きっと帰ってきますね」


 正直なところ、今回はかなり厳しいと思うのだがこちらで不安を煽っても仕方がないだろう。ウォルに出来るのは待つことだけだ。特にするべきこともないので壁によりかかって目を閉じる。眠ってしまわないように気を付けて二人の帰還を待つことによう。

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