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主に喧騒

 暇過ぎるあまりクジュは官邸を徘徊していた。チェックは眠ってしまったようだし、シーナは忙しそうだ。ナイトラとは会いたくもない。シーナが鍵のかかっていない部屋なら自由に出入りしても構わないと許可してくれたのでお言葉に甘えて部屋という部屋に足を踏み入れることで時間を潰していた。

 もうそろそろウォルが起きてくる時間だろうか。それならばもう戻ってもいいかもしれない。あらかた徘徊したので飽きもきた。元来た道を戻ろうと踵を返すと何やら物音が聞こえてきた。好奇心が打ち勝ってしまい、思わず曲がり角に隠れて身を潜める。


「またか。……わかった。シーナ、ありがとう。ナイトラ、悪いが一緒に来てもらえるか」

「御命令とあらば」

「またお前そういう堅い返しをだな……」

「王、あまり大臣を待たせては……。私は外で待っていますから、その、すみません」

「なんでシーナが謝るよ」


 チェックとシーナとナイトラがそんな会話をしながらどこかへ向かっている。このままではクジュの潜んでいるところを通るので見つかってしまうだろう。やましいことは何もしてないので偶然通りがかった風を装えばそれでいいのかもしれないが一度隠れてしまった手前その方法をとることは躊躇われた。そのため三人に見つかってしまわないように角を少し行ったところで適当な部屋に身を滑り込ませる。部屋に入ってしまったことで音での情報しか拾えなくなってしまったがそれでも充分だろう。


「第三十二代国王・チェック。参りました」


 クジュが入った部屋の一つ手前の部屋で立ち止まったらしいチェックはそう告げると部屋へ入って行く。それに続いてもう一人入室したようだった。護衛をしていると言っていたのでおそらくはナイトラだろう。それならシーナは廊下で待機しているのだろうか。見ることが出来ない分、どうしても推測の域を出ない。


「一か八か近付いてみるべきか?」


 いや、しかしそれでは野次馬のようではないか。そんな真似は御免被る。プライドが邪魔してクジュが動き出せないうちにあちらの状況は移り変わっているようだった。


「――だ! ―――と言って―――」

「ですから、俺は―――しか――」


 どうやら二人が怒鳴り合っているようだった。一人はチェックだろう。そしてもう一人はわからない。先程シーナが大臣がどうのと言っていたので大臣かもしれない。最初は二人のどなり声ばかりが響いていたが次第に怒鳴り声は増えていった。壁があるせいで内容までは聞き取れないが声が増える度にチェックが不利になっているようなのはなんとなく察することが出来た。


「……」


 どういう状況なのかというのはよくはわからない。もしかするとチェックの自業自得なのかもしれないし、大臣に難癖をつけられているだけなのかもしれない。部外者であるチェックにはそれを判断することは出来ない。それが歯痒くもあるが仕方ないことだ。糾弾されているらしいチェックに同情を覚えないわけではないがだからと言ってどうすることも出来ない。

 クジュはどうすることも出来ずにしばし身を潜め続けていると怒声はだんだんとおさまっていき最後には聞こえなくなった。落ち着いて音量を下げて話すことにしたのか、会話自体が終了したのか。しばし沈黙が続いたかと思えばドアが重々しく開く音が届いた。ドアが開け放されたおかげが会話を聞きとることが出来る。


「何度もしつこく言いますが貴方は王なのです。いつまでも駄々を捏ねていては国民に示しがつきませぬぞ」


 何度も繰り返し言われ続けてきたことなのかチェックは聞こえないとばかりに返事をしない。それに対して憤っているのか大臣達はクジュにさえ聞き取れるほど乱暴な足取りで部屋を出て行ったようだった。大臣の気はどうにも治まらないようで憤りは脇に控えていたらしいナイトラにも飛び火した。


「君も頑固な主君を持つと大変だな」

「仕事ですから」

「……ふん」


 ナイトラの冷めた反応が気に入らなかったのか大臣は鼻を鳴らす。その足音はどんどん遠のいて行った。シーナの見送りを断って帰って行く大臣達はシーナを嫌っているのだろう。そう思えるほどに彼等のシーナへの対応は冷めきっていた。大臣達の足音が聞こえなくなったあたりでシーナがチェックの名を呼んだ。


「チェック、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。心配すんな。俺の方こそいつも、」

「王、それ以上は」


 チェックが何かを言おうとしたところでナイトラがそれを遮る。緊張感を纏ったその声はこちらへ向けられているのではないかと錯覚してしまうほど鋭かった。実際、ナイトラの意識はクジュに向けられていたのかもしれない。クジュの気配に気づいていたからチェックの言葉を遮った。そう思えばますますクジュにはナイトラが気に食わなかった。


「チッ……」


 それでもこれまで三人に対して持っていた違和感はクジュの中で確実に拡大しつつあった。出来ればウォルが何も察することがないまま終わってほしいのだがそれは難しいだろう。


「あー……」


 絶えず呟くことで自身の声に侵食される不快感を味わいながらもクジュはその場に丸まって頭を抱えた。じわじわと内側から侵されていく感覚が思考力を奪っていくが今はこれぐらいがちょうどいいのかもしれなかった。

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