抱きしめた、蒼-episode 澤村 愛-
「歌手になりたい!」
だから、あたしは担任の先生にお願いしたの
文化祭でみんなの前で歌を歌いたい。って…
「先生、あたしね、文化祭で歌が歌いたいです!!ダメですか?!」
「どうした、どうした、急に!」
「度胸試しです!お願いします。」
「うーん。確か今年は蒼葉先生のサプライズ演目もやるみたいだし聞いてみてあげるよ」
「ありがとうございます!!」
職員室に戻った先生は蒼葉先生に文化祭の件に関して相談した。
どこか嬉しそうに。
「あ、蒼葉先生、ちょっといいですか」
「はい、どうしたんですか」
「うちのクラスの澤村愛って生徒が来月行われる文化祭で歌を歌いたいみたいなんですが、歌わせてあげてもよろしいでしょうか?…そんな時間あります?!」
「おー!!それは大歓迎です!!!」
「ほんとですか?!」
「ぜひ、よろしくお願いします」
「ありがとうございます。澤村も喜びます」
そしてーー文化祭当日
澤村愛はステージに立った。
チェック柄の超ミニスカート。
大好きな歌手の歌をみんなの前で披露した。
次の日から澤村愛の孤独な学校生活は始まった。
「お姉ちゃん、あたしね。もう抱え切れないかも…」
「どうしたの急に?」
「もう受け止めきれない…」
「愛は強い子だよ、人に合わせて話を合わせないし、誰かのあぁだの、そぅだの、こぅだの、って話に流されないし、偉いよ」
「うーん、そんなことはないよ」
「えっ」
「あたしだって…」
愛の言葉が、そこで止まった。
沈んだ空気を変えようと、お姉ちゃんは文化祭のときに聴いた、クラスメイトの歌の話をした。
「愛!そーいえばさ、愛と同じように文化祭で歌を披露した人、私のクラスメイトなんだけど、いつも一人でさ、でもなんだかいつも一人が楽しそうでさ…」
「あたし、すごい好き。あの未來って人が書いた詩。」
「そうだ、愛も書いてみれば!今、ここ[心]に溜め込んでる気持ち」
「うまく書けるかな…」
「大丈夫!見せるのは私だけだから」
「うーん…」
「いいじゃん、いいじゃん、書いたら教えてね!」
「書けるかな…」
澤村愛は教室で一人、毎日、この小さな教室の出来事を授業中も休み時間もずっとノートに書き留めていた。
書き始めて何日かが過ぎた夜。
「お姉ちゃん、できた…」
「えっ、書けたの!?読ませて×2」
「はい、」
愛はそっとノートを差し出した。
ー ー ー
I'm an idiot.-×××-
あそことは そう こころ
きみが奥に潜める本音なんてわからない
あの人はこの人の事をいう。
その人はあの人の事をいう。
この人はその人の事をいう。
さーて、このやりとりはあと何通りあるでしょう?
くだらない。
あそことは そう 居場所
きみが口に出さない本音なんてわからない
あの時はこの時のためだった
その時はあの時のためだった
この時はその時のためだった
さーて、そのできごとはいつお役に立つのでしょう?
めんどくさ。
知ってる。言ってる川にいる方が楽なこと
知ってる?言ってる川の方が言われてること
言葉は色を変え、形を変え、意味すら変え
(DOnBURACO)流れてく。
I'm an idiot.
いい加減気づけよ、バーカ。
あの人はこの人の事をいう。
その人はあの人の事をいう。
この人はその人の事をいう。
さーて、このやりとりはあと何通りあるでしょう?
アホくさい。
ー ー ー
お姉ちゃんはノートを両手で受け取った。
「愛ちゃん、すごい!すごい!すごいよー、この詩」
「嘘だ、、、。ほんとに、、、?」
「うん!すごい!すごい!まぁちょっと言葉キツめだけど…。でも、すごく良い!!」
「あ、ありがとう」
「どんな愛も愛だからね!こんな過激な詩を書く愛も好きだよ」
「口じゃ言えなかったこと、詩にしたら書けたんだ…」
「そっか、そっか、愛って色んな才能があるんだねー、いいな」
「お姉ちゃんだって絵うまいじゃん、あたし好きお姉ちゃんが描く絵」
「そーかなー…。」
お姉ちゃんは少し照れくさそうに笑った。
あたしは返してもらったノートを静かに閉じた。
今日、初めて誰かに読んでもらった。
たったそれだけなのに…
胸の奥が、少しだけ軽くなった気がした。
でもね、これから書き続けるかは
…わからない。
完




